第109話 エレナという王女15

 次の日。


 場所はディアナの私室。


 一義とかしまし娘とアイリーンとディアナとエレナは茶をしばいていた。


 褐色の美少女にしてディアナの侍女……キザイアが淹れた紅茶だ。


「はふ」


 と吐息をつく一義。


 姫々がたちどころに察する。


「ご主人様……お疲れですか?」


「ん~」


 曖昧に呻きながら紅茶を飲む。


 そして、


「結界を張りながら寝たからね」


 そう白状する。


 要するに超感覚を広げて眠りについたのだ。


 眠りについたのは事実だが、神経をすり減らしたのもまた事実。


「普通に寝ればいい」


 これは花々。


「あたしが結界を張ればいいだけのことだ。旦那様は安眠すべきだろう」


「その気持ちは嬉しいけど……」


 ガシガシと一義は後頭部を掻く。


「まぁ一応エレナの護衛だからね。僕も」


「……一義」


 悲しそうな表情をするエレナに一義は慌てた。


「別にエレナを責めてるわけじゃないよ」


 ほとんど反射で言い訳をする。


「悪いのは暗殺者やそを利用して害そうとする輩だ。エレナが悲しい顔をする必要なんてないんだよ?」


「……ですか」


 憂いをおびた桜色の瞳で紅茶に視線を落とすエレナ。


「まったく……」


 エレナのために語気を強める一義。


「何が楽しくてエレナみたいに可愛い女の子を害そうとするのか……。一晩中問い詰めたい気分だよ」


 吐き捨てて紅茶を飲む。


 半分はわざとだ。


「自分の怒りはエレナではなくソレを取り巻く環境にある」


 と宣言したのである。


 怒りの矛先が自分ではないという安堵感に、


「……一義」


 心なしホッとした表情をのぞかせるエレナだった。


「しかし後手後手に回るのは歯がゆいね」


「仕方ありません。暗殺者は何も事情を知らないでしょうし。芋づる式に背景を掴むしかないのでは?」


「暗殺者からどこのギルドかを聞いて、さらにそのギルドの首根っこを掴んで背景を喋らせるしかない、と?」


「ですね」


 一義の言葉にディアナは肯定する。


 そしてまたまったりとした空気が流れる。


 と、コンコンとディアナの私室……その扉がノックされる。


「陛下、入室してもよろしいでしょうか?」


 そんな声が扉越しに放たれる。


 一義には聞き覚えのある声だ。


 即ち……ジャスミン。


「どうぞ」


 いっそそっけなくディアナは言った。


「失礼します」


 ジャスミンは恐縮してディアナの私室に入る。


 それからつかつかと歩き一義の目前に立つ。


 一義は紅茶を飲みながら問うた。


「僕に何か用?」


「うむ……。式は何時にする?」


「は?」


 ポカンとする一義。


 さもあろう。


 ジャスミンの言っている意味がわからなかったのだから。


 それは一義のハーレムたちも同様だったようで、しげしげとジャスミンを見つめる。


 その瞳に映るのは懐疑だ。


「何を言っているのだコイツは」


 ハーレムの総意を言葉で表すならばそんなところだろう。


「つまりだな……」


 コホンと吐息をついて、


「結婚式を何時にするかと聞いているのだ」


 ジャスミンは意味不明な言葉を言ってのけた。


 ポカンとなる一同。


 キョトンとする一義。


 カーとカラスが鳴く。


「…………」


 しばしの沈黙の後、


「……は?」


 一義は言葉に込められた意図を察せず混乱した。


「だから……!」


「待った」


 歯がゆいというジャスミンを押し留め、一義は現状を理解しようとする。


 つまり、


「ジャスミンは僕に求婚を宣言してるの?」


 確認するような一義の言葉を、


「何を今更」


 とジャスミンは問い返す。


「まぁ俺としては本意ではないのだがな。しかして寄せられる好意を無下にするほど捻くれてもいないつもりだ」


 ゴホンゴホンと咳をしながらジャスミンは言う。


「ご主人様……」


「お兄ちゃん!」


「旦那様?」


「一義?」


「一義様?」


 一義のハーレムが一義をジト目で睨みつける。


 一義はそんな非難をさらりと躱して優雅に紅茶を飲んだ。


「さて……」


 と現状確認を始める一義。

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