第32話 手がかり

『都内のキサラギ高校から突如、生徒二人の行方がわからず』


 検索結果の上位を占めるのは二人の生徒が学校から突如として姿を消したというニュースだった。すでに名前も公開されており、そこにはよく見知った名前が記載されていた。

 まったくもって目撃者や怪しい人物の手がかりも掴めていないとのことで、警察が公開捜査に踏み切ったらしい。


「ふえ~、なんだかわかりませんけど、この『ぱそこん』というのはすごいで……、って、あれ?

 これって、アキラさんとホノカちゃんじゃないですか?」


 開いたサイトでは二人の写真が公開されていた。もちろんそこには今朝見た顔と同じ写真が掲載されている。


「……えっ? 行方不明……?」


 キラキラした表情から一転、キョトンとした顔を経由して眉を八の字にして疑問を浮かべるフィア。


「ああ、どうやらそうらしい……。意味わからん……」


 自分も魔法書を使って異世界旅行をしているのだが、そんなことは棚に上げて理解不能の意を示す。


「じゃあアキラさんたちも魔法書を持ってるってことですか?」


 いやそんな怪しい魔法書がポンポンあっても困るんだが……。と言ってもフィアからすれば俺で二例目になるわけか。しかし……。


「それはないんじゃないかな。帰る方法知らないみたいだったし」


 確かに明は帰還方法を国王に尋ねていたように思う。もし魔法書を持っていてあの世界に行ったのなら、帰り方は知っているはずだ。何しろ本に使い方が書いてあるのだから。

 でも完全に同じ本が存在するかって言われると疑問だけどな。存在するにしても、一部が破れてたりとかするかもしれないし……。


「……にしても、この二人とってもリアルですね。こんな絵が存在するなんて……」


 あっさりと話題を他へと移すフィア。現代人が実際に異世界召喚されたってのにあっさりしたもんである。

 ってか、もともと不思議世界の住人だったか……。不思議現象には耐性があるのかもしれない。

 おっと、今はフィアよりも明たちのほうが重要だな。

 最悪放置するかとも思ってた邪教徒の世界だったが、少なくともこれで主人公である明と穂乃果は放置できなくなった。

 もうこの時点でフィアをモンスターズワールドの世界に返すという本来の目的は延期だ。異世界での冤罪より同じ世界の知り合いの安全が優先だ。

 一応目の前の危機は排除したとは言え、いつまた狙われてアンデッド化するかわからない。

 さて、どうしようか……。


「ああ、そうだ。本屋に行こう」


 考えるまでもなかった。そもそもこの話はすでに本になっているのだ。何巻まで発行されているかはわからないが、少なくとも所持している一巻以降もすでに発売されているはずだ。

 プロローグからいきなりストーリーの根本を覆した気もするが、主人公がアンデッドにならなかったこと以外は大幅に変わっていない……はず。

 ましてや敵の黒幕がそのせいで変わる可能性も低いんじゃないだろうか。……ただの希望的観測と言ってしまえばそれまでだが。

 だが、続巻にはその黒幕が載っている可能性が高いはずだ。それさえわかればこちらから打てる手もあるかもしれない。


 しかしあれだ。賊の襲撃防いでおいてよかった。実在する人間が人間辞めましたなんて笑えない。

 ストーリー上、見た目が生きてる人間とそうそう変わらないフレッシュゾンビ化すると言っても、そんな元人間を日本に連れ帰ったところで大変な騒ぎになるのは目に見えている。


「本屋……、ですか。……あの、私の世界に一度戻るんじゃなかったのですか?」


 戸惑いながらもワクワクした目で律儀に確認してくるフィア。帰りたくないのは分かっていたが、いざ帰らなくてよくなったと聞かされた戸惑いと、異世界の本屋という期待の間で揺れているのがよくわかる表情だ。


「ああ、明と穂乃果のことが気になってな……。まさか同じ世界の住人だと思わなかったよ……」


「そうですか……」


 そう言ったフィアにはなぜか誇らしげな暖かな笑顔を向けられた。

 と思ったのも一瞬で、すぐに目を輝かせた表情に切り替わる。


「あの……、ところで本屋というのはもちろん……、この家の外にあるのですよね……?」


 確かめるように慎重に尋ねるフィア。

 ああ、そうか。大人しく留守番……、なんてするわけがないか。家の中をいろいろいじられそうだし……。

 やっぱり連れて行くしかないか……。


「もちろんだ。……できるだけ目立つようなことはしないでくれよ?」


 家で何をやらかしてくれるのか不安に駆られるよりは、一緒にいて見守っていたほうが安心できそうだ。

 ……帰宅したらガスコンロの火で家が火事になってたとか笑えない。


「はいっ!」


 スマホを胸の前で両手で握りしめ、とびきりの笑顔で元気に返事をするフィアだった。

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