第78話「引きこもりも自立できれば立派な職業2」

主人公ピンチ!な回です。泣きまくります。幼児虐待ではないのですよ。

――――――――――――――――――

「あ、それ私のエビフライ!」

 意識を回復させるとそこは暗闇でした。

 まず状況を整理せねばと頭を振る。

 そうあれは……、最近獣王都でブレイク中のエビフライ。その最後の1本をミリ姉がさらって行き変態王子作のマヨ抜きタルタルソースでいただいていたのです。

 ……ていうかそれ原材料マヨと変わりませんよね!

 何が『決め手はきゅうりのぬか漬け!』ですか! 分けなさい! 早急に!!

 じたばたしようとすると足から腕から激痛が走り否応なく現実に引き戻される。


 ああ、と深くため息。

 そして右わき腹の魔法器官の上を触り回復魔法を掛けます。

 ゆっくりと私の体が《記録》された元の状態に戻ってゆきます。

 苦痛が和らぎ、その代償で無理に引き出した魔法力により意識にもやがかかる。

 元醜女衆の皆さんは元に戻れたのでしょうか……。

 魔法器官に記録されている体の状態は『あるべき健全な状態』です。

 時間の経過とともに『何が』というものが変わっていては戻らないはず。

 つまり老化の様に時間変化が自然であれば。右腕を失ったとして、その状態が自分の自然状態と長く認識すると戻らない確率が高い。

 ……その辺の記録とか勝さん一号に調べてもらいましょうかね……この世界の魔法なのです症例はたくさんありそうです。

 それで……。

 思考を止める。

 現実逃避?

 ええ、そうです。もうそれしかできないのであればその状況を楽しんでやります!

 そう意地を張りながら。うつらうつらと首を振り。半日前の事を思い出す。


――半日前。逃走6日目朝。

 そーっと足音を立てない様に建物の陰に潜み進む。

 あれです。ゲームみたいです。

 緊張感がスリルを煽ります。光学迷彩の下から冷や汗が浮かびます。

 この小さな村にどうやって抜けてきたのか100名からなる騎馬隊が到着していました。

 夜間抜けてきたのかどなたの顔もお疲れの様子です。

 ですが目が肉食獣の様にぎらついています。

 私にそんなに価値を見出しているのですね……。

 いえ、正しく言いましょう私の体に価値を見出している、と言ったところですか……。

 音を立てぬ様。

 魔法力を使わぬ様。

 見えないだろうが見つからぬ様。

 細心の注意を払い村を進む。

 最難関は村の中心部を横断する時でしょう。どう考えてもそうするしかない。

 私は、ゆっくりと騎士団から距離を取る。村の出口にはすでに監視部隊が10名程度いる。

 走れば行けるか……。

 いえ、走ればこのぎらついた空気の中でも感の良い人間に見つかってしまうかもしれない。

 私が思案していると、騎馬たちが少しづつ下がり始めた。

 やばいのか。チャンスなのか。

 ……行くしかないですね。

 私は意を決してゆっくりと歩を進める。


「軍団長殿に敬礼!」

 騎馬が引いていた理由がわかりました。

 騎馬たちが引いた間から白馬に乗った銀髪の20半ば、目に鋭さを宿した女性が現れます。

 その後ろからは真面目そうな男。……いや、こいつの眼は人をおもちゃの様に見ている男の眼だ。

 真面目だったりするのは『振り』だ。きっとこの女性の反応を伺って楽しんでいるんだ。一番嫌いなタイプです。

 こんな奴らと関わりたくない。そう思いながらゆっくりと進みます。

 進みながらふっとオーギュスタンさん達の事を想います。

 今は一刻も早く離れるべきなのは知っていましたが、そこで歩を止め振り返るとその瞬間。


 ブン!


 左耳に空気を切り裂く爆音がこだまする。

 左頬が熱く、痛い。

 女性が放った槍の一撃は私がそのまま進んでいればいたであろう頭を貫いていた。

 そして。 


「これはこれは、救世主様さがしましたよ~」 

 肉食獣の笑みで光学迷彩魔法をちぎり飛ばされた私に笑いかけます。

 ……まずい、一瞬の躊躇でやられる!

 本能が理解し。私は何も思わずゾーンに至ります。

 おかげで次に放たれた槍の一撃を紙一重でかわせました。

 いえ、正確にはかわせませんでした。

 単純な突きかと思ったら穂先は生き物の様に横へ避けた私に迫ります。

 要するに横なぎです。

 幸いだったのは、穂先はかわせていたこと。

 穂の形状が素直な線形つまり横に三又の槍の様に出ていなかたこと。

 そしてハルバートの様に横向きの刃がついていなかったこと。


 色々な幸運に私は守られ、ただ吹き飛ぶだけで済みました。

 視界が回る。腹部強烈な痛みと左腕の感覚がない……。

 回る途中に私の口から血がまき散らされる。内臓をやられたのか……。

 【痛覚操作】の魔法を超える生命の危機たる激痛。

 【痛覚操作】の魔法がなければあっさりと意識を手放していたことでしょう。

 正直この状態では勝ち目はない。

 痛みを気にすることはできない。

 立ち上がるとついでに拾い上げた小石を女性騎士に向ける。

 奥の手! 電磁加速砲!!

 シールドした小石を雷魔法の操作で飛ばそうと集中した一瞬、女性騎士の後ろから矢が放たれる。

 それは正確に私の右肩を射抜きます。

 電磁加速砲の魔法の為制御を緩めていた痛覚操作魔法を超える痛みで魔法が霧散する。

 これで生きているのが奇跡……いや、射手と目があいましたニヤけている。

 わざとか!

 次の瞬間、大きな影が私を覆う。両足を最大強化して後ろに飛ぶ。

 ……ダメだ、無理な力に耐えられなく足から鈍い感覚が伝わってくる……。

 そんな激痛が意識を支配する。一瞬意識が消えかける……。


「しぶとい」

 馬で私を踏みつぶそうとした女騎士があきれたように言う。

 手が動かない。

 足が動かない。

 奥の手は放つ時間が取れない。

 もう無理だ。


「残念ながら、ここまでです。サヨナラ………おばさん」

 かわいらしい幼児フェイスで女性騎士に笑いかけてやると思った通り激昂してくれました。

 ここしかありません。

 私は最後の手段を行使しました。

 それは私を囲うように地面から隆起します。


「しまっ!」

 何か叫んでいる女性騎士の槍はそれに阻まれ、はじけ飛びます。

 残念でしたね。これは権三郎と勝さん1号と同じ強度のシェルターなのです。

 貴方では無理だと思いますよ……。

 そうして私は意識を手放す。

 もしかしたら、生きて意識が戻ることはないのかもしれないと。

 少量の覚悟を胸に。




――シェルター生活1日目

 カンカンカンカンうるさいのです!

 騒音公害なのです。

 民事で訴えてやりたいのです。

 次会うときは弁護士さんと一緒でよろしく!

 そう思いながら横になります。

 一時期「わが社の、の〇太君」と言われ………って、〇び太って!

 誉め言葉と受け取っておきましょう。

 お昼休み中3分で熟睡できる私にとって、定期的な攻撃はお休みの音楽に変わるのです。zzz

 ああ、あの恥ずかしい歌詞の社歌が懐かしいです。


――シェルター生活2日目

 我が家を拡張することにしました!

 拡張とは何か!!

 1km先の山中の崖けまで空気穴を! そしてあいつらの面は完全密閉してやる!

 ひどいのですよ。あいつら!

 各村々で行った非道を自慢話の様に!

 そして夜になると怪談話なのです。怪談は苦手なのです。心細いのです。

 たまに「俺この任務が終わったら結婚するんだ」とか、明後日の方面からも揺さぶってきます。

 まちなさいそのワードは死亡フラグです!

 ………ん? 別に敵兵だから死んでも………いえそんなことは………うーん。

 そう思いながらも拡張をして意識を失います。 



――シェルター生活3日目

 今日は何もしてきません。あきらめたのでしょうか………いえ、外に魔法力感知を向けると100名の騎士隊のほかに別の隊も合流し増えている様子でした。

 では何なのでしょうか………。

 すぐに分かりました。魔法攻撃が始まりました。

 ふっ。そんなもので『まーちゃん引き篭もりハウス』を破れるとか、一昨日来るべきなのです!

 さて、外のバカ者どもはほっといて。今日は私の生活を紹介するのです!

 まずはベット!

 初日に土の上では冷えるので植物魔法で簡易ベット作りました!

 次にお手洗い!

 これは農業魔法で肥料化して土魔法で地中に廃棄です!

 水ですか? 魔法力で作れますよ? 魔法力万能論!

 いえ、ご飯は作れないのです。

 ですので今日も塩をなめてます。早く南部の侵攻が始まってほしいところです。

 私は自分のカバンを見ます。

 オーギュスタンさん達が目一杯詰め込んだ食料があります。

 食糧管理はしていませんでしたが、3人で持っていた総量の半分位あります。

 2人は大丈夫でしょうか……。

 望みが薄いのは知っていますが無事逃げ延びてほしいものです。


「半分も詰め込んでいくなんてあなたたち馬鹿なのです……、次会った時はお説教なのです…………………………ぐすっ……」



――シェルター生活4日目

「救世主、聞こえるかな」

 あの女性騎士が楽しそうな声で語りかけてきました。

 昨日彼女たちの方面とは完全密閉したので振動魔法か何かでしょう。


「聞こえているよな? ………ちっ、面白くないな。念願のお友達を連れてきてやっというのに………」

 その言葉に私の心は割かれそうになります。

 そんなはずはない。そんなはずはない。逃げて………逃げてくれたはず………。

 それは私の都合の良い想像。

 彼らとは短い付き合いですが、濃い体験を共にしました。彼らは最後まで抵抗すると。知っています………。


「さぁ、自己紹介をしてくれ、裏切者の魔導士君」

 衝撃音がご丁寧に聞こえてきます。


「しゃべれと言っている!」

 肉を割く音。


「うわああああああああ」

 少年の叫び声が小さなシェルター内に響く。


「俺の指が、指がぁぁぁぁぁぁぁ」

 別人、別人の声………なのです………。

 仮に私がここを出ても彼らは私を恨むのです。私が彼らの志を殺してしまったのでは笑えません。

 私はぐっとこぶしを握り締め耐えます。


「自己紹介をしろと言っている!」

 2度目の肉を割く音。


「おおおおおおおおおお、おーぎゅすたん!言った言ったぞ指を指をぉぉぉぉ」

 目に涙が溜まっているのがわかります。

 これを決壊させるのはたやすい。でもそれはオーギュスタンさんの思いを志を汚す行為。我慢なのです。


「ほら、愛しの救世主様だぞ。愛でもささやいたらどうだ………」

 蹴られたときの鈍い音が響く。


「あなたのせいだ、貴方のせいでこんなことになった! 助けて、そこから出て俺を助けて。代わりに死んでよ! 救世主様!」

 壁を思いきり殴ります。拳から出血が見受けられますが気になりません。

 そして思い切り叫びます。


「くそやろう! これでも自分が大事なのですか! 私は! 僕は! そんなに生きていたのですか! ……やめろ。……もうやめて!」

 声がかれるほど叫んでふっと気づきます。

 外には私の声が聞こえていなかったらしく話が進んでいました。


「さぁ、右腕を失ったその感想を伝えてみようか?」

「お前の! お前のせいだ!!!!!!! なんで代わりに死んでくれないんだぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 もう耐えられませんでした。

 その日の魔法力を最大限に使いシェルターの外殻を1枚増やします。それは途中に空気層を含み、吸音層を含み、完全い振動が伝わらない様にして私は意識を失います。



――シェルター生活5日目

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」

 その日は朝から涙が止まりません。

 もう意味が分かりません。

 色々な感情が渦巻いています。

 ですが。このシェルターだけは解いてはならないとそれだけは曲がらない原則です。

 色々なことを口に出しては泣きます。

 もう理論ではないのです。

 もう私には感情しか残されていないのです。


「……………おかーさん、たすけて………………」

 不意に縋った言葉に心が少し暖かくなったのが分かります。

 でもそれは開けてはならないパンドラの箱でした。 


「……………おとーさん、たすけて………………」

 頑固おやじの様な父の腕組をした姿が脳裏に浮かびます。


「………おじーちゃん、たすけて…………」

 髭を弄びながら笑う祖父の姿が脳裏に浮かびます。


「…………おばーちゃん、たすけて……………」

 私の魔法道具をもって苦笑しながらも撫でてくれる祖母の姿が脳裏に浮かびます。


「…………みりねー、たすけて…………」

 勝気な笑顔で剣を振り回す、優しいけど意地悪な姉の姿が脳裏に浮かびます。


「………ざんにー、たすけて…………」

 ぶっきらぼうで我が儘ですが筋の通った笑顔の兄の姿が脳裏に浮かびます。


「…………ばんにー、たすけて…………」

 優しく手を握って離してくれなかった兄の笑顔が脳裏に浮かびます。

 優しくて暖かい宝物が浮かんでは消えます。消えます。

 ……やだ。

 消えないで……消えちゃやだよ……。

 次々を知り合った人たちの笑顔が浮かんでは消えます。

 そう、消えます。消えてしまうのです。

 必死に縋りついても。その姿は記憶の姿はいつしか消えてゆくのです。

 消えたらだめなのです。私は、僕は、やーなのです。絶対なのです。もうもう、消されたくないのです。

 最後にオーギュスタンさんとエドメ君の笑顔が浮かびます。

 ……もう限界でした。

 涙が枯れても泣き続けます。

 こわかったのです。

 大事なものを持ったから。

 大事なものに気付いたから。

 失ってしまうのが怖い。

 つらい。

 …………泣きじゃくる私、いくら時間が経過したのでしょうか、ある時不意に暖かい光が私の頭をなでてくれたような気がしました。

 なので、思わず私は縋りついて泣きじゃくってしまいました。


「勝さん! こわいのです。1人は#嫌__や__#なのです! もう! 失いたくないのです! 大事な、大事なものを守りたいのです! こわいの………こわいのです………!!!」

 泣きじゃくる私をその光は撫で続けてくれます。

 それはひどく安心をさせてくれます。

 それはとても懐かしい臭いがします。

 光に包まれて私は眠りに落ちます。不思議と、もう安心でした……。




魔王の視点――――――――――――――――――――

「あー、マジ疲れた! 何がご裁可を! だ! 丸投げじゃん! 俺最高責任者! もっと検討しろよ」

 もーやだー。寝室に行って妃に甘える!

 これ確定事項ね!

 決まったのなら即行動だ―。

 妃の居場所を部下に尋ねると籠だという。なので俺もそちらに向かう。


「衛君! 香澄ちゃん!」

 それまで何もなかった空間から焦った様子のリィが現れる。

 非常に珍しいものを見た。

 リィは焦った様子で籠の中から運命神の使徒の二人の女の子を連れだす。


「説明は現地でするわ。大至急行くよ!」

 それだけ言ってリィと二人は消えた。転移だよね……。

 ていうか俺の事一瞥もしなかったよ? 俺最高責任者だよね?


「………って転移禁止の場所だよなここ?」

「はい」

 俺と同じく呆然とした様子のヒューゴ応える。


「あれ? 結界………あれ? セキュリティシステム………あぁぁぁるえぇぇぇぇぇ?」

「クラックですな………」

 知ってるよ! 口に出すなよ! てか、たった2週間でどうやったんだよ!

 それよりも! リィが焦っていた。いやな予感が止まらない。

 うわーん。もういやー。


「魔王様。会議室にご帰宅願います」

「帰宅いうなや!」

【ヒューゴはスルースキルを手に入れた!】

 話聞こうよ? 君の主、俺よ?




衛の視点――――――――――――――――――――

「さっきの魔王様の迫力すごかったな~」

「はい、陛下はすごい方なんですよ」

 タウさんが嬉しそうだ。本当に心酔しているのだな、と思う。

 それから俺たちは目に見えて状態のよくなったタウさんと魔王国の名物や祭りの話で盛り上がり時間を忘れた。

 そんなゆとりの時間の中。


「衛君! 香澄ちゃん!」

 焦った様子でアリリィさんが駆けこんできた。

 あれ? 白龍にのって北に行ったのでは?


「説明は現地でするわ。大至急行くよ!」

 俺と香澄はアリリィさんのどこから沸くのかものすごい力に引きずられて表にでる。

 そして光が発生する。これ知ってる転移て奴だ。

 光が収まるとそこは………怪獣大戦争の真ん中だった。

 光を纏った人間が巨大な白龍10匹か囲まれている。

 だが、情勢は人間有利。

 ブレスは払われ。光線は吸収される。腕を一振りすれば白龍の首が簡単に落ちる。


「あれに心当たりはない?! あの装束、異世界の装束よね!」

 アリリィさんが焦ったように言う。

 正直言うとすっご心当たりがある。

 装束ではなくて。いや普通にビジネススーツだとは知ってるけど。

 人物をに心当たりがある。

 あの人だ。昔家に問題を持ち込んだ詐欺グループを合法的に追い込んだ時の『あの時』のあの人だ。









「………勝叔父さん」

 そう。我が家では『殲滅モード』の勝叔父さんと語り継いでいる。あの時の凶暴な笑顔のあの人が、強烈な光を発して宙に浮いていた………。


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