第229話 いけない魔術の使い方07
月の出る夜。
一義はいつも通り散歩をしていた。
魔法学院は賑やかであるため人が集まりやすい性質を持つ。
結果として鉄の国の魔法学院にも学院街が存在する。
そんな街を一義は練り歩いていた。
月を見上げながら。
そこに影一つ。
誰にも見えず誰にも聞こえない。
そんな迷彩だったが一義の超感覚はほぼ完全に捉えていた。
透明な暗殺者が一義に襲いかかる。
ナイフが振るわれる。
躱す。
ナイフが振るわれる。
躱す。
ナイフが振るわれる。
躱す。
一義は斥力場を作った。
ポンと高く跳ねる暗殺者。
そして今度は斥力場を連続展開して下方へ加速。
「ぐえ……っ」
暗殺者は地を舐めた。
「ほんに君はポンコツだね」
暗殺者……ペネロペを見下しながら一義は苦笑する。
鮮やかな藍色の髪と瞳。
一義のハーレムにも劣らない一級の美少女だ。
暗殺者としては三流だが。
「結局君に一任されたわけだ」
一義のそんな確認に、
「ええ、まぁ」
ペネロペも答える。
「ところで」
とこれは一義。
「何でしょう?」
答えるペネロペ。
こういうところが三流なのだが当人に自覚は無い。
「少し付き合って」
「ふえ?」
中略。
そんなわけで一義とペネロペは夜でも開いている店……酒場に入った。
一義はハーブティーを。
ペネロペはココアを。
それぞれ頼む。
ウェイトレスが東夷の一義を見て顔を引きつらせていたが、特に一義は気にしていなかった。
今更だ。
そして注文が届いてから一義はペネロペに相対した。
「んでペネロペ」
「何でしょう?」
頬を桜色に染めるペネロペ。
「なして僕を狙うの?」
「そういう命令を受けたからだけど……」
せわしなく泳ぐペネロペの目。
「僕を殺してファンダメンタリストが何か得するの?」
「さぁ。そこまでは……」
「まぁ使いっ走りにそこまで情報は与えないか」
「はい」
ココアを飲むペネロペ。
「ていうか一義は気安くないですか?」
「そうかな?」
「一応抹殺対象なんだけど……」
「人殺しは良くないよ?」
「どの口が……」
まさに、
「お前が言うな」
であった。
「なんなら死んでみる?」
「っ!」
緊張に体を硬くするペネロペ。
一義の魔術は不可視でかつ即効性がある。
敵対すると厄介極まりないのだ。
その上でそんな魔術に頼らなくとも暗殺者を手玉に取る身体能力。
一体幾つ切り札を隠しているのか見当もつかない。
こと未知は人にとり恐怖だ。
正にペネロペにとっての一義である。
もっとも一義の方はペネロペに悪感情を持っていない。
いまこうして茶を飲んでいるのが良い証拠だ。
要するに、
「ペネロペは脅威じゃない」
と言っているようなものだが、
「…………」
それを正確に読み取ってなお反論できないのがペネロペの悲しさでもある。
「一義にとって自分は何なんですか?」
「可愛い女の子」
「はぅあ!」
ズキューン!
恋のマスケット銃でハートショット。
「だからポンコツなんだけどなぁ」
これは一義の思念での言葉。
「自分は……可愛いんですか……?」
「存分に」
茶を飲む。
「ナンパとかされるでしょ?」
「はあ……まあ……」
「それが証拠」
「あうぅ……」
粉をかけるでも媚びをうるでもなく淡々と事実を指摘しているため、
「本気で可愛いと言われている」
とペネロペには実感できた。
それに嬉しさを覚えるが故にポンコツの証明なのだが。
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