第46話 小太郎
くっそ! お前もか! 俺は先にフィアの問題を解決させたいんだよ!
うぬぅ、まぁ魔法書が使えるようになるまでもうちょっと時間があるだろうし、ちょっと電話でもしてみるか……。
「どうかしたんですか?」
玄関からリビングに戻ったところで、俺の渋面に気づいたのかフィアが尋ねてくる。
「ああ、早くフィアの世界に戻ろうと思ってたのに、小太郎から仕事の手伝いを頼まれてね。すぐ連絡くれって……」
「……小太郎さん?」
斜め上を見上げて考え込んでいるが、そういえばフィアには小太郎については説明してないな。
むしろスマホに興味が行ってさっぱり忘れ去られた感があるくらいだ。
「あー、中学……じゃなくて、昔通ってた学校での友人だな。たまに仕事を手伝ったりしてるんだよ」
「へー。……あ、もしかしてすまほで連絡を取るんですか!?」
相変わらずのキラキラした目でソファーテーブルの上に置かれたスマホに視線が固定されている。
そしてこちらをゆっくりと振り返り急かしてきた。
「ほら、早く連絡してあげないとダメじゃないですか!」
「……電話使ってるところ見たいだけだろ」
ジト目で見返しながらぼそりと呟くがどうも聞こえてないらしい。
なかなか動かない俺に焦れてきたのか、テーブルの上のスマホを掴んで構えると。
「マコトがしないなら、私がでんわしてあげましょうか」
なんて言い出した。
「ちょっ! それはやめて!」
ひったくるようにスマホを奪うとフィアを警戒するように睨み付ける。
「ほらほら、早く連絡してあげないと」
あくまでもニコニコとした笑顔で電話を勧めてくるフィア。帰りたくないからこんなことしてんじゃねーだろうな。
まあいい。連絡しようと思ったし……。
「へいへい」
諦めたような声でスマホを操作して小太郎を呼び出すことにする。
数回のコール音と共に小太郎が出てきた。
『おう、誠か。よしよし、ちゃんと生きてるな』
相変わらずである。お前の挨拶はそれしかできんのかと。
「ちゃんと生きて帰ってきたよ。んで、どうした?」
『んん? ……どこ行ってたんだ?
……ああ、いやそんなことはどうでもいい。それよりも仕事だ』
「おう、仕事ね。一応まだ暇になったわけじゃないから、話だけ聞くわ」
ちらりとフィアを見てみるが、ソファの対面から立ち上がるとなぜか俺の隣に腰かける。そして盗み聞きでもするように俺のスマホへと耳を近づけてきた。
「うおっ、ちょっと、近いって……!」
「いいじゃないですか」
ぷっくりと頬を膨らませてフィアが反抗するように耳をさらに寄せてくる。
『おいおい、また女かよ。ったく、忙しいのはそいつのせいじゃねーだろうな』
「はあっ!? ……か、関係ないだろ。そんなことより、何の仕事だよ」
どもってしまったが勘繰られなかっただろうか。ある意味間違ってないから否定しづらい……。
『あーそうそう、お前、高校生二人組の行方不明事件を知ってるか?』
……はあ? 知ってるも何も、むしろ当事者だよ。
「あ、あぁ……、高校生二人組ってもしかして……」
『そうだ。西條明と葛梅穂乃果の二人だ。今回葛梅の父親から個別に捜索依頼を受けてなぁ……』
「はぁ……」
余りにも身近な事件でさらに解決済みのため、気のない返事が漏れる。
『まったく手がかりが掴めないんで、お前のカンに頼ろうかと思ってな』
おいおい、藁にも縋るっつーか、俺のカン頼りかよ。
「なんだよ、そんなことか」
『――チッ、そんなこととはなんだよ。こちとらあちこち動いたが収穫なしなんだぞ』
俺の言葉に若干苛立った返答になる小太郎だったが気にしない。むしろ安心してください。
「その二人なら今現在進行形で帰宅中だ。もうすぐ自宅に着くだろ」
『――はぁ!? ……冗談も休み休み言えよ。なんでお前が……』
「なんなら本人に電話でもかけてみろよ。……あ、知らない番号からかかってきても出ないかな。まぁそこは親経由でもいいし。
……なんにしろ、今なら電話つながるぞ」
『……マジかよ。おいおいおいおい、マジかよ』
「おう、とうことで事件解決だな」
『いやいや、待て待て、まだだ!』
「なんだよ」
『動機はなんだ!』
「俺は誘拐犯じゃねえ!」
別件でされそうになってるが、こっちは違うからな!?
間接的に関わってるかもしれんが、あの魔法書については知らないことが多いし、なぜ明たちが召喚されたのかはよくわからん。
ん~、このあたりも調べた方がいいかな。と言っても異世界召喚か転生ものの小説で試すくらいしかできないけど。本当になんなんだろうな……。
『あ、いや、そういうつもりで言ったんじゃない。十日近くも行方不明だった原因が知りたいだけだ』
「それは知らん。俺は二人を保護しただけだ」
『行方不明の間に何があったか聞いたか?』
「いや聞いてないな。何せ事件を知ったのは二人に交通費を持たせて送り出した後だし」
『そ、そうか……』
それだけ言うと小太郎は何かを考え込むように沈黙する。
二人のフォローをするとは言ったが、それは両親に対してだけだ。
覚えてないことにするにしてもどこまで覚えてないことにするのか何も打ち合わせなどしていないし、今はまだ何もすべきではないだろう。
決してめんどくさいから知らないふりをしたとかじゃないぞ?
おーい、こっちはそろそろフィアの世界へ行こうかと思ってるんだが……。
『ああ、悪い。……そうだな、あとはこっちでなんとかなりそうだし、もう大丈夫だ。すげー助かった。ありがとう』
「お、おう」
『じゃあ何かあったらまた連絡する』
「わかった」
『じゃあな』
そうして電話が切れる。
厄介事と思ってたが電話一本で解決したな。電話してよかったかも。ちょっとだけフィアに感謝だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます