第223話 いけない魔術の使い方01


 一義たちが皇立魔法学院に着いたのは帝都からランナー車で送られた二日後のことであった。


 雰囲気そのものは霧の国のソレと大して変わらない。


 元より王立だろうと皇立だろうと、


「戦力としての魔術を求める」


 という命題で設立されている。


 要するに魔術を人殺しに使うことを推奨しているのである。


「この類の通念があるから人類は進歩しないのじゃないか?」


 そんな一義のぼやきに、


「ご主人様のお口には合いませんよ……?」


 姫々が珍しく皮肉を口にした。


 事実ではあったが。


「凄い魔術師とかいるのかな!」


「鉄の国の戦力育成機関ね」


 音々と花々も当然一緒に居る。


「久しぶりです」


「アイリーン様はそうだろうね。僕は縁が無いからなぁ」


 アイリーンと何故かルイズまで一緒だった。


 とまぁここまではわかる。


「ここの生徒たちが我が国の戦力の萌芽ですのね」


「うう……あたし劣等生……」


「大丈夫お姉ちゃん! 一義様の方がよほど劣等生!」


「たまに頭をかち割って中身を見たくなりますね」


 何故かマリアとナタリアとオリヴィアとクイーンまで着いてきていた。


「何してんの?」


 分かっていても一義は問わざるを得ない。


「そうですわ。ナタリアはともあれオリヴィアは何故着いてくるんですの?」


「お姉ちゃんがソレを言う!?」


「私としても退学した身だけど……」


「また復帰すれば良いと思われます殿下」


 後半の四人は誰一人として一義の皮肉が自身に向けられているとは思ってさえいなかった。


「いいんだけどね」


「いいんだ……」


 ルイズは一義の心情を察してのけた。


 けして楽しい想像では無いが。


「万が一があったらどうする気かな?」


 小声で責任の所在について思案していると、


「まぁその時は国葬に参加すればオッケー」


 要するに関知しないと花々が言うのだった。


「暗殺者にも狙われているのに……」


「一応用心はしておくよ」


「お互いね」


 皮肉と疲労が混じり合った。


 こと暗殺者の策謀に適確に反応できるのは超感覚を持った亜人……即ちエルフの一義とオーガの花々の二人のみだ。


 ペネロペは暗殺者としてはへっぽこだが卓越した迷彩魔術は一義を以て舌を巻く。


 あくまで今一義が生きているのは超感覚と戦闘対処の心得を持っているからに他ならない。


 どちらが欠けても一義は死んでいただろう。


 もっとも、


「何故ファンダメンタリストが一義を狙うのか?」


 その連立方程式はまだ演算の途中だが。


 閑話休題。


 皇立魔法学院はちょっとしたパニックに陥っていた。


 なにしろ姫殿下……その三人が訪問し、そこに東夷が並び立てば我が目を疑うも必然だろう。


「何者だ?」


 の困惑は、波及と統一の波に流されて一つの解答に行き着く。


 白い髪。


 白い瞳。


 黒い肌。


 長い耳。


 東夷として国賓クラスの待遇を受ける。


 そして誰何には、


「まさか」


 が頭に着いた。


 鉄血砦の不幸と今いるエルフを結びつけるのはこと魔術に関わる者には当然の結論だ。


 特に一義の面の皮を破けも出来なかったが。


「マリア殿下。ナタリア殿下。オリヴィア殿下。拝謁の栄誉、これに勝るはありません。学院を挙げて歓待させてくださいますよう」


 光沢のあるローブを着た老人が慇懃にかしまし姫に一礼する。


「誰よ?」


 頭を下げている老人を指差して一義がアイリーンに尋ねる。


「学院長です」


 アイリーンも中々のものだ。


「反魂殿。帰っていらしたのですね」


「いえ、私は単なる客ですよ。ついでにいえば今は霧の国に納税しています」


「皇帝陛下の遇し方にご不満が?」


「ま、精神論の問題ですけどね」


 人を死から救うという奇蹟。


 ある種の可能性だ。


 どちらかと云えば悪魔寄りの。


 アイリーンは言った。


「皇帝は死者の蘇生を前にして余計に死を恐れることになった」


 と。


 要するに、死からの救いという能力は死を忌避する人格を形成するらしい。


「死んでもアイリーンがいる」


 イコールで、


「アイリーンがいないと死んでしまう」


 の帰結に結びつく。


 アイリーンにしてみれば籠の鳥だろう。


 故に霧の国に逃げてきたのだから。


 一義は特に死に頓着はしていない。


 生きることには頓着しているが。


「酒もタバコも性交もせずに死んだら勿体ない」


 そう嘯く。


「どの口が!」


 がハーレムの総論だった。

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