第132話「酒は人間関係の潤滑油!と下戸の先輩が言っていた」

 うつらうつらと微睡む意識に活を入れつつ私は彼らの話に意識を向ける。


「……こうして貴様と酒を酌み交わすことになろうとはな」

「私はあの頃から望んでいましたよ」

 私がお休み中なため薄暗くなっているこの部屋(牢獄)の片隅、看守部屋でプロレスラーの様ながっしりとした体形の白人ドゥガがグラスの3分の1を満たすウィスキーの様なお酒を転がしながら、目の前に座る前髪戦線が後頭部に近い同い年ぐらいのニコニコ笑顔の日本人ムライさんに鋭い視線を投げています。それをヘラヘラしながら意にも解さぬ雰囲気でムライさんが受け止めています。

 さて、私が今眠気と戦いながらこの2人の話に注目しているのには訳があります。

 ……え?『部屋(牢獄)の片隅、看守部屋』が気になる?

 しょうがないのです。経緯を解説しますと、この遺跡の牢獄ってすっごく部屋数があったのです。ですが、入居率が低かったのですよ……。あとプライバシーの保護も今いまいちでした。ですので、皆さんから『まぁ、なんということでしょう』という感想を期待して少し張り切ってみました!


『分断された家族』

 匠は部屋数だけ無駄にあり、閉塞感を生んでいた各部屋(牢獄)をぶち抜き。大黒柱が映える広々とした空間を作り上げた! これで不必要な壁で分断されていた家族は広い空間で団欒を楽しむことができるようになりました。(冷暖房効率とか言ってはダメなのです!)


『日の光が届かない家』

 光が届かず、魔道具の光のみに照らされた閉塞感のある陰鬱とした部屋(牢獄)……。家族の笑顔が消え活気のなくなっていた部屋(牢獄)を……なんと! 匠は地下3階の部屋(牢獄)、そこにつながる空気穴を改善しました。そう、間接光を部屋(牢獄)に呼び込み、暗く家族の気分も沈みがちだった部屋(牢獄)に光が差したのです!(ついでにフィルターや何やら作った上に、部屋の奥から地上直通のエレベータを作成したのです!!)


『不都合な水回り』

 浄水機能がまだ発掘・再起動されていない部屋(牢獄)。用を足す際は深く掘られた穴、そして板でふたをする不衛生な環境。入居直後匠はこの状況にぶちぎれ。大量の案山子軍団を活用し、瞬く間に使われていなかった遺跡を復旧。あっという間に地上までと最深部までを制圧し、水回りの問題を解決。されに、それまで看守に丸見えだったトイレも清潔に区切られプライバシーも確保しました。


『収納もなく散らばりがちな部屋』

 前の遺跡から大量の物品を持ち込んだ匠は平積みにされる大切なコレクション(おもちゃ)に苦悩していました。そこで! 匠は一大決心。なんと! 下層階を思い切って倉庫へ改造! 荷物はすべて下層階に格納し、必要になったら端末でオーダーするとあら不思議。下層階で完全自動化された倉庫から必要物品をピックアップ、10秒以内に匠の手元に配送するシステムを組み上げました。これで部屋を狭く見せていた大量の物品問題も解決です。


『隣人への気遣いを忘れない匠』

 家族のパーソナルスペースは改造する匠だが隣人への気配りも忘れない! なんと! 看守部屋はそのまま!


 ということでお部屋(牢獄)から御2人の様子をうかがっているのですが……。


「うむ、おねんねの時間なのである」

 なぜか狸寝入りを見抜いた、最近保護者意識が強くなってきた、竜人学者さんが証明を薄暗く調整する。そして。


ガシャン、ガラガラガラガラ


 シャッターを下ろしてしまいました。


『核シェルターの様なプライバシー保護』

 めちゃめちゃ強力なの作ってしまったので降りたら終わりです。


「♪~」

 シャッターを閉め終わると竜人学者さんは子守唄をうたいながら布団をポンポンしてきます。

 やっやばいのです……。これしきで……ね、寝ないので……ZZZ。


~劇的!遺跡!牢獄!ビフォーアフター、おわり~


「……いいんですか?これ?」

 冷や汗をかきながらムライさんがドゥガの様子をうかがっています。

 ま、一応ムライさんがこの牢獄の責任者の様ですので、自分で言うのもなんですがここまで自由にされると普通に考えると責任問題ですよね。


「……俺が言うのもなんだが、仕事をしてくれているのだから問題あるまい」

 ゆっくりとウィスキーを舐めるドゥガ。


「……変わりましたね……。貴方」

 ふぅ、と息を吐き自分もウィスキーをあおるムライさん。自然体の中にも関係性がせめぎあっている空気を感じます。御2人、過去に何やら因縁がおありの様ですね。


「……変わった……か、お前から見ればそうなのだろうな。だが、これが本来の私だ」

「本来のですか……」

「貴様も、あの頃は故国を裏切り我が国の内部抗争に参加していただろう。立場が違えばお互い見方も変わる。……言っておくが俺は戦闘狂ではあるが殺人鬼ではないぞ?」

 報告で聞いていた話と違いドゥガがおとなしい。裏がありそうですね。

 それからしばらく『私が知っている日本の歴史とは少し違う』大戦後の話で御2人はしんみりとお酒を飲んでいます。どうやら私とは似て非なる地球から彼らは流れてきたようですね。


「しかし、お前が教団に加わるとは思ってもみなかったぞ、またぞろスパイかと疑ったわ」

 笑いながらお酒を継ぎ足すドゥガ。それをお酌したげに見つめるムライさん。


「失礼ですね。これでも元の世界にいた時からあなたと同じ宗派ですよ」

「くくく、まぁそういうことにしてやろう」

「あなただって本物のドゥガですか?確かに元の世界で戦った時は理性を感じてはいましたが、先日お会いした、殺人鬼の貴方も説得力ありましたよ」

「あれか……、ま、あれは俺ではないからな……」

「は?」

「ネクロマンシー、ディニオのおもちゃだ。……中に入れる入れ物(魂)を調整するためと言っていろいろ付き合わされた。苦労した結果があの欠陥品ではな。……あの性悪(ディニオ)とつるんで悪名を広げてくれている。先日などは竜になったらしい。その都度調整のために私が調整層に浸からねばならん。困ったものだ。……だが、それもこれも元の世界へ帰還する為だ」

「元の世界への帰還……ですか。確かに。私と貴方が同じ組織にいるのも目的が同じだからですからね……」

 あ、ムライさん色々酔っていますね。


「そうだな。ここまで追い詰められてしまえば変わる。変わらねばならなくなる。それこそ最も大事だったはずの信仰すらな……」

「……」

「貴様とて同じだろう?」

「私はすでに元の世界でそれをしておりますよ……」

 くいっと酒を煽るムライさん。ちょっとシリアスなのです。


「我らの国は共に踊らされた。方や滅亡へ向かい、方や勝っても戦力は大幅に削がれ、同じ価値観を共有していた国を滅ぼしかけた。愚か者たちが去り、互いに過去のしがらみ、等と言ってられなくなる」

「ひりひりするような線上であったな……」

「二度とごめんですよ」

 お2人は静かにお酒を進める。

 やがて外からあわただしく異世界宗教の司祭が駆け込んできてドゥガに耳打ちをしています。


「……ん?……ああ、……そうか。……すぐ行こう」

 ドゥガは司祭の報告にゆっくりと腰を上げ看守部屋を出ていく。残されたのは含んだ笑みを浮かべるムライさん。


 ……。いや、ナニコレ?


「はずかしい! 動画を録画できるなんて聞いてないですよ~」

 朝ご飯を食べながら昨日のドゥガとの動画を垂れ流しています。

 叔父さんの昔語りを雰囲気作って聞かされた私の感想はなんと言えばよいのでしょうか……。


「あ、そういえば。昨日ドゥガに報告があったらしいのですが、ついに最深部の制御室が発掘されたらしいですよ」


 ……。

 ……。

 ……。

 そー言うことは早く言いなさい……。

 

「ああ、この角度の私かっこいいですね……こう、ですかね……」

 ムライさん。女性陣がドン引きなのでやめてください。

 あと、私と竜人学者さんを連れて行かなければならないのではありませんか?

 え、動画が珍しい?

 いえ、職務に……はぁ、生え際チェックもしたい?

 鏡でやりなさい!!!!!


 こうして、死の国を舞台にした異世界宗教との争いは最終局面へと移行したのでした。


「何気に私のこの動きダンディーですね~」

 でした!

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