第261話 傷心者と小心者15


「ふい」


 座学庵の温泉に浸かる一義だった。


「えへへ」


「にゃ!」


「だぁね」


 かしまし娘も御機嫌だ。


 水着姿で一義と混浴できるのが嬉しいのだろう。


「結局何してんだって感じだけど」


「駄目だったら団子茶屋に戻りましょう」


 姫々が言った。


「別に金は生きる上で必要ないし!」


 音々ものっかる。


「旦那様の食費さえ稼げればあたしたちはどこでもいいんだよ?」


 花々でさえそんな有様。


「担当する生徒はどう?」


 魔術講師として呼ばれたためそこが本題には為るだろう。


「タバサ様とアーシュラ様は器用ですね。年単位で数えるならしっかりした魔術師になれるかと」


 銃を望むタバサ。


 矢を望むアーシュラ。


 そして無尽蔵の質量兵庫……姫々。


 相性は良いようだ。


「音々は少し不安!」


 感嘆符を付けて話す感想ではない。


 が、音々らしい。


 ヴァレンタイン。


 ウェンディ。


 どちらも魔術師の通念に従っている。


 だからこそ、


「魔術が難しい」


 との結論だろう。


「ザンティピーは既に使えるし」


「だね」


「イヴォンヌは?」


「それこそ年単位だね」


 苦笑。


「一息に呑まれたら鬼の意義がない」


「それもそっか」


 納得のいく話だ。


 ジトッとかしまし娘。


「そういうご主人様は?」


「お兄ちゃんは?」


「旦那様は?」


「ステファニー?」


 問う一義。


「です」


「だよ」


「だね」


 かしまし娘。


「こっちも年単位かな」


 斥力の想像が既に人外の領域だ。


「覚えるにしても年単位」


 その結論は一義もしかず。


「そもそも魔術を覚えてもなぁ」


『一銭の得にもならん』


 とまではいわないが、


「人格壊して楽しいかね?」


 そんな疑問も湧く。


「お兄ちゃんが言う?」


 音々の半眼。


「ですね」


 姫々の同調。


「夜は難儀であるからな」


 花々は笑い飛ばした。


「今日は花々と寝よっか」


「おう。恐縮だよ」


 ヒマワリの様に笑う花々だった。


「う~」


「うう」


 残り二人が恨めしげ。


「旦那様?」


「何でしょ?」


「ここで抱いても良いんだよ?」


「却下」


「どうして?」


「人目があるでしょ?」


 姫々と音々を指差す。


 チャプンと湯面が跳ねた。


「消せば良い」


「出来るけど」


「なら決まった」


「その手のことは禁止」


「旦那様は難儀だね」


「じゃなきゃこんな位置にいないよ」


 それもまた事実だった。


 水着姿のかしまし娘に取り憑かれ、


「我ながら何してんだか」


 そう自問せざるを得ない。

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