第141話 いけない魔術の使い方10

 次の日の昼……一義は王都のスラム街に一人でいた。


 ディアナに頼んでいた王都の地図を見ながら治安の悪い方悪い方へと歩む。


 音々と花々が同行したいと申し出たがエレナの護衛があるため断る一義だった。


「そういえば姫々がいませんね」


 というディアナに、


「メイド道を極めるための旅に出ましたよ」


 と、てきと~な言葉を返す一義。


 ディアナが全面的に信じたはずもなかろうが、それ以上の追及もされなかった。


 一義にしてもありがたいことである。


 そんなわけで地図と目標を照らし合わせてスラム街を歩く。


 途中悪漢の類に絡まれたが一義は魔術によってそれを排斥した。


「わかっちゃいたが面倒なところだ」


 それが一義の正直な感想だ。


 無論王都ともなればミスト女王陛下の威光が轟く街だが、それでもこういった治安の悪い場所が根絶できないのは人類の永遠の命題だろう。


 一義は斥力で悪漢の一人を弾き空気抵抗によって燃焼させ遺体も残さず消失せしめると、


「逆らったらこうなるってことを覚えておいて」


 と取り巻く悪漢たちに脅しをかけた。


 悪漢たちは威圧されたように納得する。


 それらが残虐性を発揮できるのは自身より弱い者たちのみだ。


 一義のような強者には媚びへつらう以外の選択肢はなかった。


 一義にしてみれば、


「別に君たちの思考にケチをつけるつもりはないけどね」


 といったところだ。


 そして悪漢の一人を捕まえて、


「ファンダメンタリストの教会まで連れてって。それとも死にたい?」


 誠心誠意お願いするのだった。


 返事は即答で肯定的なものだ。


 不本意ではあろうが悪漢にしても命を天秤の片方に乗せられてはそちらに傾かざるをえないだろう。


 一義は悪漢のうずまく心中はともあれ案内してもらえるならばそれ以上を求めるつもりもなかった。


 そんなわけで一義は悪漢の一人に連れられてスラム街の奥地……そこに建っているファンダメンタリストの教会に辿り着く。


「ありがと」


 と言って悪漢を解放する。


 それから教会の扉を開けて中に入る。


「お邪魔します」


 挨拶も忘れない。


「おや。初めて見る顔ですね。ようこそ来訪者さん」


 神父然とした老齢の男が一義を迎えた。


 カソックを着て首からロザリオを垂らしている。


「入信者ですか? ようこそヤーウェ教に。迷える子羊が神の懐に誘われることは歓迎すべき事柄です」


 神父はニコリと人好きのする笑顔を一義に向けた。


 対して一義は言った。


「唯一神を信仰するつもりは無いです。神は八百万もいるというのが地元の教えでして」


「邪教を信仰されているようで。それではどうして教会の扉を叩いたのです?」


「波の国の第二王女を見逃してほしい。それを申告に来たんだよ」


「なんのことでしょう?」


 神父は空っとぼけてみせたが、その目に光る不穏な感情を見て一義は外れでないことを確信した。


「名役者だね」


「褒められているととってもいいのでしょうか? 心当たりはありませんが……」


「だが看過できない問題でね。ここでファンダメンタリストは壊滅させる」


「物騒ですね」


 神父が苦笑すると同時に一義の死角から暗殺者が襲い掛かった。


 毒ナイフを振るう暗殺者だったが斥力に弾かれて空気抵抗に晒され燃焼して果てた。


「……っ!」


 神父の顔に戦慄が奔る。


「神の威光を軽んじる異教徒に言葉を尽くしても無意味な様ですね」


「わかりきったことを今更」


 飄々と一義は肩をすくめる。


「異教……あるいは異端には死を。それを承知で来訪したのでしょう?」


「まぁファンダメンタリストに言葉で解決をはかれるとは思ってないね」


「では神の御許に送って差し上げます。悔いるなら神の懐の内でいくらでも」


「素直に殺してやるって言えないのかな?」


 そんなとぼける様な一義の言葉に対して殺気が膨れあがった。


 ファンダメンタリストの擁する暗殺者たちが一義を敵と認めたのだ。


 その誰もが尋常ならざる能力を宿している。


 中略。


 一義は襲い掛かってきた暗殺者たちの悉くを消失させた。


「……っ!」


 あまりに凶悪な一義の能力に神父は絶句する。


 暗殺者という戦力を失ったファンダメンタリストの神父目掛けて一義は言った。


「さて……それでエレナを害そうとしているファンダメンタリストの刺客は誰だい?」


「全ては神の御心のままに……」


「そういうのは聞き飽きてるから本質だけ切り出してくれないかな? それとも拷問を受けてみる? 久しぶりだけど僕はこれでもサディスティックな性格だよ?」


「全ては神の御心のままに……」


「オーケー。つまり話す気はないと」


 一義は首肯した。


「なら拷問してあげるよ。いつまで耐えられるか見物だね」


 凶悪な表情で神父に歩み寄る一義。


「止めなさい……! 神の使徒を害するなぞ許されるとでも……!」


「ああ……それ以上言わなくていいよ。言葉は哀願と屈服のために取っておいた方がいいと思うな」


「ひ……っ!」


 それ以上何も言えない神父だった。


 そして拷問が始まる。


 最初こそ耐えていた神父だったが一義の拷問に耐え切れなくなったのかあっさりとエレナを狙う暗殺者の正体を口にした。


「なるほどね」


 一義にしてみれば当然の結末だった。


 そも……そうでなければ論理が通らないのだ。


 エレナを狙うファンダメンタリストの刺客の正体は当然の帰結だった。


 ヒントは至る所にある。


 だからその名を聞かされても驚きはしなかった。


 むしろ予想に合って安心したほどだ。

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