第39話 いざ王都16
狼狽する山賊たちの……その首を切り捨てる一義の和刀。
狼狽する山賊たちの……その頭部を握りつぶす花々の手。
それは一方的な虐殺だった。
生き残った山賊たちは……リーダー格も含めて一義たちの虐殺が自分に及ばない内に蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「やはり金で雇った山賊など役には立たぬか……」
黒衣仮面の一人がそう評した。
「ヤーウェへの反逆者が選んだ護衛だ……。納得と言えば納得である……」
もう一人の黒衣仮面がそう評する。
「では……どうするおつもりで……?」
姫々が馬車から……そして斥力の障壁から抜け出てそう尋ねた。
「簡単なことである……」
「障害があるのなら……」
「叩き潰すのみ……」
三人の黒衣仮面は毒ナイフを構えて魔術障壁の外にいる一義と姫々と花々に襲い掛かった。
「……っ!」
姫々は襲い掛かる黒衣仮面に初めに銃でもって対抗した。
ハンマースペースから銃剣付きのマスケット銃を二丁取り出すと、正確に黒衣仮面を狙って狙撃する。
しかして黒衣仮面は弾道を見切って避け、姫々に襲い掛かる。
姫々は撃ち終えたマスケット銃を銃剣として扱い黒衣仮面に対抗するのだった。
花々はもっと単純である。
鬼……大陸西方でいうところオーガとしての能力……金剛を身に纏い、力技で黒衣仮面のナイフを無力化する。
いくら黒衣仮面がナイフを振るおうが花々に傷一つつけられなかった。
「…………!」
驚愕する黒衣仮面に、
「思い知ったかい? じゃあね」
そう言って花々は渾身の力を込めて殴り飛ばす。
それだけで黒衣仮面の仮面は砕け、同時に頭蓋骨まで砕けて……黒衣仮面は死ぬのだった。
それが花々と黒衣仮面の決着だった。
「すごい……!」
と驚嘆の呟きを発したのはアイリーン。
それほどまでに花々は圧倒的だった。
そして、姫々はというと、
「…………!」
「…………!」
銃剣でもって黒衣仮面の毒ナイフを弾いて弾いて弾き返した。
次の瞬間、黒衣仮面が距離を取る。
それに応じて姫々も新たな銃剣付きのマスケット銃を二丁取り出す。
「ファイヤーボール!」
と黒衣仮面はパワーイメージを世界に投影……結果として炎の銃弾を姫々へと繰り出す。
対して姫々は銃弾を一発撃って黒衣仮面と自身との中間地点でファイヤーボールを爆発させる。
それから、
「距離を取ったのは不覚ですね……。その不覚……つかせてもらいます……」
不敵に笑うと姫々はマスケット銃を次から次へと取り出して山嵐のごとく隙のない弾幕を展開して、黒衣仮面を近づけさせないようにする。
そのあまりの弾幕に黒衣仮面は一旦木々の中に身を隠す。
しかして、
「甘いですよ……!」
と言った姫々はハンマースペースから野砲を取り出して成形炸薬弾の備わっているソレを砲撃した。
木々の間に隠れている黒衣仮面を木々ごと吹っ飛ばす一撃だ。
着弾と同時にそれは山の一部をクレーターと化した。
爆音。
後の衝撃波。
当然黒衣仮面は跡形も無く消し飛ぶことになった。
それが姫々と黒衣仮面の決着だった。
そして、一義はというと、
「……っ!」
「…………!」
金髪金眼の黒衣仮面……フェイと互角に戦っていた。
和刀を持つ一義に、フェイも和刀を持って戦っていた。
和の国によって鍛えられる和刀は大陸西方においても斬撃の鋭さから重宝される。
ファンダメンタリストが重用してもおかしくない切れ味を誇るのである。
そんなこんなで一義とフェイは互いに和刀で丁々発止のリズムを刻んだ。
剣術は一義が上。
身体能力はわずかにフェイが上。
総合して互角の丁々発止であった。
一義の斬撃をフェイが受け流し、カウンター気味に払ったフェイの斬撃を一義はバックステップで避ける。
「やるね……」
挑発するような一義に、
「是」
と無感動に答えるフェイ。
そして一義の斬撃はフェイの和刀によって弾かれ、フェイの斬撃は一義の和刀によって弾かれる。
丁々発止。
丁々発止。
しかして均衡は崩れる。
上段から和刀を振るおうとしたフェイの思考を完全に看破して……一義は魔術を使って加速した。
そして超音速で体当たりをして互いにもつれ合い転がる一義とフェイ。
当然、先に体勢を整えたのは一義。
フェイの体に馬乗りになり……その心臓に向かって和刀を突き刺そうとして、
「駄目ぇ!」
と悲鳴のように叫ぶアイリーンの声を聞いて、紙一重で和刀を止める一義。
「…………」
無言で、しかしていつでも和刀をフェイの心臓に突き刺せる形で止まる一義。
「…………」
無言で、しかしていつでも和刀を自身の心臓に突き刺さる覚悟を持ったフェイ。
「お願い一義……フェイちゃんを……殺さないで……」
そして場を支配するアイリーンの懇願。
「しかしね……」
と一義は言葉を紡ぐ。
「フェイを殺さなければ事態は解決しないよ?」
「それでも殺さないで……」
無茶を言うアイリーンだった。
「……まぁ君がそれでいいのならいいけどさ」
一義はそんな無茶を受け入れて和刀をフェイの心臓から引いた。
「姫々……和刀の維持を解いていいよ」
「しかし……危険です……!」
「もうフェイの剣筋は読めたから。大丈夫だよ姫々」
「ご主人様がそう仰るのであれば……」
姫々は投影の維持を止める。
素手となった一義は馬乗りになっているフェイから退くとケンケンと一本足でバックステップする。
フェイは跳ね上がるように起きて体勢を整えた。
和刀を中段に構えて一義に問う。
「何故我を殺さない……?」
「なんでって言われてもね。美少女のお願いはなるたけ聞くことにしてるんだ」
「戯れているのか?」
「そんなつもりはないよ?」
「是。死ね」
あっさりとそう言うとフェイは和刀を振るって一義に襲い掛かる。
「ご主人様!」
「お兄ちゃん!」
「…………」
「一義!」
花々以外のハーレムは悲鳴のように一義を呼んだ。
対する一義は、
「大丈夫大丈夫」
と気楽に言ってフェイの斬撃を弄んだ。
上段からの唐竹割を体を捻ることで避け、下段からの斬り上げは刀身を蹴ることで筋を逸らし、横薙ぎに振られた剣はバックステップで躱し、続けて刺突が襲いくるとその刺突を紙一重で避けてフェイに接近……腰の回転だけで力を生み出し拳に集約、寸勁を放つ。
「が……ぁ……!」
呼気を逆戻しに吐き出して、フェイは吹っ飛んだ。
「強い……!」
アイリーンが呆然と評した。
フェイはよろよろと立ちあがり、
「…………!」
無言で気迫を伝え、和刀を構える。
一義はガシガシと後頭部を掻いた。
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