第259話 傷心者と小心者13
「えーと……だよ」
音々は困惑している。
錫色の幼女。
ヴァレンタイン。
丹色の少女。
ウェンディ。
ヴァレンタインは大人しく空気にビクビクしている。
ウェンディは不遜の一言だ。
「あう」
「よろしく御願いしますわ」
そんな二人に、
「にゃ」
と音々は鳴く。
「で、どんな魔術を覚えたいの?」
「あう」
ヴァレンタインは臆病らしい。
「その。防御魔術を」
「はあ」
チラリと丹色の瞳に視線を振る。
「わたくしは当然煌びやかな炎熱魔術ですわ!」
ウェンディはシンボリック魔術をご希望らしい。
たしかに音々しか居ないだろう。
「ヴァレンタインの方は少し難しいかもね」
珍しく淡々と音々。
音々の防御魔術は斥力と漸近境界が主だ。
どちらも容易い魔術ではない。
一義からキャパを譲り受けている音々だから出来る芸当。
「ま、いいんだけどさ!」
気持ちの切り替え。
「とりあえず瞑想! トランス状態の維持!」
薬は服用している。
「炎魔術が覚えたいんだよね?」
音々がウェンディに聞く。
「ですわ」
しっかと頷くウェンディ。
「こんな感じ?」
と音々は手から炎を出して見せた。
その炎は蛇のようにのたうち回り、
「――――」
声にならない鳴き声を残して消えた。
炎を自由自在に操る。
その一例だ。
「まさに!」
とウェンディ。
「そんな風に自在に炎熱を行使したいのですわ!」
「ま、慣れれば簡単だよ」
「なのですの?」
「シンボリック魔術だしね」
端的に言ってのける。
炎の鮮烈さは人を惹き付ける。
であるため、
「パワーイメージは炎」
という輩は少なくない。
イメージしやすく、端的に人を殺せる。
水の魔術なら質量を必要とする。
風の魔術ならイメージしにくい。
土の魔術なら攻撃への転換が難題。
が火の魔術なら炎を発生させるだけで人体に害を為す。
その簡便な威力は使い勝手が良く、魔術師志望者が基準とするのも……また頷けることではあった。
「とりあえず初歩はライティング」
まずは幻覚を物にせねば始まらない。
「えー」
とウェンディ。
「千里の道も一歩から!」
そうねじ伏せる。
というより事実だ。
ライティングほど簡単な魔術を使えないようでは、応用魔術はおぼつかない。
「文句を言わずに瞑想!」
断じる音々。
「あう」
「ですわ」
座禅を組んで意識を幻覚に。
理性と狂気の狭間を取り違える。
何処にいてもそれは事実らしい。
音々には縁の無い修練だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます