第242話 いけない魔術の使い方20
結局一義は帝都に戻った。
というのも鉄の国の原理主義過激派の本拠があるのが帝都だったからと云うだけ。
自身の足下で斥力場を展開して加速。
結果として一瞬で帝都に着いた。
目指したのは帝都の裏街。
法治外のエリア。
極めて治安の悪い場所だったが、そこに違和感がデンと建っていた。
荘厳なる教会だ。
「悪いことをすればお金が貯まるとは言うけどさ……」
一義は困惑していた。
裏街の物騒さとは無縁に見えるファンダメンタリストの教会。
ある種において貴族もマフィアも手出しできないほどの『力』を明確に論ずる建物である。
既に一義は魔術で教会を囲っているが、ソレとは別に相手をする必要もあった。
警戒しているファンダメンタリストの刺客だ。
教会外に居る刺客の殲滅。
超感覚を悪い方へと使い虱潰しに駆除していく。
「はわわ」
一緒に着いてきた……わけもなく一義に問答無用で拉致られたペネロペがオリヴィアのような慌て具合を見せた。
それもそうだろう。
ペネロペもまたファンダメンタリストだ。
同じ釜の飯……と云う奴である。
毒殺に長けた者。
刃物に長けた者。
魔術に長けた者。
弓矢に長けた者。
ありとあらゆる刺客が一義を襲ったが、全て返り討ちにしている。
通じないのだ。
一義には。
完全なる攻撃と完全なる防御。
即ち、
『矛盾』
を体現した一義であるのだから。
ちりとりでもするように根こそぎ教会外のファンダメンタリストを鏖殺して、一義は教会に入った。
一応外の混乱は伝わっているらしいが教会に居る使徒たちは逃げていなかった。
というより逃げられなかった。
矛盾の魔術師は斥力を扱う。
それ故に斥力の壁をドーム状に展開している。
外から中には入れるが、中から外には出られない。
完全なる一方通行の障壁だ。
解決策は二つ有る。
一つは一義の殺害。
術者を殺せば魔術も消える道理。
一つは一義の魔術維持の限界まで生き延びること。
キャパシティが許す限りしか魔術は世界に顕現できない。
であればどこかで歪みが生じる。
もっとも此度に限って云えば楽観論と誹られて当然の判断だが。
結論。
どうにかして一義を排除するしかない。
そうなった。
「一義……」
一人、豪奢な礼服を着ている使徒が一義を呼んだ。
「そりゃ当然、僕を知ってるよね」
それは此度のファンダメンタリストの行動の根幹だ。
そして一義が無理だとわかりローズマリーに標的を変えた理由でもある。
「何故我々と敵対する」
「こっちの台詞だよ」
さすがに脱力を憶えずにはいられなかった。
「君たちが何をしようとあんまり気にはしないけどさ。それでもこっちに纏わり付かれれば払いのけるのも道理でしょ?」
「払いのけるにしては人道を踏み外しているようだが?」
「まさかファンダメンタリストに道徳を説かれるとはね」
「我々は神の意志によって動いている。人であるならばまず神の意志を最優先すべきだろう」
「僕は亜人だし」
そういう問題でも無いが。
「概ねの目的は察しているよ。その上でツメを完璧にしたい。誰に頼まれたのかな?」
「神だ」
次の瞬間、複数の角度から十を超える攻性魔術が放たれたが特に意義有ることでは無かった。
「馬鹿な」
使徒が上ずったのも理解は出来るが一義の方には付き合う理由が無い。
「拷問の訓練は受けてる? そうじゃない場合は地獄を見ることになるよ?」
「悪魔め!」
「愚痴は良いからさっさと依頼主を教えて。それとも」
「しっ……!」
背後から襲いかかってきた使徒の一人……その凶器が一義に触れるや否や消失した。
「?」
困惑する使徒の額に指鉄砲を突きつけ、
「BANG」
と一義が呟くと、まるでそこに最初から何もなかったかのように使徒は消え失せた。
細胞の欠片も残っていない。
痛がるわけでも苦しむわけでもない……単なる消失というのはあまりに不可解で尚更ファンダメンタリストの恐怖を煽る。
「さて、それじゃ尋問を行なおうか。僕が悪で君たちが道理だというのならきっと神様は助けてくれるはずだ。何も恐ろしいことはないでしょ?」
「待ってくれ! 話す! 話すから!」
「僕への神罰に期待しなさいよ。きっと神様が信心深い君たちを助けてくれるから」
「依頼者は――」
さっくりと使徒は自白した。
嘘かどうかは表情筋を見ることで把握できる。
結論として嘘では無い……一義はそう受け取った。
「うん。どうも。それが聞きたかった。なるほどね。第一王子様か……」
「誓って本当だ! だから!」
「うん」
一義はニッコリ笑った。
「殉教させてあげる」
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