第207話 三人の姫は12


 そんなわけで第二王女ナタリアの臨時講師となる一義であった。


「とりあえず少し考えさせて」


 ということで一義は場を離れた。


「ご主人様も大概付き合いがいいですね……」


「可愛い女の子限定でね」


「お兄ちゃんの見境無し!」


「はっはっは」


「あたしを一番に認めてくれるなら容認するけど?」


「別に許可がどうのって話でもないでしょ」


 その通りではあるのだ。


「とりあえずナタリアはどうしたものかね?」


 一義はベッドに寝転がりながらそう云った。


 一義とかしまし娘だけだ。


 アイリーンとルイズは別室で寝ている。


「なんだかこの四人ってのも珍しいね」


「色々と邪魔が入りましたから……」


「お兄ちゃんが魅力的すぎるのがいけないよ」


「うむ。だね」


 かしまし娘は平常運転だった。


「ていうか……」


 キングサイズのベッド二つを並べて四人で添い寝しているのは一義にしてみればプレッシャーだった。


「これならご主人様の発作にも対応できますし……」


「うん! 心配しなくて良いよ!」


「あたしたちが旦那様を慰めてあげるから。色んな意味で」


 そんなわけで消灯。


 四人で沿い合い寝る。


 月のある夜だったが一義は散歩をしなかった。


 ストンと睡魔に身を任せる。


 四人が寝ているところでキィーと寝室のガラス窓が鳴いた。


 城内への侵入。


 暗殺者である。


 ガラスを切り取って外から鍵を開けると、毒ナイフを構えて静かに窓を開く。


 が、そこに人は見えなかった。


 有るのは月光と夜の静けさ。


 暗殺者は存在するもののその気配は誰にも察せられない。


 例外を除いて。


「ん~……誰よ?」


「多分刺客だと思うよ?」


 例外はこの寝室に二人居た。


 一義と花々。


 エルフとオーガ。


 超感覚を持つ二人だ。


 欠伸をしながら起き上がり、ステルスの魔術をかけているはずの暗殺者を正確に捉えてみせる。


「はぁ。まぁしょうがないっちゃないけど」


「だね」


「ふややっ!」


 暗殺者は狼狽した。


「とりあえず殺していいのかな?」


 花々が云う。


「背後を洗いたいから無力化して」


「了解」


 そしてステルス機能何のそので暗殺者を捉えた花々が襲いかかるが、それより早く暗殺者は逃げ出した。


「決断が早いね」


「だね」


 別段パワーレールガンを使っても良かったのだが、声を聞くに少女らしい。


 そんなことに躊躇を覚える一義だった。


「旦那様はモテるね」


「いやぁ」


 照れ照れ。


 花々の皮肉と分かっていて、なおスルーするのは一義の悪癖だ。


「とりあえず花々はアイリーンを見やって」


「アイアイ」


 頷いて部屋を出てアイリーンの無事を確かめに行く花々だった。


「さぁて……」


 一義は頭をガシガシと掻いた。


「どうすんべ」


 まさか鉄の国で厄介事に巻き込まれるとは思わなかったのだ。


「暗殺者……か」


 真っ先に思い浮かぶのはファンダメンタリスト。


 原理主義過激派。


 ヤーウェ教の影に生まれた集団だ。


 一義と幾度も確執を起こしているためブラックリストに入っているだろう。


 となると、


「アイリーンが狙い」


 という一義の感覚は当然だ。


 ファンダメンタリストにとって許されざる魔術をアイリーンは持っているので。


 仮にファンダメンタリストでは無いとすればますます分からなくなる。


 誰が暗殺者を雇ったのか。


 一義に恨みを買った覚えは……、


「あー……結構有るね」


 そういうことだった。


 ことステルス性において秀でた暗殺者。


 一般人には脅威だろう。


 そう云う意味では、


「そういうことになるだろうね」


 諦めざるを得ない一義だった。


 花々がアイリーンを連れて部屋に入ってくる。


「一義……」


 アイリーンは不安そうだ。


「しょうがない」


 一義とて不安には違いない。


「アイリーンは狙われなかったみたいだよ?」


 花々が云う。


「とすると……」


「旦那様が狙い?」


 それもどうかと思うが。

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