第197話 三人の姫は02


「僕の部屋に行こ?」


 ルイズは楽しそうだ。


「城の中に部屋があるの?」


「一応陛下の護衛が第一義だからね。僕は貴族じゃなくて騎士だから領地を与えられても困るし」


「こんな城で優雅に暮らしてるなら男に不自由はしないんじゃないかな?」


「僕は僕より弱い人間とは結婚しないの」


「そりゃまた難儀な……」


 そんな四方山話をしていると、


「失礼します」


 と云って使用人が入ってきた。


 無論ルイズの許可を得て。


 そしてチョコレートを振る舞い、部屋を出て行く。


 聞くに隣の部屋で待機しておりベルを鳴らせばすぐにでも対応してくれるとのこと。


「セレブだねぇ」


「師匠が言う?」


「違いない」


 お世話をするかしまし娘。


 ついでに料理をしてくれるアイリーン。


 これはこれで主従関係にニアリーイコールだった。


 少なくとも姫々は自身を、


「ご主人様の従僕」


 と認識している。


「罪な人」


 ルイズが笑う。


「…………」


 反論できずチョコレートを飲む。


 カカオの香りとミルクの風味が口いっぱいに広がる。


 一義たちは基本的に茶かコーヒーなのでチョコレートは珍しい。


 だが質が良いのだろう。


 特に舌が繊細とも言えない一義をして、


「美味しい」


 と思わせる一品だった。


 使用人のプロ根性を見た気分。


「チョコレート美味しい?」


「美味いよ」


「ならよかった」


 安堵するルイズ。


「姫々はチョコレートを淹れないね」


「ご主人様は飲みたいのでしょうか……?」


「んにゃ?」


 チョコレートを飲む。


「姫々が淹れてくれるなら出来ればお茶が良いな。玉露なら最高」


「恐縮です……」


「アイリーンの淹れてくれる紅茶やハーブティーも捨てがたいし」


「あは」


 アイリーンの顔がほころんだ。


「ところで東夷に皇帝は会ってくれるの?」


 不敬罪丸出しの発言だが特に危機感を覚える人間も居ない。


「一応何かあれば僕の責任になるから大丈夫だと思うけど」


「皇帝ねぇ」


 ぼんやり。


「一義は霧の国の王とは親しいでしょ?」


「ディアナのアレはお転婆の類でしょ」


「あー……」


 納得するルイズ。


 反論すべき箇所が見つからなかったためだ。


「別段ご主人様を蔑ろにするならば相応の対処を取らせて貰うだけです……」


「お兄ちゃんのためだもの!」


「場合によっては傾城の客と言えるかもね」


 物騒極まりないかしまし娘だった。


「アイリーンは大丈夫?」


「一義が傍に居てくれますなら」


「ま、そだよね」


 チョコレートを飲む。


「まぁいきなり乱暴されるとも思えないけど」


「ここで皇族を殺し尽くせば霧の国に有利になるのでは……?」


 何でもなさげにテロを提議する姫々に、


「んー……微妙」


 一義はのらりくらり。


「ディアナ様も喜ぶかと……」


「ソレは無いよ」


 こと戦争を忌避するディアナは鉄の国との正面衝突は避けたいところであろう。


 好戦的な貴族を押さえつけることに腐心している苦労は此処に居る人間は共有していた。


 一義はエルフだが。


「ていうか僕は平穏に生きたいし」


「それをお兄ちゃんが言うかな?」


「旦那様……そは無理があるかと」


「だから力は当人の意識しないところで当人を縛るんだよねぇ……」


「一義はまったく」


 アイリーンはくすくすと笑っていた。


 さもありなんではあるが。


 チョコレートを飲みながらテロについて語る。


「もし攻めるなら……」


「人質とか」


「二正面作戦も」


「風の国はどうします?」


「まぁそこは矛盾で」


 などなど。


 お代わりを貰い四方山話。


「三人の姫様が僕に興味を……だっけ?」


「だね」


「僕……何かしたかな?」


「まぁ色々と」


「?」


「そこは察せないんだ……」


 ルイズは呆れた。


 この場合ルイズが聡いのではなく一義が鈍いのだ。


「失礼します。ルイズ様。陛下への面会が通りました」


「ありがと」


 そう云うことになった。

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