漆
音々side
58
―広島市東区、社宅―
3LDK、決して広くはない社宅に守田家は5人で住んでいた。
守田紘一、蛍子、まだ独身の美紘伯母ちゃんと瑠美お姉ちゃん。私の曾祖父である
そこに私達が転がり込んだのだから、狭さは一目瞭然だ。
結婚式を無事に終えた守田家は、みんな心なしか寂しそう。私も姉のさくらが嫁いだら、同じ気持ちになるのかな。
嫁ぐ気持ちは理解できないが、いつ元の時代に戻れるのか……、どうすれば家族のもとに戻れるのか……、その手段もわからず時空の狭間を漂う私には、家族と離れ離れで暮らす寂しさは理解できる。
行く当てもない私達。祖父に暖かく迎えられ、内心ホッとしていた。
「お父さん、2人は県外から来たんでしょう?ビジネスホテルでもとってあげたら?狭い社宅だと、2人とも気兼ねするでしょう。ねぇ、嫌だよね?」
瑠美お姉ちゃんの言葉を、祖父ははね除ける。
「ホテルなんかとらんでええ。お父さんとお母さんはリビングで寝るから、桃弥君と音々さんはわしらの部屋を使うてください」
「えっ……!?もも……と同じ部屋ですか!?」
「従兄弟なんだから、別に構わんじゃろう」
祖父は私達の嘘に付き合ってくれているのかな?
もし私達のことを覚えているなら、従妹でないことは承知のはずだ。
「俺がリビングで寝ます。ねねは瑠美さんの部屋でお願いします」
「えー?6畳の部屋に3人で寝るの?やっと2人になったのに」
瑠美お姉ちゃんが口を尖らす。
「今まで綾と3人で寝ていたんだ。寝れんことはない。音々さんは娘と同じ部屋でも構いませんか?」
「……いえ、私もリビングで寝ます」
桃弥君と離れるのが怖い。1945年にタイムスリップした時みたいに、離れ離れになるのが怖い。
「みんな、部屋割りはその辺にしてお茶にしませんか?綾の結婚式も無事に終わり、なんだか気が抜けたわね」
祖母はみんなのお茶を入れながら、ゴタゴタしている私達に座るように促す。美紘伯母ちゃんも瑠美お姉ちゃんも、祖母の言葉には素直に従った。
いつの時代も、父親の威厳はないみたいだ。
「桃弥君、音々さん、ちょっといいですか?」
祖父は一口だけお茶を口にすると、桃弥君と私を寝室に呼んだ。
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