第310話 思えばいと疾し18


「暴動だと!?」


「まだ城内には入られていないが……」


「鎮圧に兵力を回せ!」


「将軍と臣下を人質に取ったのだ!」


「こちらは十分だ!」


「は!」


「すぐに手配を!」


 慌ただしい様子の城内だった。


「おーおーやるやる」


 城に忍び込んでいる一義は、苦笑していた。


 思ったより、プロパガンダは上手くいっているらしい。


 こういう場合に備えて、隠し通路や隠れ部屋が、あちこちにある。


 今は慌てている兵士たちを、上から俯瞰し、横柱を歩いている。


 忍者。


 一義の場合は『元』だが、実力は衰えていない。


 天井の隠し扉を開けて、上階へ。


 隠し通路であるため、敵には見つからない。


 其処から、更に、大奥の間へ。


 側室が驚いていた。


「大声は禁止で」


 すぐさま、口を押さえる。


 冷静になった側室に、将軍の居場所を吐かせる。


「おそらく最上階」


 と。


「馬鹿と煙の理論か……」


 嘆息。


「褐色の夷……あなたは……」


「暇をあかした自由の敵です」


 ウィンクして、更に上階へ。


 時折、屋根を伝って、次なる階へ。


 天守閣の最上階。


 その屋根のスレスレに、身を置く一義。


 ――敵は五人。


 言葉でなく思念だ。


 主要な人質は、此処に集められており、将軍から宰相やら大将やら中将やら。


 紐で括られており、身動きが取れない様子。


 敵方は、刃物を持って警戒。


「にしても」


 とは呆れ。


 おそらく首魁の集団なのだろう。


 白装束で『自由万歳』と書かれた……はちまきをしている。


 ベタと言えば、この上なくベタ。


「暴力で支配して何の自由か?」


 とは思うも、こういうのは理屈ではない。


 ネオコンなら、尚更だろう。


「致し方なし……か」


 努力の一つも、しておくものだ。


 努力も力だが、卑屈にならずに済むのは、有り難かった。


 キュキィ、と弓弦を絞るような、音が響く。


「?」


 何の音か?


 そう思案したネオコンの首魁たちは、首を断たれて死んだ。


 血が噴き出す。


 さすがにグロテスクだが、この際、将軍には、堪忍して貰うしかない。


 気安く会話で交渉すれば、まず真っ先に、将軍の首元に刃が添えられただろうから。


 鋼糸術。


 鋼の糸で、離れた人体を切断する……暗殺術だ。


「よっと」


 屋根裏から、飛び降りる。


 縛られている征夷大将軍に、慇懃に一礼。


「僭越ながらお救いに参上しました」


「汝が……私を……?」


 将軍は、驚きに目を開いていた。


「汝にトラウマを与えた私をか?」


「そちらについては一切の非は私にございますれば」


 さらに鋼糸術。


 将軍と家臣の、縄を切って解放する。


「まさか外で都民を扇動したのは……」


「民衆はアイドルに弱い。これもまた真理ですな」


「さすがと言うべきか。エルフの忍は業の深い……」


「おかげ様で恩を少しだけ返せ申しました」


「七代忘れんよ」


「然程の事はしておりません。礼ならば私ではなく抗った民衆にお願いしたく存じます」


「聞き取ろう。私を支持してくれた民衆には感謝を表明する」


「恐悦至極」


 また一礼。


「大鬼殺しも健在か」


「なべて世は事もなし……ですね」


 苦笑い。


「今も団子屋で?」


「ええ。かしまし娘が精力的に」


 当人は、本を読むか……団子を食べるか……茶を飲むか……。


「ニートです。はい」


「救国の英雄がニートか」


「痛快ですな」


 臣下たちも笑った。


 この寛容さが、政治家に必要な物だろう。


「では私はこれで」


 斥力場を展開して、直上の屋根裏へ。


 そのまま、ヒロインたちに、合流するのだった。

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