第83話 エピローグ

 鉄血砦が地上から無くなって数日後。


「一義の矛盾の魔術が罪の証ってどういうことですか?」


 アイリーンはそう問うてきた。


「先にも言ったけどね。僕もアイリーンと同じく失ってからその真の価値に気付いた愚鈍な人間だ。月子のマジカルカウンターによって大鬼が具現化し、その大鬼によって殺された月子を見て、復讐の念に燃えて発動したのが矛盾の魔術なんだ。ははっ……馬鹿だよねぇ……。月子の仇をとる魔術じゃなくて月子を守る魔術として発現すればよかったのに……。だからこそ……僕の矛盾の魔術は君の反魂の魔術と同様に手遅れな手段なんだ」


「一義は……可哀想……」


「そんなことはないさ。これは僕の愚かさのツケだ」


 一義はくつくつと笑う。


「ご主人様……そんなことありません……!」


「お兄ちゃんは悪くないよ!」


「旦那様は何もかもを背負いすぎる」


 改めて一義の魔術によって投影され維持されているかしまし娘がそう反論する。


 一義は姫々と音々と花々を具現化することで常人の数千分の一のマジックキャパシティしか持てないでいるのだった。


「でもさ。でもね。それでも僕は愚鈍だ」


「そんなことないです! 一義は……一義は……私を助けてくれました! 絶望に浸された私を救い出してくださりました!」


 必死に説くアイリーンに、


「そんなのは僕の勝手だよ」


 ガシガシと後頭部を掻く一義で、


「それでも……一義によって私は黄金を見ることが出来ました。ならそれは……正しいことではないでしょうか……?」


 アイリーンは反論する。


「ありがとう一義……ありがとうございます……」


「そんなに大したことをした覚えはないよ」


 一義は苦笑する他ない。


「それでも一義は私にとっての黄金です」


「うーん。もしかしてアイリーンが僕にとっての黄金なのかな……?」


 月子の言葉を思い出しながらそう言う一義に、


「そんなことありません……! ご主人様の黄金はわたくしです……!」


「お兄ちゃんの黄金は音々だよぅ!」


「旦那様に黄金の園を見せるのはあたしの役目だ」


 かしまし娘が否定する。


「でも君たちは僕の魔術で維持されている存在だからねぇ……」


 さっぱりと事実を突きつける一義に、


「うう……」


「うえ……」


「むう……」


 と言葉を失うかしまし娘。


「なんでしたらわたくしでも構いませんわよ?」


 と言ったのはビアンカ。


「私も一義のこと大切に思っているよ?」


 とこれはジンジャー。


「…………! …………!」


 一義の制服の袖を引っ張るハーモニー。


「相も変わらずモテモテだね一義。僕としても妬ましい限りだ」


 と姫々の淹れた紅茶を飲みながらシャルロットが言う。


 場所は一義の住まう宿舎のリビング。


 そこに一義とハーレムが集まっていた。


「それでシャルロット。鉄の国の皇帝は何て言ったの?」


「反魂の魔術師と同様に矛盾の魔術師……つまり君も鉄の国は諸手を挙げて歓迎する……と言っていたよ……」


「でもそれって鉄の国の宮廷魔術師になれってことでしょう?」


「まぁ……そうだね」


「嫌だよ。どちらにせよ税金を納めなきゃいけないなら、むさくるしい男じゃなくて可愛いディアナの方がまだマシだね」


 そう言って肩をすくめる一義に、


「やっぱり私たちは相思相愛でしたね!」


 ディアナが感極まったように抱きついた。


「一義様! 一義様! 一義様!」


 ディアナは一義の頬に頬ずりをする。


「ちょっとディアナ。少し離れて……」


「嫌ですわ。鉄の国に取られるようなら一義様を殺して私も死にます」


「だから鉄の国にはいかないって」


「では女王命令として一義に抱きつくことを強制します」


「あい。女王陛下」


 そう言って一義はディアナを抱き上げる。


「キャー。好きですわ一義様……!」


「いーちーぎっ!」


 今度は燈色の髪に燈色の瞳を持った貴族服を着た美少女……雷帝のアイオンが一義に抱きついてくる。


「うわっとと……」


 とバランスをとりながらアイオンの抱きつきに対応する一義。


 そんな一義に、


「隙あり!」


「隙あり!」


 とディアナとアイオンがキスをした。


 マウストゥーマウス。


 ディアナとアイオンに唇を奪われて、


「…………」


 ポカンとする一義。


「「「「「「「「…………」」」」」」」」


 銀色と黒色と赤色と金色と青色と緑色と燈色と桃色の美少女が同様にポカンとする。


「ねえ一義様?」


「どっちのキスが甘かった?」


 ディアナとアイオンがそう問うてくる。


「どっちが甘いって言われても……」


 狼狽える一義に、


「ずるいです……!」


「ずるいずるいずるい!」


「ずるいよ!」


「ずるいです!」


「ずるいですわ!」


「ずるい!」


「…………! …………!」


 姫々と音々と花々とアイリーンとビアンカとジンジャーとハーモニーがそう抗議して、


「ふふっ。ははっ……! 大変だね一義……!」


 おかしくて仕方がないとシャルロット。


「わたくしもキスします……!」


 姫々がそう言う。


「音々もキスするよ!」


 音々がそう言う。


「あたしだってキスしたい」


 花々がそう言う。


「わたしだってキスしたいです!」


 アイリーンがそう言う。


「わたくしだってキスしますわ!」


 ビアンカがそう言う。


「僕もキスしてあげようか……一義……?」


 シャルロットがそう言う。


「一義……私ともう一度キスしてみます?」


 ディアナがそう言う。


「私だって一義とキスしたいよ!」


 ジンジャーがそう言う。


「…………! …………!」


 ハーモニーは無言で一義の制服の袖を引っ張る。


「わたくしも一義ともう一度チューしますよ?」


 アイオンがそう言う。


「勘弁してよ……」


 他に言い様もなく一義はうんざりとして後頭部をガシガシと掻くのだった。

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