第73話「裏切り者の記録」

こんにちは! 作者の鱈です。

とても良いご指摘を頂きましたので本編開始前に共有したいと思います。


指摘1「なぜマイルズの家族は魔王国を圧迫するのか?」

回答1「下手人が魔王国幹部だからです。また誘拐された転移先の教国が存在する地域は魔王国が強い影響力を有しています。そこにマイルズ家族が『教国の犯行』と断定し魔王国を頭ごなしにして教国を潰そうとすると、魔王国の急戦派を刺激し横槍を入れる大義名分を与えます。現在英雄ルカスを中心とした高い戦力を有するマイルズ家族ですが、過去より圧倒的上位者だった魔族たちに邪魔をされると救出が非常にに遅れます。また教国をつぶしてもマイルズが発見できず犯人が魔王国内部にいた場合、非常に難儀な状況に陥ります。魔王にとっても頭ごなしに行動されることで、国内外から軽く見られるようになり魔王国一帯が乱れる原因となります。そこから周辺国を巻き込んだ大乱に発展することが容易に想像されます。つまり、魔王にとって圧力を加えられる方が遥かにマシな状況です。マイルズ家族が義理を効かせて止まってくれていることがありがたいことという認識です」


指摘2「マイルズ一家は本気で助ける気があるのか?情報源(勝さん1号)もあるのに」

回答2「本気で動いているので国を動かしています。情報源は繋がっていません。彼らのリンク、つまりネットワークは魔法力の固有波長を用い、神が敷いたネットワークを経由させて繋がっています。なので70話でつけられた魔法道具で魔法力がジャミングされうまく使えていません。これは4章全般的な話です、という事で『教国の犯行』と断定して家族は動いていますが、教国を追い詰めるための証拠が足りていない状況です」


 尚、何故教国がこんなことをできるかというと、ぐう鱈設定では地球魔術は肉体を媒介にする為、こちらの魔術師より肉体に対する呪術や道具が豊富で進んでいます。そう、奴隷紋も彼らが開発した禁忌の魔法だったりします。

では、本編をお楽しみください……。


ーーーーーーーーーーーー

 もう何回目だろうか……。

 回復魔法も雑になってきたので思ったように腕が動かなくなってきた……。

 こっそりと魔法力を使い回復魔法を掛けます。

 本当に衛君手術してよかった。

 しなければ本当に窮地でした。

 後遺症をもらってやつらのまさに人形となるところでした。


 ギィ

 恒例のオーギュスタンさんが現れます。

 いつも私が気絶していると思っているのでしょうが今日は事情が違うのです。


「お待ちしておりました。オーギュスタンさん」

 私の言葉にオーギュスタンさんは思わず目を見開くオーギュスタンさん。

 そして何故だかその瞳からは涙があふれてきます。


「救世主様……どうか、どうか我らをお許しください……。我らその尊き御身に何という事をしてしまったか……」

 とめどなくあふれる涙を隠すことなく私の右手を宝物の様に触ります。

 はい、ですので握り返してあげました。


「!!」

 驚きで涙が止まったようです。

 そのあたり気にせず立ち上がります。右足の親指を今日切り落とされたためバランスがとりづらいのですが立ちます。

 ん?痛々しい?大丈夫なのですこの首輪さえ外せば元に戻せます。


「貴方にお願いがあります。これは間違った信仰で民が苦しむ現状を正すために、必要な事なのです」

 まだ思ったように動かぬ右足を引きずりながらオーギュスタンさんのズボンを握り、上目遣いで彼の瞳を見ます。とても澄んでいます。宗教汚染はそこまで進んでいないようですね。


「……なにを……なにをすればよいのでしょうか……」

 膝まづいて私の目を見てくれます。良い反応です。


「まずは……この部屋からこれのカギと」

 私が包まる用の毛布の下から1枚の紙を取り出します。

 そう、この屋敷の間取り図です。そしてペンで丸を付けた部屋を指して。私の忌々しい首輪を握ります。


「しかし、教主様の寝室は……」

「心配無用です」

 そう言って私はオーギュスタンさんに光学迷彩魔法を施します。

 これは教会幹部が使ていた秘術で勝さん1号が解析したものです。


「鏡を見てください」

 本来このような囚人を監禁する部屋に鏡など不要なのですが、私を痛めつけ始めてから3日目置かれました。

 毎日痛めつけた後に自分がどうなっているかを確認させるのが彼らの説法の終わりになっています。


「……私が映っていません!」

「声を抑えて……」

 私には見えませんがオーギュスタンさんは興奮しているようです。


「……この状態で懐にものを入れると同様に消えます。試しにこれを入れてみてください」

 いつものパンを渡すとそれを鏡越しに確認しながらオーギュスタンさんは懐にしまいます。


「……救世主様」

 涙声です。


「このような奇跡を私に……」

 いえ、普通に異世界魔法です。


「感謝します」

 泣きながら抱きつかれました。悪い気はしません。

 オーギュスタンさんを抱きしめてあげ軽くポンポンと叩いてあげます。

 しばらくすると泣き止んだらしいオーギュスタンさんが言います。


「では行ってまいります」

「あ、金目の物を回収するのも忘れずに♪」

「はぁ……」

「どうやらあの人たち私腹を肥やしまくっているのです。ならば奪って民に還元しなければなりません」

 頷いて部屋を出たオーギュスタンさんがカギを持って戻ってきたのは20分後でした。

 とても興奮した様子でした。

 そうでしょう、なんせ神父様に盗人のまねごとをさせたのですから知らずとはいえ背教感を感じて……………。


「あの爺! 部屋で若いシスターを抱いて居やがりました! シスターは神を愛しその為処女を神に捧げる存在ではないのか!!」

 ああ、生臭坊主なぅ! だったのですね。でも、3歳児の救世主様には難しいお話なのです。


「しかも、泣き続けるシスターを『つまらん』とかいって殴っては『ははは、体は良い反応するのう!』等と!」

 あのー、股間が膨らんでますよ?

 16歳と多感なお年頃でそんなハードプレイを視たら確かにそうなりますでしょうけども……。

 そういえば、ここのシスターさんやたらと顔をお隠しになる人が多いですね。


「救世主様! 彼女らもお救い頂けないでしょうか!」

 そう言って懐から思った以上の金銀財宝を取り出します。……オーギュスタンさんやり手ですね。


「分かりました。でもその前にこれを外してください」

 首輪を外してもらいます。

 魔法力の循環が多少戻った気がします。これならば多少は行ける。

 そうしてまず自分の体を復元します。

 うまくいきました。

 次に床に転がる財宝類を指で差し、反対床に手を置きます。

 土魔法と植物魔法と異世界魔法の応用です。

 次の瞬間、土でできた財宝レプリカが出来上がります。もちろん鍵の複製品も作りました。


「どうでしょう?」

 オーギュスタンさんは財宝レプリカと本物を都に取り比べて首をひねります。


「救世主様は財宝を生成する秘法をお持ちで?」

 ちがいます。


「偽物の方を床にたたきつけてみてください」

 オーギュスタンさんは怪訝な顔をしつつも偽物を床にたたきつけます。

 するとメッキの下から土が垣間見られました。


「土魔法と植物魔法と異世界魔法の応用なのです」

「ではこの偽物を教主のお部屋に戻してきてください」

 さぁ、これから逆襲と行きましょうか……。

 まーちゃんはやられっぱなしで泣き寝入るほどおとなしいお子様ではないのですよ。くくくく。




魔王の視点―――――――――――――――――――― 

「……」

 実行犯はタウで間違いなかった。

 足取りもつかめた。死んだはずの娘のマリブの存在も確認された。

 その死体はグルンドの路地裏に隠ぺいするように捨てられていたようだ。

 しかも遺体は首以外本人のものではなかった。


 現在、タウが意識を回復させるのが速いか、マリブがリッチとして自我を取り戻すのが速いかどちらかが意識を取り戻せば背後関係を洗える。

 このようなことをするのは異世界宗教しかないと思うが……。

 なれば我らとばっちりではないか!

 あのような脅しを再三に受けたのだ!

 賠償を………ああ、だめだな。結局どのような状態にあろうとも俺の直参の者がしでかした事件だ。しかもタウは精神操作対策に関しての専門家。俺たちに非しかない。


「魔王ちゃん家の料理おいしくない!」

 アリリィはまだ家にいる。早く帰って……お願い。


「ルースおにいちゃん呼んでこようかしら…」

 待って。竜殺しまで呼ぶのやめて。しかも、今回の件の親御さんじゃない。俺合わせる顔がない!


「あ、今ならもれなくビゼブちゃんもついてくる!」

「まて! なぜ獣王家第2王子の名前が!」

「当然じゃない『外交? 俺の妹を泣かした国の責任者に、責任を取らせに行くだけだ。家族の問題だ』って言い張ってたらしいよ。さすがにママが止めてるけど態度次第で…………ねぇ?」

 ガチで怖い!

 リーリアすまぬ!

 感謝する。どうやらこの事態で俺の立場をわかってくれているのはリーリアだけのようだ。


「我ら誠心誠意対応している。もうこれ以上は犯人たちが目覚めるのを待つしかない…………」

「分かってるよー。魔王ちゃんはがんばってるよねー。だから私はここでおとなしくしてるのよー」

 え? それで大人しくしていたの?


「あれ? 心外な発言が聞こえてきたのは空耳かしら?」

「いや、空耳だと思うぞ」

「そっか、……よし!今日は私が料理するよ! 魔王ちゃん!」

「え、いや、ちょ! 仮にもリィはお客様だし…………」

「期待しててねー!」

 駆け出すアリリィを止める手段はすでになかった。

 しかも! その晩のアリリィが作ったという料理が大変うまかった! 悔しい!!


「これ、まーちゃんのアイディア料理なんだよねー」

 ここで拉致された子供の名前が挙がる。やめて食卓が凍り付く!

 味が分からなくなるからやめて!!!!


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