第89話「立て、マヨラー!」

 こんにちはマイルズです!

 かわいい幼児!

 永遠の3歳ことまーちゃんです!

 ……最近おかしいのです。

 身長が全く伸びないのです……。

 ずんずん大きくなる幼児なはずなのですが……メートルの壁が越えられないのです。なにか陰謀の影を感じるのです! こうなったらレッツ調査! なのです!!

 ……ということで我が家の家訓『使えるものは神でも使え!』という、本日作成された家訓に基づき神宮寺君を使います。


「さぁ、原因をいうのです。言わないと今日のお昼、アユっぽいお魚の塩焼きは上げません。そして、こちらの牛っぽい魔物の肉おいしいのです。権三郎腕をあげましたね。見事なお肉屋さんになれます」

 レベル五百近くのお肉屋さん。

 これが知れ渡ると『お肉屋さんになるためには神殺しが必須』とか変な基準ができそうで怖いです。前例ありますので……(遠い目)。


「その魚うまそうです! 天界って食べる必要ないから飯まずなんっすよ! まーちゃん先輩それを踏まえて後輩を脅しているんですね!」

 どうやら神様も悲惨なようです。


「お供えいただけばいいじゃないですか?」

「お供えを毎日食べにくる神様って尊敬できます?」

 できないです。侮蔑の対象です。


「わかりました。しょうがないので私の背が伸びない理由がわかったら、食べさせてあげます」

「ありがとうございます! さすがまーちゃん先輩!」

「「「「「(それって条件変わってなくない?)」」」」」

 はい、周囲のみなさん黙りましょうねー。

 結局、その辺の事情については結婚神&恋愛神のお2人が来て、お教えいただきました。

 なので、秘蔵の生でもいける! 極上肉で作ったハンバーグをアツアツの鉄板で数十秒、レア状態にてご馳走しました。

 役に立たなかった神宮寺君はアユっぽい魔物の塩焼きです。


「塩焼きうま―――――!」

「何このハンバーグ! 神ってる!」

「お姉さま、神ログにアップしましょう! 存分に自慢してやるのです! 下っ端! 写真! シェフ一緒に写真に写って~」

 さて結論を言うと、私が成長しないのはどうやら勝さんのせいらしいのです。

 世にも珍しい自然神を宿した?私。

 世界を維持する自然神として本能が異常な状況に呼応して過剰反応を見せ、私という形を保持しているらしいのです。つまり、また中途半端な形で眠りについた1級神の勝さんその寝ぼけた御力で私の成長という変化を許容していない。らしいのです。これは2級神であるお2人ではどうにもしようがないのだとか……。

 勝さんをなんとかできれば成長は遅れてやってくれだけのようです。

 つまりそれまでは『永遠の3歳♪』…………orz 


「まーちゃん先輩どんまいっす! ……てかこの村、あの国情で養鶏なんかよくやってましたね。お陰で親子丼なんて食えますけど♪」

 いつの間にかどんぶりを持つ神宮寺君。

 その米は王国産なのです。

 未だ甘味に関しては日本米の足元にも及びませんがね……。食感は似た感じです。


「ああ、それなら教会幹部向けの生産をしていたらしいですよ。村の方には教会駐留軍が支給するモンスター肉だったそうです」

 でも、モンスター肉も十分においしいので村人と軍人の関係も良好だったそうです。

 革命時この村の駐留部隊は防衛に専念したそうです。

 その為、残念ながら村人も軍人も現在、危うい立場にいます。


「神宮寺君。……マヨ」

「チュチュチュ……! まさかあんた!」

 にやりと笑う幼児な私。


「ソウルフードというのがあります。日本人ならマヨネーズ。中毒患者も多いマヨネーズ」

「……恐ろしい人だ」

 元日本人コンビが不吉な笑みを漏らしていると、護衛が一歩引いてゆきます。


「物≪ぶつ≫は?」

「万全です。このタルタルソースで鮭の様に遡上してくる魚をいただくのです。ソテーでも十分な凶器になるのです」

「まーちゃん先輩。ぱないっす」

「では早速、恋愛&結婚神のおねいさま………………………」

 振り返った先に信じられない人物がいました。


「ぼっ帽子屋の主人! なぜあなたがここに!!」

 この場で最も権威をもつ姉妹神にご高評いただければ『まーちゃん印のマヨネーズ』としてこの村の名物にしてもらうつもりが! 貴様どこから!

 スーパーな配管工のような中年太りしたその方は、鮭のような赤身魚のソテーが乗ったお皿を手に姉妹神の御前に控えています。

 その赤身魚は程よく火が通り皮はぱりぱり。身からはおいしそうな脂が光り、ナイフで骨を少しよければおいしくいただける状態。そっと彩として添えられている人参と、さやえんどうが食欲を増進させます。

 そして何よりその魚の上には芸術品のような黄色いソースが鎮座している。


「美しき女神様。ご当地食材にて趣向を凝らした料理を奉納させていただきます」

「ご苦労、ジゼルよそなたが婚姻時に奉げた妻への愛は今も健在のようですね見事です。そしておいしい料理ぜひとも頂戴します」

「黄色いソースが何かはしりませんがおいしそうですね」

 献上品がお2人の食卓に上ります。

 お魚を食してほめます。

 さらにタルタルをつけて褒め上げます。

 満足した表情の帽子屋の主人はお2人に礼をするとゆっくり私のほうへ近づいてきました。


「マイルズ様。お久しゅうございます」

 そういって懐から……アレを取り出しふたを開ける。


「(ごくり)」

 緊張が走ります。帽子屋の主人はその私のしぐさを逐一楽しそうに眺めながら一切れ手にもちこちらに見せます。


「あーん」

「ふっ、いつまでもそのようなもので私を惑わせるなど……

 ……いつもいっています、もっと下げないと食べられないのです!」

 タマゴサンド光臨。もうそれ以外どうでもいいのです。瑣末なことなのです。


「「「「「これがバ可愛いというやつか、侮れん!」」」」」

 その場にいた全員一致の意見のようです。帽子屋の主人。次! 次を所望するのです!!


「ジゼルよ……」

 結婚神様が神々しいオーラ全快で私たちの方へやってきます。

 そうです!

 これは幼児への虐待なのです!

 神様罰を!

 そして私にその箱を!!!


「「私たちもやってみたい♪」」

 ……迂闊!


――30分後なのです――

「で、帽子屋の主人は何をしにきたのですか?」

「食糧援助のお手伝いで白龍に乗ってやってきました。無論タマゴサンド普及委員会として活動ではありますが」

 ぬけぬけと言いやがります。


「そして、悪≪マヨネーズ≫が蔓延る気配を感じたので正義アンチマヨを行使し、正しきを伝えようと……」

 くっ、ぬけぬけと言いやがります。


「まーちゃん先輩このタルタルソースうめーっす! タマゴサンドこれ本当にマヨ使ってないんすか? すげー、これ広めるといいすよ! 村人たちよ! レベル神印を上げます!」

 なっ、きっ貴様!


「まーちゃん印はマヨのはずでしたよね?」

 ぐぬぬぬう!


「さて、マイルズ様のお姿も見れましたし私は仕事に戻りましょう。マイルズ様またいずこかでお会いしましょう」

 それだけいうと帽子屋の主人は立ち上がり方々に礼をして立ち去ろうとしました。


「あ、そうだ。マイルズ様にこの言葉を送ります………。

 『悪の栄えたためしなし!』………では失礼」

 あれ? 帽子屋ってヒーローキャラでしたっけ? あれ????


「仮面ライダー2号っすね。渋いおじさんですね。見た目完全にマリオなのに」

「神宮寺君。出典は聖書です。この国でこれをいうとは痛烈な皮肉なんですけどね」

 正義とは何でしょうか?

 それは歴史が回答をくれます。

 勝者こそ正義なのです。

 古来より勝者は敗者を悪と断罪して自己の正当性を主張し歴史を作るのです。

 事実なんて、人の思いなんて、付け入る隙なんかないのです。

 例えば同盟関係にある平和で民衆に優しい国に、何の連絡もなしに攻め入って国民を惨殺して周り略奪の限りを尽くした国があったとしましょう。

 これは後世には『人心荒れ、賊の跋扈する国を救わんがため見かねた○○王は××国を併合し民を救わんとするため侵攻した!』と書かれるのです。

 常に歴史を書き残してきたのは勝者のみ、つまり勝者こそ正義なのです………。

 帽子屋の主人がいなくなった方角を見送りながら思います。


「………マヨ。やっぱり人権無いのですね……」

 作ったタルタルソースは私がおいしくいただきました。

 思った以上に切ないです……。

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