part.3-END【全滅ルート】

「ピロピロピロピロピロ」

「えぇ。ありがとうございます、先生」

「ピロピロピロピロ」

「そうですわね。その進路についてはいずれ考えますわ」


 脱出後、アシテッドは教師から表彰され、賞状を貰った。この賞状はバグ技でも出にくいアイテムなので、完全クリアするならここで貰うべきアイテムだ。

 教師の言語がおかしい気がするが、早送りしているだけなので特に気にしないでもいい。


「や、やっと帰れた……」


 するとドランがボロボロの状態でダンジョンから帰ってきた。


「おかえりなさいませ、ドラン様。ピロピロ。色々とお疲れになったでしょうピロピロ」

「ピロピロ。今日はけっこう大変だったからねピロピロ。さっさとベットに戻ってピロピロ」

「ピロピロピロピロ」


 僕達はドランに対して労いの言葉を送った。しかしドランは早送り言語が聞こえなかったらしく、表情は不快そうである。


「なんで三人とも合間合間でピロピロ言ってんの。ルッツに至っては普通の言語すら挟んでないし」

「乱数調整のため、合間合間で早送りしておりますの」

「何をそんな頻繁に調整してるんだよ、お前は」

 

 ドランはいつものしかめ面を浮かべ、ため息をつく。


 まったくもってその通りで、アシテッドは最初から最後まで乱数調整の事ばかり考えている。はたから見れば頭のおかしい人物だろう。

 しかしこれがスピードラン走者の生き方なのだ。一瞬一瞬を切り取り、先人の考え付いたテクニック、ウルテク、バグ技を総結集して緻密に計算してたどり着ける境地。この境地を皆に知らしめることこそ、彼女の生きる道なのだ。


 きっとアシテッドとドランは分かりあうことはできない。あまりにも生きる世界が違うのだから……。


 ――と、思いきや。


「……まぁ、ダンジョン攻略に攻略してくれてありがとう。そこだけは感謝しておく。でもちゃんとルッツは元に戻しておけよ。でなきゃぶん殴る」


 ドランは意外にも、割と好意的な反応も発言したのだ。普通のルートならドランは呆れながら帰るだけなのだが、アシテッドに対して感謝の言葉を放つだなんて珍しい。もしやこれは誰も見たことが無い新バグなのだろうか……?


 アシテッドは少しだけ口角を上げて笑っている。スピードラン中であるため操作チャートに制限がある彼女にとっては、最大限の喜びの表現だ。


「ふふふ。まさかドラン様からおほめ頂くなんて。ありがたいですわ」

「ふん。だが予め言っておくが、不正が明るみになったら絶対に助けてやらんからな。今は世界自体がおかしいから見逃しているだけだぞ」

「そうですか。ふふふ」

「まったく」


 ……喧嘩していた二人だが、数か月ぶりに良い雰囲気になった気がする。ルッツが正常な状態なら、ささやかな嫉妬のセリフの一つでも吐いて場の空気を悪くするかもしれない。だが幸い、ルッツがバグってそういう台詞を吐かない状態になっているため、今回は問題はないだろう。

 とりあえず先ほどの好感度バグは、ちゃんと研究してRTAルートにも組み込めるように考えたい。新バグの考察も、タイムアタックには必要な事柄なのだ!



「あ、そうですわ」

 アシテッドはふと何かを思い立ったのか、懐から真っ黒の球を取り出す。そしてそれをドランに手渡した。


「ドラン様。今日の思い出の記念に、これを差し上げます」

「? これ、さっきのバグったオーブじゃないか」

「えぇ。先生から特別に頂きましたの。今回はドラン様に差し上げますわ。とても強力な効果がありますので、持っておいてくださいね」

「強力な効果ねぇ……。まぁ、受け取っておこう」


 アシテッドからプレゼントされたのは、さきほど生成した真っ黒オーブ。それに対しドランの表情は困ったような顔つきではあるが、内心は嬉しいようだ。と言うか、僕達は内部好感度はツールで見えているのでうれしいかどうかはすぐ分かる。先ほどの会話との相乗効果で、最高のプレゼントとなっただろう。


「えーと、それでこのオーブの名前はなんだったか? 長すぎて覚えてないな」

 ドランがオーブを見つめながらそう言うと、アシテッドはにっこりとオーブの名前を教えた。



「『巨大な核爆発する時限式の危険なasdfmklertsjkのオーブ』が正式名称ですわ。長すぎるので普段は『asdfmklertsjkのオーブ』と呼んでます」

「……は?」

「『巨大な核爆発する時限式の危険なasdfmklertsjkのオーブ』ですわ」



 ぽかんとするドラン。にこにこと笑うアシテッド。見つめる僕。バグるルッツ。その空気は一瞬、ヒヤッとした緊張に包まれた。

 そんな緊張の中、黒いオーブは鈍く光り始める。かなり怪しい、鈍い光。


「あ、あの。なんかその物体、点滅してない?」

「まぁ、『巨大な核爆発する時限式の危険なasdfmklertsjkのオーブ』ですから。もうすぐここいら一体を巻き込んで爆発するサインですわね。まぁこれくらいならみんな死ぬだけですから大丈夫ですよ」

「皆逃げろおおおおおおおおっ! 死ぬぞおおおおおおおおっ!!」


 ドランは黒いオーブを投げ捨て、大声で叫ぶ。次第に洞窟入り口にいた生徒達は、ドランを中心に大パニックに陥った。当然だ、危険物質がすぐそばにあるのだから。


 だが仕方ない事だ。完全クリアのためにはここで一回全滅して教会にワープした方が、学園寮に戻る時間が短縮できる。なのでアシテッドは予めオーブをバグらせ、使全滅するように仕掛けていたのだ。現実ではありえない非人道的行為だが、スピードランでは時間短縮のための常套手段だ。ドランには悪いが、僕らと一緒に一度死んでもらおう。



「アシテッドの馬鹿野郎ーーっ! なんであんなの作ったんだあっ!」

「我々は死ぬでしょうが、試験には合格したので問題はありません」

「問題しかないんだよぉーーーーーーっ!?」




 こうしてドランの叫びが響く中、世界は核の光に包まれ滅びました。ですが試験には合格したのでなんら問題はありませんでしたとさ。めでたしめでたし。

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TAS (ツール・悪役令嬢・スピードラン) momoyama @momoyama

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