#9


 応接室にはカメラマンの男性1人とインタビューアーの女性1人が取材の打ち合わせをしているのか何やら話していた。

『どうも、お待たせしました』

『本日はよろしくお願いします。メトロポリタンテレビの斉藤良子(さいとうよしこ)です』と少し茶色く染まった長い髪をなびかせて斉藤は名刺を差し出しながら挨拶をした。

『鳥飼楓です』楓も名刺を差し出した。

『ではさっそくよろしいですか?』

『どうぞ』

『現在≪鳥飼インダストリー社≫では"ナインゲート・ブリッジ”建設に大変力を入れていますが、橋の建設には反対意見も出ている中での建設についていかがお考えですか?』

『確かに"ナインゲート・ブリッジ”はその名の通り第9地区を都心からの新たな入口とする計画なので反対意見もありました。ただ"ナインゲート・ブリッジ”は第9地区を腐敗、貧困から救う切り札だと考えています』

『どのような意味合いで切り札だとお考えですか?』

『まず大きな要因として雇用です。彼らにはまた働ける環境が必要なんです、そこから九十九で遅れを取った地区の発展と開発が始まると考えています。私は橋の建設をその第一歩として地区の再生を目指しています』

『橋の建設には第9地区の住民の雇用が多いようですがそのような想いが込められていたんですね』

『僕は九十九で生まれ育ったんでね、第9地区を"九十九唯一の闇”のままにはしたくなかったんです』

『ただ現在第9地区の治安は悪化傾向にありますが・・・』と言いかけた時、斉藤良子の話を遮るように楓は一言こう告げた。


『悪には屈しません!』


 一瞬、張り詰めた場の空気を戻すようにインタビューアーの斎藤はその後、橋のことや若きリーダー”鳥飼楓”の人物像など一通り話をし、その日の取材は終了した。



 2




 日が沈み漆黒の闇へと変わった第9地区港埠頭にあるコンテナ内には数名の男達が集められていた。


 座り込んでいる男達の目の前には酒や食べ物などが置いてあり男達はそれらをむさぼりつくようにして食べたり飲んだりしていた。

『いいのか?こんなにもらって』男達の1人が顔半分を白いマスクで隠したファントムに話しかけた。

『気にするな。好きなだけ食べろ』

『わるいなぁ』

『ところで“ナインゲート・ブリッジ”についてどう思う』ファントムは男達の輪の中に混じり同じように座り込みながら唐突に尋ねた。

『建設に第9地区の人たちの雇用もあるし、橋ができれば地区は良くなるんじゃないかな?』1人の男は目の前にある食べ物をむさぼりつくように食べながら答えた。

 さらに別の男は『第9地区が新しい入口になれば商売も出来ると思うし、イイ方向に向かってると思うぜ』

『そうだ、そうだ!』男達すべてが橋の建設には好意的なようだ。

 ファントムは立ち上がると男達に訪ねた。

『ホントにそんな夢物語を信じてるのか?』

『?』

『橋1つ造っただけで地区が良くなると思うか?』

 ファントムはさらにつづけて『なら何故お前たちはまだ無職なんだ』

『そりゃーすべての人間を雇う訳にはいかないだろう』

『言い方を変えよう。何故お前たちは選ばれなかったと思う、それはお前たちに能力が無いからだ。ナインゲート(第9地区)の人間を雇って地区を活性化させると言ってはいるが結局は雇う側は能力のある奴を選ぶんだ』

『でもよーそれで地区が良くなったら俺達にも仕事が回ってくるってことだろ?』

『いいか、結局選ぶ側は"出来る”人材を欲しがる。地区がこの先もし良くなったとしてお前たちに仕事が回ってくるなんて保障はどこにもない、さらに言えば"出来る人材”がこの先選ばれ続ければさらに地区内格差が生まれてくる』

『そう言われれば・・そうだよな・・』男達の顔色が見る見る不安な表情に変わってくのがわかった。

『今、働いてる奴らが稼げるようになってこのままナインゲート(第9地区)に留まるかどうかもわからない、より安全な地区へと移るかもしれない。そうなれば結局ナインゲート(第9地区)は貧困に苦しむままだ。そして職につけてないお前たちにもなんの見返りもこない』

『・・・じゃあ・・どうすればいいんだよ』男達の目が虚ろ虚ろしている。

『どうするかって?それは簡単なことだ。またやつらをお前たちのステージに引きずり降ろしてやればいいんだ』

『橋の建設されなくなれば・・・』男達は吐き出すように呟いた。



≪悪には屈しません!≫


テレビ画面には鳥飼楓のインタビュー特集が映し出されていた。


ファントムはその画面を見ながらつぶやく『こういう奴は精神的に痛めつける方が効果的なんだよ』

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