第202話 三人の姫は07


 次の日。


 一義たちはルイズ先導の下、鉄の国の帝城を探検していた。


 大浴場と寝室……謁見の間と食堂は足跡があるが、他は何も知らないに等しい。


 途中途中東夷を見て驚いたり忌避感を覚えたりあからさまに逃げていく者などが続出した。


「あう」


 と呻いたのはルイズ。


「あの……師匠?」


「なに?」


「怒らないであげてね?」


「優しい子だねルイズは」


 よしよしとルイズの銅色の髪を撫でる。


 ほにゃっと相好を崩すルイズ。


 心底嬉しそうだ。


 いくらミュータントと呼ばれようとその心は乙女の物に相違ない。


「にゃは」


 どっちが純情なんだか……。


 そんな風に思ってしまう一義。


 一義を純情少年とハーレムの女の子たちは捉えているが、一義にしても一人も漏れず女の子たちは純情だ。


 一義以外に振り向かない。


 東夷だと差別もしないし精神性を高く評価する。


「他に素敵な男性は幾らでも居るのに」


 そう思わざるを得なかった。


 そんなこんなで、


「東夷が城内に入ってきた」


 という噂が城内で激震となって流布された。


 事情そのものは通じている。


 皇帝とも面会したし、ルイズがわざわざ敵国に赴く理由を鉄の国が把握していないはずが無い。


 ので、


「アレが……」


 と遠巻きに怖い物見たさで一義を刺し貫く視線も散見された。


 中には一義にポーッと熱のこもった視線を送る者も居た。


 白い髪に黒い肌と長い耳……いわゆる忌避されるべきエルフの特徴だが、そを超越して一義は(というかエルフ全般が)顔立ち整っている。


 なおルイズが師事しているため、評価はプラスとマイナスのヤジロベー。


 概ね男性には不評で女性には好評だった。


 こういうところは人間の醜悪さの証明なのだが、今更なので一義にはツッコむことさえ馬鹿らしい。


 そうこうして場所は訓練場についた。


 騎士と城内警備の兵士が戦闘訓練を積む場所だ。


 基本的な兵舎は帝都の東西に一つずつあるとのことだが、城内勤務の戦力も訓練は必要だろうと云う感じで訓練場が城の隅っこに作られているとのこと。


「僕が鉄の国で剣術を練るときに使うスペースだね。入ってみる?」


「是非」


 そんなわけで一義たちは訓練場に入った。


 兵士たちがざわめく。


 ルイズを見て友好的な表情になり一義を見て困惑する。


「ルイズ様」


 手近の兵士が声をかけてくる。


「ただいま」


「お帰りなさいませ。そちらは……?」


「前にも語ったでしょ?」


「ええと……」


 困惑は避けられないらしい。


「いいんだけど」


 一義は口の中で呟いた。


「エルフの一義」


「銃力の……?」


「そういう二つ名もあったね」


 一義の名刺だ。


「ふむ」


 と兵士は一義を見やる。


「何かな?」


 不躾な視線を受けて一義は居心地が悪くなる。


 別段気後れするほど繊細なタチでもないが、いわゆる形而上的不快指数の問題だ。


「本当にコイツが?」


「嘘ついてどうするの」


 心底不思議だという。


 ルイズはクネリと首を傾げた。


 たしかにここで嘘をついたり別人を代用したりしてどうなる物でも無い。


「ルイズ様の魂は大丈夫なんですか?」


 兵士は今度はアイリーンに聞いた。


 反魂。


 魂を見て死後の国から蘇らせられる魔術師。


 ……と云うことになっているため、


「あはは」


 とアイリーンは空笑いをするほか無い。


「大丈夫ですよ。ルイズは無病息災です。そもそも東夷に触れると魂が穢れると云うことがデマですので」


「ですか」


「やけに絡むね」


 不機嫌な声が聞こえた。


 花々である。


「さっきから聞いていればまぁ好き勝手ほざいて」


 コキコキと指関節を鳴らす。


 殺気が膨張しとどまることを知らない。


 一義が片手を挙げて牽制していなければその場で死体が一つ出来ていただろう。


「そう云う気持ちにも成りましょうぞ」


 兵士は花々に反抗した。


「ルイズ様に一対一にて剣で勝ったなぞ到底信じられる物でもありません故」


「僕が認めてるのに?」


 ルイズの声にも不機嫌が混じった。


 銅色の双眸がスッと細くなる。


「ルイズ様が凡人に後れを取られるとは思えません。きっとこの東夷はズルをしたに決まっています」


 どうやらルイズを信奉しているらしい。


 一義たちの結論だ。


「卑怯者め。そうまでして武勲が欲しいか」


 兵士は云ってはならない言葉を口にした。

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