4-2「ただのって言うなぁー!」
夏休みの宿題をお互い教えながら(大体俺が教えるのだが)黙々と作業を続けて一時間。
俺はずっと堂庭が発したあの言葉が頭から離れなかった。
女の子のゲームで遊びましょ!
――駄目だ。絶対幼女が出てくるギャルゲーを俺にやらせるつもりだ。
あれだけ目を輝かせていたからな……。良い予感が全くしない。
「ねぇ、ここの答え何?」
「……自分で考えろ」
「えぇー。さっきから晴流、冷たくない? もっとこう、楽しくいこうよ!」
「お前はもう少し脳みそ使え。そうすれば俺みたいにうんざりするだろうからさ」
「むぅ、せっかくの夏休みなのに……。もう少し前向きに考えようよ!」
誰のせいだと思ってんだこのロリコン。
「じゃあこれが終わったら解散でいいか? そしたら俺のテンションは上がるぞ」
「はぁ、何言ってんの? 今日のメインイベントをやらないで帰るとか馬鹿なの? 阿呆なの?」
「あのな……俺はお前と幼女ゲーなんてやりたくないんだよ」
「え……あたし幼女のゲームなんて一言も言ってないけど」
「でも幼女なんだろ?」
「…………そうだけど」
ふてくされたように呟く堂庭。
結局予想通り幼女が登場するゲームをやるんじゃねーか。
もう尻尾を巻いて逃げ出したい……。
でも後々面倒になるだろうからなぁ。大人しく引き受けるしかないんだよね。
はぁ……。
尻に敷かれる世の夫たちの気持ちが分かった気がするぜ……。
それからしばらく宿題を埋める作業が続いた。だが時は待ってくれない。やがてその時は訪れる……。
「よし、宿題は終わり! じゃあまずあたしの嫁達を紹介するわ! その目でしっかりと焼き付けておくのよ!」
本日のお楽しみタイムになり、堂庭のテンションはマックスに達したようだ。俺はだだ下がりだが。
堂庭は背の高い大きなタンスの前に移動し、これまた大きな観音扉をゆっくりと開いていく。
「おま、何だよこの量!?」
中には大量のフィギュア(ロリ)やマンガ(ロリ)、ゲーム(ロリ)がぎっしり詰まっていた。
部屋のあちこちにも並べてあるが、まさかそれ以上に隠し持っていたとは思わなかった。
「ぐへへー、可愛いでしょー?」
「ごめん、キモい」
そんな頬を緩めないで下さい。綺麗な顔が台無しです。
「これ、あたしの本妻。ごちわさのキノちゃん!」
「……ただのフィギュアじゃん」
「ただのって言うなぁー!」
睨まれる。いや、でもこれフィギュアですよね? 無機質な固形物ですよね?
「あたしの嫁を馬鹿にするんじゃないわよ? ほら、こう下から覗くと……グヘッ、パンツが」
ヤバい、幼女をロックオンした時のような暴走モードに入りかけているな……。つかマジでキモい。
「えへへ、愛してるよぉ」
「ちょ、そんなとこ触りながら言うんじゃねぇ!」
いくらフィギュアとはいえスカートの中に指突っ込んでニタニタ笑う光景は女の子であっても気持ち悪い。
うん、これは真剣に更生させる策を考えないといけないな。
「……嫁紹介だけしたいなら俺はもう帰るぞ。じゃあな」
「待って! 今から遊びましょ! ね?」
腕をぎゅっと掴まれる。こいつ、どんだけ俺と幼女ゲーで遊びたいんだよ。
「なら早くしろ。さっさと済ましてやるから」
「ふふっ、ちょっと待っててねー」
そう言った堂庭はタンスの中に詰まれた山々に手を突っ込んで漁りだした。
そして……
「じゃじゃーん! 二次元の時代はもうお終いなのだ!」
「うわ、VRゴーグルじゃんそれ。買ったのかよ!」
「ええそうよ。VRで幼女と遊べるゲームが発売されるって聞いて衝動買いしちゃったのっ!」
「…………値段聞いてもいいか?」
「パソコンも一緒に買ったから総額で大体四十万くらいね!」
「馬鹿かよ!? お前馬鹿かよ!」
流石富裕層……。その金を日々の生活に悩む俺達庶民に使えばより多くの人が幸せになれたというのに……。資本主義って理不尽で残酷だよね、ほんと。
「まあやってみればあんたも分かるって! ね、一緒にロリコンになろ?」
「ふざけんな、俺は意地でもそんな泥沼にはハマらないぞ!」
フラグを立てた感じになってしまったが、俺がロリコンになるなんて有り得ない。なりたくもない。
堂庭の異常なる幼女愛を直そうとしているのに、俺まで感染してしまったら元も子もないからな。
「準備するからもう少し待っててー」
言いながらパソコンを慣れた手つきで操作する堂庭。
しかしこいつ、ロリに関しては本当にいつも全力だよな。
「因みになんて名前のゲームなんだ?」
「それは……後で教えてあげる」
何故か恥ずかしそうに答える。
そんなに言いづらいタイトル……なのか?
やがて準備も終わり「画面の前に来て」と手招きされたのでしぶしぶ移動する。
そして手渡されたVRゴーグルをセット。ゲーム自体は嫌だったが、VRは初体験なので少し楽しみだったりする。
「うぉぉ……」
映し出されたのは六畳間ぐらいの洋室。
どうやら子供部屋のようで勉強机や縫いぐるみが置いてある。
また、絵本や文房具などの小物もありゲームとは思えないほどリアルな作りだ。
「手を伸ばしたりすると物に触ることもできるわよ」
堂庭の声がまるで別世界から囁いたかのように聞こえる。
が、取り敢えず言われた通り手を前に差し出してみる。すると……。
「うぉ、すげぇ」
映像の中にあるグラスに触れると、手にしていたコントローラーから冷たい感触が伝わってきた。
なんと体の動きだけではなく触覚までリンクしているようで、実際に映像の中に居るような臨場感が味わえる。かがくのちからってすげー!
「あのさ、この部屋なんだけど……俺しかいなくね?」
VRという次世代の遊戯に感激して気付かなかったが、これは幼女と遊ぶゲームだ。なのに幼女がいない。
「あんたが全然動かないからでしょ。……後ろ振り向いてみ?」
後ろって……どうやって向けばいいんだ?
「晴流! 聞こえてる? 体を動かすのよ、あんた自身の!」
「……なるほど」
自由に動き回れるのか。それはすげぇ。
堂庭の指示通り、反対側に体を向ける。するとそこに不自然な程に可愛らしい一人の少女が佇んでいた。
少女はこちらの視線に気付いたのか、振り向いてニコッと笑った後、駆け寄ってくる。
そして身長差で生まれる必然的な上目遣いで……
「瑛美お兄ちゃん! 一緒に遊ぼっ!」
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