第22話 物語1 -襲撃の後-

「お、おい、一体なにがあった!」


 アイテムボックスから取り出したロープで襲撃者を拘束していると、城に詰めている騎士らしき人たちが二人やってきた。


「襲われたので返り討ちにしました。城の警備はどうなってんですかね」


 正確に言うと扉の前まで来てただけで未遂? なのだが、目だけ出して顔を隠した超絶怪しい恰好をしているので問題ないだろう。そういうストーリーだし襲撃犯で間違いない!


「なん……だと」


 城に賊など侵入するはずがないと激昂しかけたが、実際に目の前に転がる怪しい人物を見て風船が萎むがごとく勢いが萎える騎士の一人。


「フェスト! 応援を呼んで来い!」


 後ろにいたのは立場が上の騎士だろうか、勢いの萎えた騎士をフェストと呼んで命令を出している。


「――はっ!」


 意識を奪った状態の人間を四人、二人でどうにかするには無理だと判断したのだろうか。確かに万一にでも意識を取り戻して反撃されたりすれば、念を入れて増員した方がいいだろう。

 上司の言葉に復活したフェスト君は、踵を返して応援を呼びに去っていった。


「大変申し訳ございません。警備の者が役に立たず、勇者殿のお手を煩わせることになってしまって……」


 突っかかられたのでちょっと嫌味な返しになってしまったのだが、こう改めて丁寧にしかも『勇者』とか言われるとむず痒くてしょうがない。

 これはこちらも早々に態度を改めるとしよう。


「いえいえ、お気になさらずに……」


 苦笑を作りながら気にしていないことを伝える。襲撃されるのはわかってたので本当に気にしていない。


「ところで、こいつらはどうなりますかね?」


 寝転がっている怪しい風体の襲撃者を指して尋ねる。


「応援を呼びに行ったので、牢に入れて尋問でしょうね。

 ……まあそこからあとは勇者殿が気にすることではありますまい。あとは引き受けますので、ゆっくりとお休みになられてください」


「……そうですね。そうさせてもらいます」


 本来なら物語の冒頭であるここで主人公が無残にも殺されてアンデッド化するのである。襲撃目的なんて最初からわかっているので、特に問いただす必要もない。

 というか襲撃者の恐ろしい末路なども聞かされたくはないので、もうあとは完全に任せてしまおう。


「では」


 振り返って元の部屋へ戻ろうとしたが、扉には鍵がかかったままだった。

 そういえばテレポートのスキルで廊下に出たんだったか。っつかここが自分の部屋だけどよく考えたら王女様が寝てるんだよな。むしろ鍵かかったままでよかった。

 ひとまず危機は去ったので、このまま誘拐犯に仕立て上げられるのを回避するべく、王女様を連れてモンスターズワールドの世界に戻りたいところだが、さすがにこんな時間だとなあ……。

 まあ翌朝こっちの世界で召喚した勇者が二人して姿を消すのも問題あるか。

 魔法書の使用インターバル期間も不明だし、しばらくはこのままかな……。


「……はぁ」


 軽くため息をつきつつ回れ右をし、誰もいない王女様の部屋へと入っていく。幸いにしてこっちは鍵がかかっていなかった。

 応援を待ちながら意識のない襲撃者を監視している騎士には気づかれなかったようで、特に何も言われなかった。


「とりあえず寝よう。今日はもう大丈夫だろ……」


 とっくに深夜を回った時間になっている。もぞもぞとベッドへ潜り込むと即意識がなくなった。




「おはようございます」


 微睡まどろんだ意識の中、うっすらと聞こえてきた声に徐々に覚醒を促される。


「……ん、……うおっ!」


 目が覚めて早々に視界に映ったのは王女様の顔だった。


「あ……、お、おはようございます……」


 睡眠時間が足りていないはずだが、一日の始まりとしてのインパクトは絶大だったようで一気に覚醒した。


「……どうしてこっちで一人で寝てるんですか?」


 微笑を浮かべているが、なぜか目が笑ってないように見える。……なんか怒ってるんですかね?


「いや……、そりゃ眠くなれば寝るでしょ」


 何の言い訳かわからないが、言い訳になっていないセリフが思わず出てしまう。


「そう……、ですよね」


 若干目じりが下がる王女様。怒りが収まった気はするけど、朝から一体何なんですかね。


「……朝からどうしたんですか?」


 上半身を起こして王女様を見上げるように顔を覗き込んで尋ねてみる。


「えっ? あ……、朝ごはんの用意ができたみたいだから、起こしにきたの……」


 一瞬だけびくっと肩を震わせたかと思うと、視線を逸らしながらしどろもどろに呟く。


「あぁ、そうなんですか。ありがとうございます。じゃあ行きましょうか」


 なんだかよくわからない王女様ではあるが、百面相が面白かったのでよしとするか。

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