第138話「地球帰還魔術5」

「おおおおおおおお!」

 制御室の端、転移ホールに通じる窓に張り付き地球帰還魔術の起動を見下ろす学者たち。

 ……いや、確かにすごい現象ですが君たち地球帰還魔術起動術式の制御担当してますよね?仕事してください?


「素晴らしい! すっばらっしい!!!!」

 竜人学者デスガルドさん。貴方術式が起動したらメインコントロール席に私とミリ姉を残して事象を確認して高速でメモを取っています。あきれ顔のティリスさんが先ほどのお別れの際に号泣してしまったミリ姉を慰めています。

 はい。私はそんなミリ姉に抱きしめられ頭を撫でられています。

 なぜ?


 ……まぁ、いいでしょう。泣いた子には勝てません。

 さて、地球帰還魔術ですが現状ステージ2を実行中です。


 地球帰還魔術起動、亜空に接続後『生命の船』を構築するまでがステージ1です。

 これは先ほど遺跡を本格起動、大陸南部から中央にかけて存在する大陸内部に存在する魔法力の流れ、地脈と呼ばれるエネルギーの流れに干渉して亜空間魔法と地球魔術の空間干渉魔術を組み合わせた世界の外との境界を大きく割り、復元しようとする世界の力に地脈の力で対抗する。そして、亜空間に『亜空間航行用の船』を術式から作り出す。これは獣人からの大きな技術支援から作成された術式です。ですので、『亜空間航行用の船』は樹の形を取っています。

 なぜ樹なのか? これはこの世界に降臨している最高級の神が、ご存じ神樹様だからということが大きいです。そして、近年モンスター増加に伴う人類滅亡危機の際、人類を救った英雄である大魔王陛下、その英雄譚に大樹が出てくるため、世界を救い守るもののイメージが大きな樹として定着しています。(そもそもなぜ『魔族』『魔法』と呼ぶかというと、神から与えられた技術に対して適応が遅れた『人類の中で最多の数を誇る人間』が嫉妬と共に『どことも知れぬ高位存在からもたらせた魔なる力(実際に人間を罰した経歴のある亜神が伝えたせいもあるのだとか)』として魔力、魔法、それをうまく扱える種族を魔族と呼び始めたのがきっかけであり、地球的な価値観の大悪魔的な大魔王ではありません。あしからず)


 ステージ2では『亜空間航行用の船』の枝葉から光が放たれ異世界人たちを包み込みます。光に包まれ亜空に持ち上げられた異世界人たちは約15㎝ほどの光の粒に変わり、『亜空間航行用の船』の葉に取り込まれます。望遠鏡で見ると緑のベットの上に取り込まれた異世界人が眠っているようです。それを順次行っていますので時間がかかる想定です。


「素晴らしい! 世界の法則の外に持ち出すことで数万年を想定する旅路に耐えられるということか!」

 竜人学者デスガルドさん。


「……」

 ホールを見下ろすと最低限の物資、といっても数万の軍勢が行軍するような大量の物資ですが、の確認や航行時のオペレーション最終確認をしているドゥガやマザーと初代様、お忙しいようですがどこか晴れ晴れとした表情です。

 私たちの地球とは複数の可能性が並列する世界です。 

 同じ火山をして、噴火が及ぼす複数の可能性を並列に可能性を検証される世界、それが私達が居た地球という世界。

 並列に存在する複数地球を選択肢とし、その結果から地球管理を担当する創造神が『部下との会議という名のシステム』上の判定から1つの世界を選択します。

 並列に存在していた地球はその瞬間、選択された世界以外の地球は選択された地球に吸収され、選択されなかった地球は消え去ります。

 つまるところ、彼らが万が一地球にたどり着いたところで、そこが『彼らが知る地形ではない』『彼らが知る歴史ではない』『彼らが来た時代ではない』、そんな地球にたどり着くのです。

 私の中の人の情報によると元の地球に戻る可能性があるのは『1年未満』である。私が私を待つ人々のもとに変えるためには3歳の間のうちに何とか方法を見つけなければなりません。

 ……彼らが今回とった可能性ではなく、別な方法を……。

 時間はありません……。

 ミリ姉の温もりに安心を感じながら、私は『とある可能性』に思いを馳せます。


『この世界の友よ』

 長い時間が経ち、ミリ姉と私は半ば眠りに落ちていた時でした。

 感極まって涙まで流しているドゥガの声に起こされました。


『~~~~~!~~~~』

 感極まって涙を流しながら別れのスピーチをしているドゥガとそれを聞きながら涙ぐむこちらの人間達。まだお眠な私とミリ姉は椅子に乗せられたままティリスさんに窓際に連れてこられます。

 全面強化ガラスのため椅子に乗っていてもあちらから確認できたようでマザーさんが小さく手を振っています。


「ほら、彼らが出発するようですよ」

 ティリスさんに促され眠い目をこすりながら意識を半角性から各制に移行させます。

 するとドゥガ達やこちらのメンバーたちからも微笑ましいものを見たような温かい笑いが聞こえてきました。私は寝ぼけた頭を動かしながら首をかしげ、私を抱えているミリ姉を見上げると、苦々しい表情のミリ姉が居ました。


「仲の良い御兄弟ですなぁ」

 誰かがそう漏らしたのを聞いて理解しました。目をこする動きがシンクロしたのですね。しょうがないです、姉弟ですし。


『この世界の見納めとしては良いものを見た。では友よ、さらばだ! 我らこれより帰還の旅に出る!!』

 ドゥガ、マザー、そして初代様は笑みを讃えたままゆっくりと背を向け……、嫌な予感がしました。

 私は何の躊躇もなく、左手の中に持っていた緊急用コンソールを操作し、緊急停止を実行しました。


【緊急停止プログラムが発動しました。安全のため空間固定します。】

『『『!!!!』』』

「なんだ!何が起こった!!」

 ドゥガ達も制御室の皆さんも突然のことで慌てています。

 はい、私が行いました。

 そして早めに空間固定術式が完了しないかと焦っています。

 予感は球体型の空間固定術式が発動し始めタイミングで確認に変わりました。

 空気が、いえ、空間が揺れました。


「皆さん、制御端末についてください。ホールの皆さんは空間固定術式の強化を! ……30秒後、来ます!」

 空間の揺れという初めて体感するであろう異常事態と直後に激しく鳴り響いたアラートで皆さん私の言葉に従ってくれます。

 慌てた様子で半数が着席した時である。

 3分の2程度しか固定されていなかった『亜空間航行用の船』と衝撃に備え、固まるドゥガ達の間に巨大な赤黒い何かが通り過ぎる。

 それはまるで通過する電車の様な生き物だった。


「1324ブロックが不安定化したぞ!リソースを回せ!固定術式補助精霊を起動しろ!!」

「地脈ラインの60%切断! システムの緊急維持持ちません!!」

「非常事態システムを稼働させろ! 保持率低いぞ! 何やってるの!」

 混乱であります。ですが何とか地球帰還魔術の術式は維持できるでしょう。

 そう、赤黒い龍さえなんとかできれば……。


 転移用のホール派というと……。

『逃がさん! 逃がさんぞ!!!!!!!!!』

『ぐっ』

 赤黒の龍がドゥガたちの空間に食らいついています。

 固定された空間の上を初代様とドゥガが結界術を展開し赤黒の龍を防ぎ、マザーが空間を安定化制御をしています。3人とも経験豊富な方々なのでさすがです。


(すまん!)

 さてどうしたものかと私が権三郎を見た時のことです。

 勝さん1号からの通信が入りました。

 と同時に。


『ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 邪魔するな人形が!!!!!!!』

 高速で飛来した光輝く剣が赤黒の龍、その眉間に深々と突き刺さり赤黒の龍は痛みに悶えながらくらいついていた結界から牙を離しのけぞるように悶え、そして偽ドゥガの声でいまだ遠い空間を飛行する勝さん一号へ怨嗟の声を上げる。


(しゃぁ! ビンゴ!!)

 いえ、まぁ緊急事態だからしょうがないですが、私との同一魂間通信がつながるギリギリの距離からの射撃って下手したら、ドゥガたちや『亜空間航行用の船』に当たってしまったらどうするつもりだったのですか……。


(テヘペロ)

 いらっ。


(いやいや、そんなことにはならなかったから大丈夫だよ。奴がこっちから逃げ出した時に相当焦っていたようでな。龍の体から大量の神力がながれでていたので、それにのっけて投げてるから必ず当たったはずだよ。いわゆるゴムパッチン、みたいなものだ)

 で、あなた自身はどの程度で到着のご予定ですか?


(2日かな……)

 ヲイ。


(いやいや、下級神レベルの龍と人型の俺じゃ速度が違うってww ……戦力足りない感じ?剣なら投げ続けられるけど……いつラインを消されるともわからないしな……)

 こちらの戦力は空間維持に取られてしまっていますし、術式圏内にいる本物のドゥガとマザーと初代様も防御で手一杯ですので、2日いえ、2時間程度で押し切られてしまいますね……。

 勝さん1号、こちらの座標は把握していますよね?


(おう)

 では転移でお願いします。


(ん?)

 地球帰還魔術は空間干渉術です。転移防止結界なんか展開してしまったら空間干渉術に影響がありますので……あ。


(だよな……わかった。すぐに変態王子と他に戦力になりそうなやつら拾ってそっち行く)

 ああ、よろしくお願いします。


 ……しまった。転移防止結界を解除した情報が……。


『素晴らしいですよ! さすが我が相棒です!!!』

 勝さん1号よりも先に現れたのはディニオ率いる南方で『挟み撃ち』にあっていたディールケ共和国革命軍が数十名転移してきた。


 ……勝さん一号、はやく!!

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