第196話 三人の姫は01


 ランナー車に揺られること三日。


 一義たちは帝都に着いた。


 活気がある。


 市場がある。


 金銭取引があり流動性がある。


 レンガの布かれた道と石を積み上げて出来た堅牢な建物群。


「とりあえず」


 とランナー車の車内でルイズが言う。


「皇帝陛下に面会を申し入れよ?」


「ソレは構わないけどさ……」


 一義には面白くない。


 霧の国の王都でも体験した現象だ。


 ランナー車が通ると市民の誰もがひれ伏す。


「このランナー車に頭を下げる習慣はどうにかならんの?」


 居心地が悪いにも程がある。


 そう一義は言った。


「だいたい貴族や王族って合法化されたヒモでしょ? 頭を下げる価値なんて無いと思うんだけど」


「王侯貴族がヒモ?」


「税金という表現でお小遣いを貰って養って貰っているでしょ?」


「……確かに」


「なんで養われている側が偉そうにするの? まったく意味が分からないんだけど」


「辛辣だね」


 ルイズは苦笑いをするのだった。


 ランナー車は大通りを進んで帝城へと入るのだった。


 一応ルイズは皇帝直属騎士……鉄の国のロイヤルナイトだ。


 であれば入城もシャンシャンである。


 まず真っ先にルイズが下りる。


「ルイズ様。無事お帰りくださって光栄です」


 下車したルイズに敬礼する兵士。


「楽にしていいよ」


 そして次にアイリーンが下りる。


 金色の髪。


 金色の瞳。


 それらが陽光を反射して鮮やかに空気を彩る。


 絶世の美少女はそこにいるだけで空間を異界化させる。


 アイリーンはその類の美少女である。


 が、鉄の国ではもう一つの事情もある。


「アイリーン様……!」


 反魂。


 元は鉄の国の宮廷魔術師だ。


 死者すら治癒する奇蹟の存在。


 霧の国に亡命したはずのアイリーンが現れたのだから城の兵士たちの動揺は目に見えた。


「有名人だね」


 からかう一義に、


「これも人徳でしょう」


 サラリと躱すアイリーン。


 かしまし娘が下りて兵士を困惑させた後、最後に一義が下りる。


「東夷……!」


 次の瞬間ランナー車を囲んだ兵士たちが一斉に腰に差した剣を抜き放った。


 剣先を一義に突きつける。


 一義はハンズアップで降参の意思表示。


「まぁこうなるよね~」


 嘆息。


 が、事態はあっさり解決する。


「剣を下ろせ。僕の客だよ?」


 ドスの利いた声でルイズが殺気を膨れあがらせる。


 単なる東夷への嫌悪感から剣を抜いた兵士たちはルイズの気迫に負けて剣を下げる。


 叩きつけられた殺気はそれほど鋭利で煌びやかだったのだ。


 一つの剣ととっていい眼差しだった。


 銅色の瞳の剣呑さはある種の魔術とも言えたろう。


 ともあれ剣を収める兵士たちに、


「よろしい」


 とルイズは納得した。


「開始早々帰りたくなったんだけど」


「そう言わず」


 ルイズは一義の腕に抱きついた。


「ルイズ様……! 東夷に触れたら魂が穢れますぞ……!」


「もう遅いから大丈夫」


 何が大丈夫なのか?


 一義には分からなかった。


 元より魂の不実は反魂が証明している。


 ここで言うことでも無いが。


「というわけでそこの兵士A」


「は!」


「皇帝陛下に面会の申請を」


「あの……それは……」


「それは?」


「東夷と陛下を引き合わせる……と?」


「うん」


 それがどうした。


 そんな態度だった。


「多分東夷への軽蔑と忌避を分かってルイズはすっ惚けているのだろう」


 その程度は読み取れる。


「具申はしますが……」


「早めにお願いね」


 そしてルイズは一義の腕を引っ張って城内に入っていく。


 かしまし娘とアイリーンもソレに続く。


 城にて客を迎える使用人が腕を組んでいる皇帝直属騎士と東夷の関係を勘ぐりながら、引きつった笑みで、


「お飲み物は如何なさいましょう?」


 一応接待を提案した。


 プロって凄い。


 一義は素直に感心していた。


「とりあえず全員分のチョコレート。砂糖とミルクありありで」


 ちなみにまだチョコレートの固形化技術は存在していない。


 カカオからチョコレート飲料を作る程度だ。


「承りました」


 言って下がる使用人。

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