第188話 いざ鉄の国11
とりあえず、
「どこそこに無力化した山賊たちが居ますよ」
と宿屋の店主に忠告して、後は鉄の国の警察力に任せる。
一義はルイズの素振りを指導していた。
自身も木刀を振りながら。
ちなみに一義が振っている木刀は姫々のハンマースペースから取り出した物である故、魔術維持が限界に来ると虚空に帰ってしまう。
もっとも一義と違いかしまし娘は十分なキャパシティを持っているのでそう易々と消えはしないのだが。
「ほら、段々腕で振ってきているよ?」
「頭の天辺から股間までを串で刺したように一定に保つ」
「重心は低めに」
「筋肉操作の感覚を思い出して」
「血の巡りを認識できる? 呼吸を整えるのも剣術の内だよ?」
ルイズが疲れ切るまで素振りを続けるのだった。
「はふぅ……」
訓練を終えてばったり倒れるルイズ。
「お疲れ様」
一義は余裕綽々だ。
この辺りはまだ一義に分が有るということだろう。
「じゃあお風呂に入ろう」
「?」
とルイズ。
「この宿屋には……」
と裏手で素振りをしていたルイズが壁を指す。
「風呂は無いそうだけど」
「うん。だから音々に頼む」
そんなわけでそんなことになった。
一義たちは水着姿になると、音々が外に出て液体を生んだ。
エイチツーオー。
要するに水。
温度は四十二度。
一義の最も好む温度だ。
そんなお湯が重力を無視したように直方体の塊として現れる。
まるで器の無い温水プールの様な有り様だ。
一義とかしまし娘は特に警戒も無く入っていく。
続いてアイリーンとルイズも。
「あ、温かい」
ルイズがほわっと驚いた。
「本来こう云うことに魔術は使わなきゃね!」
そんな音々の言葉。
当然ソレは一義の思想の影響を受けているが故である。
「はふ」
と一義が湯に浸かる。
とはいえ外の地面に接する形で生み出されたお湯の直方体であるから座ることは出来ないが。
ちなみに高さは一義の肩のソレと合わせてある。
音々がちっこいので立ち泳ぎする羽目になるが、当人は楽しそうにしているので何をかいわんや……だ。
「ご主人様……?」
「お兄ちゃん?」
「旦那様?」
「一義?」
「師匠?」
水着を着た色とりどりの美少女たちが一義にすり寄る。
「却下」
何も聞いていない内から一義は破却した。
元から、
「そう言う目に遭う」
ことを覚っているが故だ。
「ご主人様は淡泊すぎます……」
「お兄ちゃんのヘタレ!」
「旦那様は謙虚だね」
「一義は~……」
かしまし娘とアイリーンは慣れたものだったが、
「師匠は特殊な性癖が?」
ルイズは別の思案があるらしかった。
「無いよ」
一応釘を刺す。
「男の人が好きだったり……」
「不名誉だよ」
そこだけは譲れなかった。
とはいえハーレムを多数抱えておいて、
「誰も抱いていません」
では疑われてもしょうがないが。
「では何故?」
ルイズは少し懐疑的に言った。
「僕は重いから」
それが一義の返答。
その通りではある。
まだかしまし娘以外に一義を支えられるとは考えにくい。
それが一義とかしまし娘の通念だ。
要するに自分にしか自分を裁けないのだ。
そうであるためハーレムには手が出せない。
無論、処女性の貴重さや貞操の至高さも無いと言えば嘘にはなるのだが。
月子は言った。
「きっと黄金の園が見つけられる」
と。
それが、
「何を以て」
なのかはいまだようと知れないが、
「まぁ機嫌次第だね」
一義は温水プールに浸かりながら夜空を見る。
月が欠けて輝いていた。
その名を冠した姫は死んだ。
代替物を一義は必要とする。
「それが誰なのか?」
この命題は深刻だが、時間をかけて解決すべき事柄でもある。
一義は焦っていなかった。
いずれ来る未来を受け止めるために心に余裕を持たせるのも必然と言える。
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