第155話 いけない魔術の使い方24

 波の国は本日ポカポカ陽気だった。


「いい天気だね~」


 港街から王都に向かって伸びる道の最初のポイントである小さな村。


 その喫茶店の屋外テラスにて緑茶を飲みながら一義はのんびりと言った。


「だね~」


 同意の声が返ってくる。


 緑色の髪に緑色の瞳を持つ美少女のものだ。


 こちらもまた一義の隣で緑茶を飲んでまったりしていた。


 一義は美少女の名前を知っていた。


 シャルロット。


 そういう名前だ。


 一時を霧の国のシダラにてともに過ごし、アイリーンを巡って闘争した経験を持つ。


 シャルロットの魔術は斬撃。


 腕を振るうことで、弧を描いた腕の延長線上に見えない斬撃を飛ばす。


 その威力は凄まじく、下手な軍隊なら相手にならないほどだ。


 結果論だけで云うのなら一勝一敗。


 一回殺されて、一回降参させている。


 しかして一義もシャルロットもさばさばした性格で禍根を残すことはなかった。


 では何故一義が波の国でシャルロットと共にしているかというと、これは偶然と意図的な行動の二重奏の結果であった。


 一義は今全身を包む悪者魔術師が着てそうなローブを羽織っている。


 東夷……エルフは白い髪に白い瞳に加えて浅黒い肌をもっているので目立つのだ。


 今はお茶を飲むのに邪魔なため外しているが顔を隠す仮面も席に置かれている。


 頭部からつま先までをすっぽり覆うローブに顔を隠す仮面。


 石を投げられても仕方ないほど怪しいが、少なくとも王都に着くまでは面倒事を避けるため一義はカモフラージュをしているのだった。


 そしてシャルロットとの関係性になるが、そんな怪しさ爆発な一義が波の国で一仕事を終えて霧の国に行こうとしていたシャルロットと港街でばったり出会ったのだ。


 シャルロットは最初訝しんだが仮面を外せば納得してくれた。


 そして運び屋という職業のシャルロットに旅費の一部を握らせて王都までの道案内を頼んだのだ。


 シャルロットは快く受諾してくれた。


 そんなこんなで港街を二人で出発し、最初の村に着いたのが昼頃。


 一義はシャルロットをおんぶなり抱っこなりして超音速で王都へ向かうことを提唱したが、シャルロットが反対した。


「どうせだから波の国を堪能したらいいよ」


 と。


 波の国は島国ということもあって海産物に恵まれている。


 和の国のような刺身は無いが、焼き物、煮物、干し物には事欠かない。


 和の国とは一風変わった海の幸を堪能できるのだ。


 それらを味わった後のお茶である。


 美味しくなかろうはずがなかった。


「で?」


 お茶を味わいながらシャルロットが問う。


「何ゆえ一義が波の国にいるんだい? かしまし娘も連れずに」


 当然の質問だった。


 港街では、


「ここではちょっと」


 と言葉を濁したが、


「ここまでくれば壁に耳ありもあるまい」


 と一義は判断した。


 エレナの境遇とエリサとエリスの悪意をひとくさり話す。


 シャルロットは目を見開いて驚愕した。


「マジ?」


「マジ」


 躊躇はない。


 そもそも冗談として成立するような状況でもない。


「道理で……」


 シャルロットは得心いったとばかりに納得した。


「何が道理で?」


「僕はね一義……第一王女エリサ様に薬を運ぶために波の国に来たんだよ。難病に苦しんでいるエリサ様の一助となるためにね」


「へえ」


 一義は茶を飲む。


「まさかエリス様が少しずつ毒で弱らせているとはね。道理で薬も効かないはずだ」


「寿命とかわかる?」


「もって一年かな?」


「今後の毒物の停止を加味すれば?」


「そこまでは……」


 シャルロットはハンズアップで降参した。


「そっか」


 一義は茶を飲む。


「それで?」


「それでとは?」


「一義は波の国に来て何しようってのさ?」


「誠心誠意全力全開でウェイブ王を説得しようかなって」


 ぼんやりと言って茶をすする。


「それは……一義らしいね」


 くつくつとシャルロットは笑う。


 敬不敬の概念は一義にもシャルロットにも無い。


 一義にとっては過去のモノでシャルロットにとっては必要ないモノなのだ。


「さて……」


 茶を飲み干すとシャルロットが言った。


「そろそろこの村を出ようか。半日歩けば次の街につくよ」


 そう言って立ち上がる。


「…………」


 一義も湯呑みを傾けてグイと茶を飲み干すと、仮面をつけてローブを翻す。


 悪者魔術師然とした者の出来上がりだ。


 ある種今まで一義たちの周りに現れた暗殺者にも酷似している。


 特に仮面。


「一義、支払いよろしく」


 シャルロットはウィンクした。


「雇った金はどうしたのさ?」


 憤然として一義は言う。


「その代価はあくまで王都に案内すると云う事項に対してのモノだよ。宿泊費や食事代には加味されないさ」


 悪戯っぽく笑われる。


 それはとてもシャルロットらしかった。


 しぶしぶと一義は二人分の御茶代を支払った。

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