第96話 転生者は異世界で何を見る? -魔吸石-
「そういえば……、体から何かが抜けていく感覚がするよ……」
眉間にしわを寄せながら瑞樹が呟く。
俺の後ろにいる瑞樹だが、それでも魔力が吸われてるということなのかな。
別に俺は何も感じないんだが……。
「私は特に何も感じないわね……」
魔吸石を見つめながらも、フィアは何も感じていないようだ。
まああれだけMPがあれば気づかないもんなのかもしれないな。俺もだけど。
じゃあ直接触っても平気かな?
倒れたままの人らしき物体を放置するのもアレなので、とりあえず魔吸石を遠いところにやりますかね。
「とりあえず近づくと危ないから、二人はここで待ってるように」
「はーい」
「お、おい! 危ないのは誠さんも一緒じゃねーかよ! 大丈夫なのか!?」
フィアは素直に返事をするが瑞樹は違った。俺のことも自分と同じこの世界に何も知らずに来たばっかりと思っているのかもしれないが。
「ああ、大丈夫だから気にすんな。それにこいつを放置しすぎるのもよくないだろうし」
俺は倒れている人物を指さしながらもその近くに転がっている魔吸石のほうへとゆっくりと歩いていく。
ちらりとうつ伏せに倒れる人物を見るが、目を覚ます気配は感じられず、身じろぎもしない。
視線を魔吸石に戻すと、しゃがみこんで無造作に掴み取った。
「……ふーん?」
さすがに直接触れると魔力が吸われているのがわかる……、気がする。
今まであんまり意識したことなかったけど、魔力が体から抜ける感覚ってのはこういうものなのか。
普段魔法を使うときにも体験しているはずであるが、自身で魔力を集めて放つのと、勝手に抜けていくのでは感じ方が違った。
なんとなくタダで魔力を吸われるのも釈然としないので、吸収されないように魔力をコントロールしてみる。
「うーん……。こんな感じかな……」
魔法を使う時と逆の操作……と似ているだろうか。まあなんとなく抑制できそうな気がしたところで、ふと本来の目的を思い出して魔吸石を遠ざけるために部屋の隅へと置いた。
「あ……、かなり楽になったかも」
距離が離れたことで瑞樹の険しい表情が和らぐ。念のため鑑定してみたが、MPが半分くらい減っていた。
「やっぱり魔力がなくなると体調も悪くなるみたいだな」
おっと、そういえば倒れてる人物を鑑定すれば魔力切れかどうかわかるんだったな……。
――――――――――――――――――
名前:ネッツ
種族:人族
性別:男
年齢:45
職業:学者 Lv3
状態:昏睡(小)
Lv:5
HP:159/179
MP:3/140
STR:69
VIT:57
AGI:35
INT:120
DEX:56
LUK:35
特殊スキル:
【鉱石鑑定Lv3】【植物鑑定Lv2】
――――――――――――――――――
おお、やべーな。一桁しか残ってないな。やっぱり魔力枯渇ってことか。なんかHPも微妙に減ってるけど何かあったのかな。……レベルの割にスキルも多いし。
しかし昏睡(小)か。ゲームだとゼロになっても関係なく動けたけど、やっぱり現実となると違うもんだな。体力だって、ゼロになるまで元気に動けるわけじゃないだろうし。
「おーい、大丈夫かー」
声を掛けながら倒れている人物を軽く揺すってみる。
……が、反応はないようだ。小と言えども昏睡は昏睡か。
「……目を覚ましませんね」
フィアと瑞樹も近くまで寄ってきて倒れた人物を観察している。といってもほとんどがローブで覆われているので何も窺い知ることはできないのだが。
「うーん……、このまま目を覚まさないというのも、俺たちの野宿が確定しちまうから避けたいところだよなぁ」
「そういえばそうだった……」
今まで忘れていたのかのような呟きを漏らすと、瑞樹は勢いよく倒れた人物の背中をバシバシと叩き出す。
「おいっ! 起きろよ!」
必死に起こそうとしている瑞樹をしばらく眺めているが、一向に目覚める気配はない。
埒が明かないので俺も強硬手段に出ることにする。
瑞樹を制してからうつ伏せに倒れた人物の背中に手を置いて魔力を練る。そして少しずつ触れている手から背中に対して注いでいく。
もちろん鑑定して相手のMPを確認しながらである。
すると、最初は何も変化のなかったMPだが、徐々に増えていく様子が見て取れた。50ほどまで回復したところで手を止める。
「う……」
意識が回復したのだろうか、倒れていた人物からうめき声が聞こえた。いつの間にか昏睡(小)の状態も取れている。
「お、気が付いたみたいだな」
ピクリと身じろぎすると、緩慢な動作で両手を地面について四つん這いになる。そしてこちらを見上げるが、深いフードが邪魔でこちらが見えなかったようで、そのまま床に座り込むとフードを取った。
その顔は年相応のオッサン面だ。柔和そうな顔には困惑の表情が張り付いており、ボサボサになっている白とグレー交じりの髪と同じ色の無精ひげを生やしている。
「大丈夫ですか?」
しゃがみこんで覗き込む俺たち三人をゆっくりと見回すと、男が告げた。
「君たちは……誰だい?」
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