第138話 いけない魔術の使い方07
大名行列が王城に着いた。
一義たちはランナー車から降りる。
座りっぱなしであったため一義は反射的に背伸びをした。
そこに、
「いーちーぎっ!」
と一義を呼ぶ声が高らかと。
護衛の兵士をかきわけて、燈色の髪に燈色の瞳を持ったジンジャーに似た美少女が一義目掛けて駆け寄ってきた。
敵ではない。
それは確かだ。
宮廷魔術師におくられるマントを羽織った少女だ。
雷帝アイオン。
そう呼ばれ恐れられている魔術師である。
ちなみにジンジャーの姉。
姉妹揃って一義にハーレムに入っているのだった。
「一義おかえりーっ!」
言って一義に飛びつこうとするアイオンだったが、
「…………」
一義は無言でスルリと避ける。
結果、
「ふにゃ!」
「あう!」
アイオンは一義の延長線上にいた音々に抱きついてゴロゴロと城内の庭を転がる。
「なんで毎度毎度音々に抱きつくの!」
「一義がわたくしを避けるから悪いのー」
「僕のせいなの?」
最後のは一義の抗議である。
「ごめんね音々。お詫びのチュー……」
「しなくていい! 音々の唇はお兄ちゃんのもの!」
「ざーんねん」
「残念なんだ」
最後のは一義の感想である。
そしてアイオンは立ち上がり、
「では改めて……」
ジリジリと一義に間合いを詰める。
さすがに突撃されているわけでもないので身を躱す必要は無かった。
アイオンは一義の両手を両手で掴んで言う。
「一義!」
「あいあい?」
「わたくしとデートしよ?」
「いいよー」
一義は軽く首肯したが、
「駄目ですよご主人様……」
「お兄ちゃん八方美人すぎ!」
「エレナの護衛とはいえ最近あたしと音々に疎かになってないかい?」
「私も一義とデートしたいです」
「一義様モテモテですね」
「俺だって……!」
ハーレムたちは抗議した。
さもありなん。
だがそれらに対してアイオンが言った。
「わたくしは剣劇武闘会に連れていってもらえなかったんだから、これくらいのサービスはいいでしょ?」
そんなアイオンの言に、
「むぅ……」
とハーレムの女の子たちが怯む。
中略。
そんなわけで一義は王都に戻って早々アイオンとデートをすることになった。
とは言っても王都の市場をひやかして喫茶店でお茶する……つまりエレナとのデートをなぞるだけだったが。
「やっぱり一義は違うなぁ……」
剣劇武闘会で優勝したことを伝えるとアイオンは我が事のように喜んだ。
「ジンジャーは元気だった?」
「まぁ……魔術の訓練に励んでいたよ」
紅茶を飲んで、それから一義は言葉を続ける。
「雷帝アイオンに対して雷皇ジンジャーと呼ばれることを最終目標にしてるみたい」
「雷皇ね……」
アイオンは渋い顔をする。
「なにか問題が? 健気で可愛いと僕は思うんだけど……」
「それについては否定しないけど何事にも向き不向きがあるからねぇ……」
憂慮するようなアイオンの言に、
「…………」
一義は答えず茶を飲む。
「正直な話……」
「…………」
「わたくしがジンジャーの負い目になってるんじゃないかって思わざるをえません……」
「どこかで聞いた話だね」
心の中でそう呟く一義。
言葉にしては、
「そこまでアイオンが背負うこともないと思うけどなぁ」
というに留める。
「でも……」
それでも、と言いたげなアイオンの言葉を遮って、
「キスしようか」
一義は爆弾を投下した。
ポカンと空中にオノマトペが描かれる。
一義の言葉の意味を正確に理解するのにアイオンは五秒かかった。
そして、
「ふえ……!」
と動揺する。
「なんでいきなり?」
「そうしたら元気出るかなって思って」
一義の答えはよどみない。
「まぁ……デートだし……ねぇ……」
遠慮がちに肯定するアイオン。
雷帝アイオンと東夷の一義というだけで店内では注目が集まっている。
それらの衆人環視を無視して、
「「……っ」」
一義とアイオンはキスをした。
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