第96話 エレナという王女02

「さて」


 と呟いて一義はギシリと椅子の背もたれに体重を預けた。


 それから姫々の淹れてくれた紅茶を飲む。


 一息つくと、


「ハーモニー?」


 と呼ぶ。


 ハーモニーは、


「…………?」


 クネリと首を傾げた。


 一義は一口紅茶を飲み、問う。


「どこか行きたいところある?」


「…………」


 両手をブンブン振るハーモニー。


「花々?」


「何だい?」


「何て?」


「旦那様と一緒なら何処へでも……だそうだよ」


 茶を飲みながら花々は解説する。


 一義がハーモニーに視線を戻して、


「そなの?」


 と尋ねる。


 コクコクと頷くハーモニー。


「じゃあケーキバイキングにでも行こっか」


「…………! …………!」


 興奮したようにハーモニーは頷いた。


 中略。


「なんだかんだで活気があるなぁ……」


 市場を横切りながら一義がそう言うと、


「…………」


 コクコクとハーモニーが頷く。


 ちなみに一義とハーモニーは手を繋いでいた。


 いわゆる一つの恋人つなぎという奴だ。


 指と指とを絡ませて、それだけでハーモニーは顔を赤らめる。


 今日のハーモニーの服装はゴスロリだ。


 花々チョイスである。


「旦那様とデートをするんだから着飾らないとね」


 そう言って花々はハーモニーを着せ替え人形にして、最終的にゴスロリに落ち着いた。


 一義は学院の制服だ。


 白い髪。


 白い眼。


 黒い肌。


 長い耳。


 それらの特徴が一義がエルフだということを告げている。


 エルフが学院の制服を着ているというだけで、それが一義だと誰しもがわかってしまうのだった。


 とある過去の所業によって一義の名は霧の国と鉄の国に震撼とともに広がってしまったから、一義が制服を着れば誰も彼もが道脇に避けてくれる。


 そんなわけで大した出来事もなくケーキバイキングを行なっているケーキ屋に辿り着く一義とハーモニー。


 それから屋内の席に着きバイキング形式を二人分頼むと、ハーモニーが飛びだした。


 おそらく……いや間違いなく食べ放題のケーキが陳列している棚に向かったのだろう。


 一義は店員を呼んで別口で紅茶を注文する。


 紅茶を飲みながらハーモニーを待っていると、ハーモニーはケーキを十種類ほど選んで皿に乗せて戻ってくる。


 そしてはぐはぐと食べ始める。


 食欲魔神ハーモニーの爆誕だ。


 十のケーキは五分と経たずハーモニーの胃に押し込まれた。


 ハーモニーはまた十種類のケーキを皿に乗せて現れる。


 はぐはぐと食べる。


 一義はこちらも三つほどケーキを取って食べている。


 ショートとチョコとモンブランだ。


 そして一義はそれだけで十分だった。


 そもそもケーキを食べなくともいいのだが、ハーモニーは四人分くらいは食べるので義理として一義もバイキングの料金を払ったに過ぎない。


 はぐはぐとしているハーモニーに、


「いっぱい食べて大きくなるといいよ」


 苦笑しながら一義は言った。


 ピタリとハーモニーのフォークが止まった。


 それからふにふにと自身の胸を揉んで一義に視線をやる。


 一義は苦笑してしまう。


「別にそんなことは関係ないよ。今のハーモニーを否定しているわけじゃないんだ。今のハーモニーも十分可愛い。そうじゃなきゃハーレムに入れるはずもないだろう?」


「…………」


 コクコクとハーモニーは頷く。


「だから戯言さ。胸の大きさは僕の女の子に対する勘定には含まないから大丈夫。ただ純粋に健やかに育ってほしいなってこと」


「…………」


 コクコクとハーモニーは頷いてケーキの征服に取り掛かる。


 一義は最後のモンブランを食べ終えて、紅茶を一口。


 ハーモニーは相も変わらずはぐはぐ。


 と、そこに、


「失礼します一義様!」


 そんな声が聞こえてきた。


 チラリとそちらを見やれば兵士が一人立っていて敬礼していた。


「何?」


「王命で学院長室まで一義様をお連れするように言われている者です」


「行きたくない。こちとらデート中だよ? 空気読んで」


「しかして私は王命に従事する兵士です。その点を汲んではくれませんか?」


「学院長が僕に何か用なの?」


「然りです」


「さいですか」


 嘆息する一義。


「それじゃハーモニー……行こっか」


「…………」


 ケーキをペロリと食べつくしてハーモニーはコクコクと頷く。


 ハーモニーは一義のハーレムにして王立魔法学院の特別顧問だ。


 もしも面倒事ならハーモニーも一緒にいた方がいい。


 そんなわけで一義は十分に、ハーモニーは腹六分といったところでケーキバイキングは解散となるのだった。

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