第74話 いけない魔術の使い方10

 それから少し経って、


「ご主人様……お風呂が入りましたよ……。僭越ながらわたくしがお背中を流させてもらいます……」


 姫々がそう言ってきた。


「ううん。今日はいいや」


「お一人で入るおつもりですの?」


「今日はシャルロットと入るつもりだから」


「一義……君はねぇ……」


 うんざりと言うシャルロット。


「駄目……?」


「君に乞われて無下にするほど捻くれてはいないよ」


 そう言ってシャルロットは肩をすくめるのだった。


 つまりそういうことで一義とシャルロットは風呂に入ることになった。


「ああ……ただ君と風呂に入るには条件があるよ」


「なんだい?」


「僕らは裸のお付き合いをしよう……と……」


「水着の着用禁止?」


「駄目かい?」


「僕は別に構わないよ」


「ならそういうことで……」


 そうして一義とシャルロットは裸になって互いに背中を流しあい、それから湯船につかった。


「ふいーっ……。和の国でも思ったけど風呂は文明の極みだね」


「うん。僕もお風呂は好きだよ」


 一義は濡れた白い髪をかきあげながらシャルロットの裸体を見る。


 シャルロットの裸体は錬金術でもこうはいかないと云う美の塊だった。


 ふくよかな胸。


 突き出たお尻。


 しかして二の腕もお腹も引き締まっている。


 まるで彫像の如き美の集約だったのである。


 それをボーっと眺める一義に、


「ふふっ……。さすがの一義も僕の裸体には反応するのかい?」


 挑発的な笑みを浮かべるシャルロット。


「うん。まぁ。いい体してるなとは思うね」


 一義はそう言うのだった。


 シャルロットは一義の股間に目をやりながら言う。


「なんだい。やけに淡泊じゃないか」


「そもそも女体は見慣れているからね。シャルロットの裸は美しいけど……それは感嘆であって下衆の感情じゃないよ」


「それは悔しいなぁ」


「なんでさ?」


「一義……君に女性として見てもらえてないって事だろう?」


「そうなるのかな……。でもシャルロットの裸体が綺麗だというのは本当だよ?」


「僕の胸……揉んでみるかい?」


「いいの?」


「ああ、君にならいいさ」


「じゃあ失礼して……」


 一義はシャルロットの胸をふにふにと揉む。


「花々なみに弾力があるね」


「ふふ……僕も変な気分になってきたよ」


 挑発的にシャルロット。


「でも残念。君とコトをいたすつもりはないよ」


 シャルロットの胸から手を離し、ハンズアップする一義。


「ううん……。惜しいなぁ……」


 くつくつとシャルロットは笑う。


「ま、女の子を抱きたいのなら、モデル体型の姫々に、幼女の音々に、ふくよかな花々がいるからね」


 あっさりと一義。


「君に最初から付き従っていたかしまし娘……か」


「うん。彼女たちには感謝をしてもしたりない」


「そっか。じゃあ一義が僕に転ぶことはないか……」


「うん。まぁ。そうだね」


 一義は否定することなく頷くのだった。


「と、いうことらしいよ」


 とシャルロットは一義ではない誰かに声をかける。


「?」


 と首を傾げる一義の視界で、


「…………!」


 姫々に音々に花々にアイリーンにビアンカにジンジャーにハーモニーが風呂場のドアを開けて転がり込んでいた。


 全員が全員、水着を着用している。


「……もしかして、張り込んでいたの?」


 そうジト目になる一義に、


「わたくしはよした方がいいと言ったのですけど……」


 狼狽えながら姫々に、


「だってお兄ちゃんがシャルロットと裸のお付き合いをするっていうから!」


 吠え立てる音々に、


「旦那様が籠絡されるか否か不安でしょうがないんだよ」


 言い訳をする花々に、


「一義は自分をもっと大事にすべきです」


 説教するアイリーンに、


「わたくしを差し置いてシャルロットとコトに及ぼうなど不埒ですわ」


 抗議するビアンカに、


「うー。だって私たちには水着の着用を強要したのに……」


 憤懣やるかたないとジンジャーに、


「…………! …………!」


 雄弁な沈黙をするハーモニーだった。


「僕がシャルロットに手を出すはずないでしょ。君たちにさえ手を出さないのに……」


 うんざりと一義は言う。


「「「「「「でも……」」」」」」


 と暗い感情を御しきれないハーレムたちに対して、


「…………」


 ハーモニーだけは素直に自分の感情に従い一義に抱きつく形で風呂に入るのだった。


「あ、ずるいです……」


「ずるい!」


「ずるいね」


「ずるいです」


「ずるいですわ」


「ずるい」


 そう言ってハーレムたちも入浴してきた。


 ちなみに宿舎の風呂が大きいと言っても最大収容人数は五人がせいぜいである。


「こんな人数が宿舎の風呂に入るわけないでしょ……」


 うんざりと一義は嘆息するのだった。

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