第308話 思えばいと疾し16


「もはや団子屋にあらずや」


 そんな様子だった。


 長蛇の列が出来て、団子屋は大盛況。


 座学庵異国部の生徒たちは、一人も欠けずに、美少女に成長した。


 彼女らが、割烹着を着て、客引きすれば、そりゃ当たる。


 団子の材料の買い付けに、誤算が出るほどだった。


 そんなわけで、書き入れ時でもないのに、書き入れ時気分な……団子屋亭主とヒロインたち。


 が、ニュースは、それだけで終わらなかった。


「城が占拠された」


 そんなバッドニュースが、団子屋まで鳴り響いたのだ。


「は?」


 真っ先に疑ったのは、一義だ。


 一義か、かしまし娘なら、一人でも城は占拠できるだろう。


 けれども、


「そんな例外が二人も三人もいてたまるか」


 も本音だった。


 王都民の興味関心は、城に向かい、一義たちも城へと足を運んだ。


 さすがに、団子を売りさばいている場合ではない。


 城……天守閣から(魔術で補助しているのであろう)宣言が鳴り響いた。


「我々はぁ! ネオコンサバティズムである! 秩序と正義に乗っ取り! この専制国家を打ち倒す者!」


「ね……ネオコン……」


「何?」


 と異国部の生徒たち。


「要するに暴力革命」


 説明になっていないが、要点としては一理ある。


「ははぁ」


 と一同。


 顔に、


「どうでもいい」


 と書かれてあった。


「とはいえ征夷大将軍が人質とはねぇ」


 そういう情報が、人伝いに聞こえてきた。


「一義先生ならどうにか出来るのでは?」


 ゼルダが、提案した。


「まぁ人質無視して皆殺しにしていいなら可能だけどさ」


 殆ど不敬罪だが、だいたい一義の能力は、そう云ったものだ。


「自由主義と民主主義がテロリズムに奔るってのも皮肉だなぁ」


 仮に権力を手に入れても、民主主義のもと投票を行なうと、没落しそうだ。


 というよりするだろう。


 民主主義が、最も敵に回してはいけないのが『世論』であるから。


「まぁここで手をこまねいていても仕方なし。対処に出るとしましょ」


「無精の一義先生にしては積極的ですわね?」


「将軍様には頭が上がらないんだよ」


 その寵児を…………守れなかったのだから…………。


 月子。


 ズキン、と胸が痛む。


「寝ているわけでもないのになぁ」


 そういう問題でも無かろうが。


「この国がどうなるのか?」


 それが都民の不安だった。


「じゃあ作戦」


 一義が、大衆から少し離れたところに、同窓会メンバーを集める。


「――――」


 説明し終えたあと、返ってきたのは意外性だった。


「情報戦ってのはこんなところだよ」


 一義は肩をすくめる。


 が、他に方法が無いのも事実。


 というより、


「よりにもよって、超戦術級の異国部同窓会が集まった時期を選んで、暴力革命を始めたテロリストたちが哀れにすぎる」


 と言えた。


「将軍は我らが手の内にあり。殺されたくなければ精神を律し、速やかに解散せよ」


 ネオコンの兵たちは、衆人たちを武器と魔術で脅して、統制し、締め付ける。


「支持者のいない悲しさよ」


 南無三と印を切る。


「一義先生は単独で大丈夫ですの?」


「暗殺に一番向いてるしね」


 城の構造も、把握している。


 避難通路から、逆を辿れば、城内には入れるのだ。


「ま、決戦力はそっちだけどね」


 追い詰める役目は、確かにヒロインたちが主だろう。


「じゃ、そういうことで」


 一義は、場を立ち去った。


 城内に潜り込んで、人質の解放。


 ネオコンが、王都だけで展開されているとは思ってもいない。


 が、王都が盤石なら、周囲も付いてくる。


 そして、そのためには、可憐な乙女のアイドル性が、どうしても必要だったのだ。


「舞台を台無しにされるのは嫌だけど、台無しにするのは興奮するよね」


 とても悪質な御言の葉だった。


 観衆の統制をしているネオコン兵の目を盗んで、近くの空き家に入る。


 隠し階段。


 地下への。


「備えあれば憂い無し……か。何してるんだか」


 それは誰にもわからない。

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