第13話 モンスターズワールド -呼び出し-

 城門衛兵詰所に来訪を告げて通された場所は、王城敷地内にある騎士団詰所のような建物のとある応接室だった。

 特に飾り気のない室内ではあるが、さすがに王城敷地内だけあって腰かけているソファは柔らかい。

 二十畳ほどもある広い室内を落ち着きなく見回すのはそこに案内された俺だ。


「一体誰の呼び出しだよ……」


 一昔前にやりこんだモンスターズワールドというゲームについてじっくりと思い出してみる。確かゲーム内では騎士昇格試験の後にこれといったイベントはなかったはずだ。

 そういえば剣士になったときも王女と対面するというイベントがあったな。今思えばあれもゲームでは発生したことのないイベントではある。

 ……うーん。自覚がないままにして何かやらかしたんだろうか?

 まったく身に覚えのないことを想像しながら唸っていると、ふとドアがノックされる音が聞こえた。


「はい、どうぞ」


 反射的に声をかけるとドアが開かれる。


「お待たせしてしまいました」


 そこにいたのは一人の少女だった。

 赤みがかった金髪をストレートに腰まで伸ばした碧い瞳の少女だ。

 足首まであるひらひらとした青いドレスを優雅に着こなし、微笑を浮かべていたのはフィアリーシス第三王女だった。


「――えぇっ!?」


 応接室のドアを閉めると、ソファに座ったまま固まっている俺をスルーして対面のソファに腰を掛ける。


「急の呼び出しに応じていただいてありがとうございます」


「――――」


 えーっと、何がどうなってんの? いきなり王女様のほうからこっちに接触してくるなんて……。

 ゲームじゃこの王女様とはオープニング以外じゃ、各種お祭りとか闘技場でのイベントでちら見できるくらいしかなかったはずで、向こうからくるものはなかったはず。

 あー、それはゲームの主人公だからってことなのかな。第三者としてゲームに入り込んだ場合はその限りでもないのかも。

 しかし王女様かわいい。


「ありがとうございます」


 微妙に頬を染めてもう一度同じセリフを漏らす王女様。なんだ、俺の心の声が漏れていたのだろうか。


「えー、マコトと申します。よろしくお願いします」


 とりあえず自己紹介だ。相手は有名人だが、向こうはこちらの名前も知らないだろう。前回のやり取りがあるので「おそらく」だけど。


「はい、改めまして。ブレイブリス王国第三王女、フィアリーシス・フォン・ブレイブリスです」


「ところで……、お一人ですか?」


 お互いソファに座ったまま自己紹介を終えると、気になったことを問いかける。

 以前遭遇した時は後ろにおっかない護衛騎士っぽいのが二人いた気がしたが……。


「はい。……敷地内は一人で大丈夫なんです」


 うん? 外に出るときは道案内がいないと迷子になる? ……いや、王女様だし護衛が必要ってことだよね?

 苦笑を浮かべる王女様にこれ以上の質問をするのは躊躇われた。

 とりあえず本題に入るべきか。


「そろそろ本題に入りましょうか。

 ――私にどういったご用件でしょうか」


 俺の言葉に居住まいを正すと表情から苦笑が消え、真剣なものに変わる。


「その前にもう一度確認したいことがあるのですが、……あなたは魔術師ではないんですよね?」


 ……またですか。えらい拘りますね。騎士になったばっかりってのは知らないのかな……。

 改めて自分のステータスを確認してみる。


 ――――――――――――――――――

 職業:マジシャン Lv31

    ハイウィザード Lv3

    剣士 Lv29

    騎士 Lv1

    モンク Lv27

    シーフ Lv23

    商人 Lv20

    僧侶 Lv21

    ソーサラー Lv18

    魔導師 Lv17

    召喚師 Lv14

    時空魔道師 LV12

    調教師 Lv10

 ――――――――――――――――――


 生憎と『魔術師』という職業はないが、それに相当しそうな職業は数多くある。うーん、どうしたもんか。頑なに隠す必要もないっちゃないんだけど。


「ついさっき騎士になったばっかりですよ」


 苦笑交じりにそう答える。


「……そう、ですよね」


 明らかに肩を落として俯き、落胆した形で力なく呟く。


「――でも」


 続けた俺の言葉にハッとして顔を上げ。


「魔法が使えないこともないですよ」


「――えっ?」


 余りにもがっかりした様子に耐えかねて、隠していたわけではないがちょっとした秘密を打ち明ける感覚で教えてあげる。


「内緒ですよ?」


「えっ、じゃあやっぱりあの本も……」


 ん? 本? 本というと元の世界の謎の古書店で手に入れたものが真っ先に思い浮かぶがまさか。


「……本がどうかしましたか?」


「あ、そうでした。あの、ここからが本題なのですが……、お願いしたいことがあるんです」


 もしかしてこの本のことを知っているのか。くれと言われても俺が帰れなくなるのであげることはできないが。

 自分の住んでいた世界とは異なる世界へ行けるこの本のことだ。異世界人が知っていてもおかしくないのかもしれないが……。

 それでもココは俺のいた世界の人々が作り上げたゲームの世界ではないのだろうか。ともすればそこからしかココには来れないはずで。


 ――まさかね。


 とりあえず話だけでも聞いてみるか。王女様のお願いを断れるかどうかは置いといて。


「はい、なんでしょう」


「その……、訓練場で初めてお見かけしたときに持っていた本を、見せていただけないでしょうか」

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