第136話 いけない魔術の使い方05
そして夜が来る。
夕方までエレナとデートを楽しんだ一義はハーレムのジト目で迎えられたが、元よりそんなことを気にする精神を持ち合わせてはいなかった。
剣劇武闘会もエレナとのデートもつつがなく終了し、ディアナと愉快な仲間たちは明日には王都に発つ予定である。
そんな明日を備えながら一義は風呂に入っていた。
既に慣れた自身の宿舎の……である。
音々と花々とアイリーンはエレナの護衛のため学院にて寝泊りせねばならず結果として一時的にシダラに戻っている現状では一義の悪夢を受け止めるのは姫々の独壇場だった。
かしまし娘以外のハーレムも一義と月子の過去は知っているものの、かしまし娘と違って経験の共有までは出来ていない。
そういう意味ではかしまし娘だけが一義をあやすことの出来る存在なのだが、それはある意味で自慰行為ともとれた。
一義自身もそれを自覚してはいるがそれでも他に方法が無いのもまた事実である。
そんなわけで一義にとって女の子と云うのは自身を元気づける存在と言って言い過ぎることのない存在だ。
と、心の中で言い訳をしながら一義は姫々とビアンカとジンジャーとハーモニーと一緒にお風呂に入っているのだった。
全員水着着用。
「お医者様でも和の国の湯でも惚れた病は治りゃせぬ……ってね」
じじくさく長い吐息をついて一義は肩まで湯につかる。
「極楽極楽」
「…………! …………!」
ハーモニーを抱きしめながら。
ハーモニーは顔を真っ赤にして何かを主張していたが、ハーモニーリンガルこと花々がいないため一義に意思が伝わらず、
「うん。可愛い可愛い」
一義にあやされるのみだった。
「本当に明日には王都に発つんですの?」
これはビアンカ。
「まぁ用事も終わったし」
「王都に永住するつもりじゃないよね?」
これはジンジャー。
「ちゃんとシダラに帰ってくるよ」
「…………! …………!」
これはハーモニー。
「うん。可愛い可愛い」
ハーモニーの言いたいことは何一つ通じなかった。
代わりとばかりにビアンカが言う。
「けれどエレナ王女の護衛としての役目を受けたのでしょう。どうやって区切りをつけるつもりですの?」
「暗殺者を殲滅すればいいんじゃない?」
「そんな簡単にいくものですの?」
「知らない」
「知らないって……」
「問題は……エレナだから狙われてるのかどうかだね。まぁ何とはなれば最終手段も無いではないけど」
「一義ならそうでしょうね」
ビアンカはそれで納得したらしかった。
ムニュウと女の武器を一義に押し付けながら風呂に浸る。
「エレナ王女まで一義のハーレムに入らないか心配……」
これはジンジャーだ。
一義に寄り添ってジンジャーは言う。
「今日のデートは成功したの?」
「僕は楽しんだけどエレナが楽しんだかは本人に聞くしかないんじゃない?」
「蛇炎の騎士までハーレムに入れるくらいだから王都にもう一人ハーレムが出来ても不思議じゃないけどさ」
「ジャスミンねぇ……」
「本当に戦略を超えて政略レベルの集団になるよ?」
「まぁ今更」
一義は全く動じない。
「そういう意味では私が一番無価値だね」
ジンジャーは切なそうに言った。
軍事レベルで突きぬけている女の子がいる。
政治レベルで突きぬけている女の子がいる。
故に一義のハーレムは驚異なのだ。
そういう意味ではジンジャーはある種の例外だった。
どちらにも傾かない……いたって普通の女の子。
魔術は使えるが、それでも一般の域は出ない。
負い目を感じるのはしょうがないことだった。
けれど一義はジンジャーの燈色の髪をクシャリと撫ぜる。
「大丈夫。ジンジャーは可愛いから」
根拠薄弱なことをのたまって一義は苦笑する。
「無理に特別になることはないんだよ。そんなものは二の次さ」
「でも……特別じゃないと一義に振り向いてもらえないでしょ?」
「そんな薄情に見える?」
「少なくとも私の意識では」
「ふーん」
一義は思案すると、
「じゃあチュッ」
いきなりジンジャーにキスをした。
不意に唇を奪われてジンジャーはポカンとし、それから事実を認識すると真っ赤になって叫んだ。
「何するんです!」
「思い詰めるジンジャーが可愛いからキスしただけだよ?」
「うう……」
反論できないジンジャーだった。
「わたくしにもキスしてくださいな!」
「…………! …………!」
ビアンカとハーモニーが抗議行動をとる。
「だぁめ。こういうのは出し惜しみした方が有難味があるからね」
そう言ってウィンクする一義に、
「ご主人様らしいです……」
姫々が苦笑した。
ビアンカとジンジャーに挟まれてハーモニーを抱きしめている一義だ。
姫々の出しゃばる隙間は無かった。
とはいえ一義に添い寝する特権を持つのは現時点で姫々だけであったから、姫々自身遠慮があったことは否定できない。
そうして夜は更けていく。
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