第272話 一年後11


「助かりました」


 とはゼルダの言葉。


「何か?」


 と問うと、


「座学庵祭についてです」


 そんな答え。


「姫々が頑張ってるね」


「ご主人様のためですもの」


「女装させるのも?」


「ご主人様のためですもの」


 どう扱おうか?


 時折、黒い感情が一義を支配する。


 ゼルダは教養講師。


 一義とかしまし娘は魔術講師。


 ゼルダも魔術は使える。


 見せて貰ったレベルで言えば、例える対象が少ないくらい優秀だ。


 エルフの血の為せる業だろう。


 亜人と言っても色々居るが、エルフ並びにハーフエルフは魔術適性に恵まれる。


「……っ」


 ズキンと形而上の針が心臓に刺さって、心的外傷から無形の出血を促す。


 月子。


 灰かぶりのハーフエルフ。


 適性を持ちすぎたが故に、強力な大鬼を産みだした悲劇の姫。


 それからだ。


 一義がマジカルカウンターを恐れるようになったのは。


 自分自身には適用されない。


 そもそもが、


「前提として狂っている」


 そんな下地が確かにある。


 元より将軍家に使える諜報員として育てられたのだ。


 魔術の獲得に際し、


「今思い返すと間接的な殺人未遂だねぇ」


 と思わされる。


 座学庵では、手取り足取り生徒に魔術を教える身ではあるが、顧みるに、


「良く死ななかったなぁ」


 と思わせる月子ほどでは無いにしてもトラウマの一つだ。


 エルフは長寿であるため、何をするにしても時間に猶予がある。


 そこに、


「スパルタ訓練」


 が乗ればそれはまぁ怪物も出来上がる。


 実際に一義は一種の最強であるし、その一義に対抗できる里のエルフも指折り数えられる。


 一義が座学庵で講師をしているのは、


「護衛としての能力損失」


 が原因だ。


 一義にとっても、


「魔術は鬼門」


 といえるため、かしまし娘を創り出した。


 おかげでキャパシティはハードの殆どを使役している状態だ。


 仮にコンピュータなら熱障害に陥るレベル。


 それで尚平然としているのが、


「ある意味怪物」


 との周りの評価。


 そこから巡り巡って座学庵の魔術講師。


 団子茶屋でも十分食っていける。


 働いてはいないが。


 とはいえ、


「そもそもかしまし娘が自分の能力」


 という意味では、


「当人がどうであろうと」


 との注釈を付けて、


「三倍のマンパワーで働いていることになるまいか?」


 そういう理屈もある。


「です」


「だよ」


「だね」


 かしまし娘も異論は無いらしい。


 元が一義大好き人間だ。


 というより、一義の妄念が形になっただけのモデル。


 魔術の御業。


 自身の魔術キャパを圧殺するための第二義的な処置。


「結局男の子なんだよね」


 一義にすればそう云うことになる。


「可愛い三人の女の子に迫られる」


 分かりやすいほどのテンプレート。


 ハーレム。


 そう呼べるだろう。


 銀の乙女。


 黒の乙女。


 赤の乙女。


 三色三対の双眸が一義を優しく映す。


 閑話休題。


「お礼なら姫々に」


 そう言ってがんもを食べる一義だった。

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