第299話 思えばいと疾し07


「いっちぎ先生~!」


 鉛色の美少女が、飛びついてきた。


「先生は変わらないですね~!」


 懐いたワンコの様な有様。


 今日は快晴。


 テラス席で茶を飲んでいた一義に、鉛色の美少女は接触する。


 名をアーシュラという。


「アーシュラの中身もあんまり変わってないね」


 ワンコ。


「今が青春です!」


 名そのものは、結構、知られている。


 弓は、基本的に大陸でも採用されている武器だが、和の国では「弓道」と呼ばれる形で、嗜みの一種となっている。


 和の国を巡って、弓道の道を邁進。


 結果、大会で、優勝を総なめする天才弓手――『魔弾の射手』として、アーシュラは注目されていた。


 王都でも、近々、弓道の大会があるため、此方に寄ったのだろう。


「団子食べる?」


「食べるっす!」


「お茶は?」


「飲むっす!」


 ワンコ。


「おや。アーシュラ様」


「姫々先生!」


 アーシュラにとっては、心の師匠だろう。


「そういえば大会がありますね」


「です!」


「御活躍のようで」


「先生のおかげです!」


「奢りますよ。何でも注文してください」


「とりあえずみたらしと緑茶を」


「承りました」


 そして一義と二人、テラス席。


「魔術の方はどうなの?」


「とりあえず矢に関しては概ね」


 平然とアーシュラ。


 火矢。


 毒矢。


 自動追尾付与。


 それらがハンマースペースから現われるというのだから、銃よりタチが悪い。


「今はもっぱら弓の方を研鑽中です」


「弓」


「強弓の威力を普通の弓で出力したり何だったり」


「魔術も極道だね」


「ですです」


 茶を飲む。


「大会は優勝を?」


「無論」


「声かからないの?」


 ――魔弾の射手。


 アーシュラの異名だ。


 一矢一殺。


 であれば戦力として、この上ない。


「人殺しのために学んでいるわけでもないので」


 本人はさっぱりしたものだった。


「弓道は楽しい?」


「すごく」


 良い笑顔。


「なら良し」


 別に出世が全てでもないだろう。


 当人が良いなら、口を挟む余地もありはしない。


「やっぱり姫々先生のお茶は美味しいですね」


「可愛いしね」


「銀色の髪は憧れますね」


「なに。アーシュラだって負けてない」


「そうでしょうか~?」


「自覚無いの?」


「えと……その……」


「何々?」


「最近、男の人から……言い寄られてはいますけど」


「良い事だ」


「でも……処女は一義先生に捧げたいじゃないですか?」


「同意を求めないで」


 困る事この上ない。


「先生より格好良い男の人っていないですし」


「それはアーシュラの世界が狭い証拠」


「本気で言ってます?」


「照れるけどさぁ」


「惚れてますよ」


「かしまし娘に殺されるよ?」


「ワン!」


 その辺は分かってるらしい。


「宿は取った?」


「何でも大会参加者用に間取りはあるらしいです」


「なら良し」


「?」


「宿が決まってないなら、うちの宿舎に泊めようかとも思ったけど」


「泊まる!」


 快活に肯定された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る