4章:神様・仏様・魔王様!
第71話「拉致された先でも人は寛げます」
まーちゃんの現状報告!
えーっと、明るくしてなければやってられません!
まずは魔法封じの首輪です。この存在自体幼児虐待なのです!
あと、ご飯がまずいです!
何でしょうか根本から矯正してやりたいです!
次に、ご飯の量が少ないです!
その癖私を操ろうと薬入れてきやがります。かける労力が違います!
さらに、それが日に二回しか来ません。もうね、幼児にダイエットとか拷問ですか?!
と、給仕係のお姉さんにぼやいてみました。
「この国では日に1度何か口にできるだけでもありがたい事なのです……。御子様」
愕然です。皆さん痩せ細っているのはそういう事ですか!
あれ? でも教主とかいうおっさん太ってましたよ? その周りの人間もオークかと思いましたよ。
「……尊い方には神のご加護が……」
泣き出しそうだったので慰めてみました。
「御子様を見ていると死んだ息子を思い出してしまい」
息子さんですが生まれたはいいが彼女の乳が出ず、周囲に救いを求めたが結局この教会で息を引き取ったそうです。
「私の信心が足りていなかったのです……」
違います。貴方に栄養が足りなかっただけです。つまり食べさせなかった政府が悪いのです。
「作物は何を栽培されているのでしょうか」
「小麦です」
……まずいですね。
我々日本人が一般的に想像する小麦と違い、この世界では一つの穂から数粒しか取れません。グルンドや王国では祖父の研究所での品種改良の成果で大量に実る小麦ですが、それも王国内でようやく有名になりつつあるだけです。
それにいくら実りが多い品種と言っても、病気や気候に合うかわからない物がこの土地まで伝来しているとは思えません。
ならばせめて米にしてほしいところ。
あれならば昔から収穫量が段違いに多いはず。
「神の教えを信じるまではこの国は米を栽培していたと聞きますが、今は……」
なんてこった……。
その後も時代劇知識であれこれ考える私を置いて、給仕の女性は去ってゆきました。薬入りの食事を置いて……。
その後も色々な方が来ました。
「神の御子よ、貴方に神の正しさを説きに来ました」
聖書を出してきます。
残念ですね。それ子供の時に読みました。讃美歌も歌えますよ?
お前らの前で賛美なんかしてやりませんけどね。
我が家では近場にある宗教に一通り学ばせるのです。
結果、無宗教でもいいし宗教を選んでもいいという感じで。まぁ結局選ばず神道に行きついて楽するのですがね。
「貴方太ってますね」
「はい、信仰に捧げるこの身、豊かでないと示しがつきませぬ」
豚がきれいな言葉使ってんじゃねーよなのです。
「ところで、あなた方の信仰で『神は世界創造時にすべてを計画された』という方と『そうではない』という方がいると聞きましたが、貴方はどちら?」
有名な話です。どちらも宗教原理主義者ですが後者の方が危ないのです。それこそ元の世界で中世から近世まで彼らが行った暴虐はそれがすべての原因なのです。
そして更に有名なのが両者間で起こった内戦です。それのおかげであの地域の皆さん厳格な宗教支配から解放されたと聞きますが……。
「異なことをおっしゃる。神の愛は偉大です。知らぬ者にも恩恵を及ぼすのも我らの勤めではありませんか」
「神は完璧な存在なのでしょ? では救うものと救わぬ者も完璧ではないのですか? 救われるものはおのずと信仰するものではないのでしょうか?」
……あ、この豚さん転移者だ。
今ぼそりと異宗派の皆さんへの蔑称を呟きやがりました。
「あと、偉大な神なのです。信仰しなくとも正しく生きた人間には天国に導くのでは?」
「その様なことはありません。神の教えを知らなければ正しく生きることなど不可能!」
その神の教えとやらはだれが作ったんでしょうね?
神ですか?
不敬じゃないですか?
人でしょ?
この本書いたの?
書いた人大罪人じゃないんですか?
「数学は悪魔の学問とか?」
「ええ、悪魔崇拝者の儀式です」
ああ、やっぱりそうですか。この狂信者……を語る守銭奴め。
「写実も駄目なんですよね?」
「無論、犯してはいかん禁忌だ」
ああ、これで分かった。この国はだめだ。もう宗教で占領されている。
このくそどもは多分、いや確実に民衆を野草の類にしか見ていない。
数字的な根拠や現実を見ないで実ったら奪うのだ。そして民衆にはほんの少しだけ残して生きていることに感謝を求める。……いや、きっとそこから宗教にもっと漬け込むのだろう。
「ああ、神がおっしゃられています。貴方は背教者だと」
お付きの方、この方を宗教裁判にかけてください。調べれば不正な裏取引がわんさか出てきますよ。……貴方達と同じ様に。大義は預けますのでお好きになさってください。
「何をおっしゃられていr……」
うるさいのです。最後まで聞いてなんかやりません。
「貴方が潔白であれば神があなたをお守りくださるでしょう」
そう言ってニコリと微笑んでやります。
私には教主とかいう胡散臭い爺がつけた『救世主』という肩書があります。
そして、こういった欲深いやからの周りには同種の人間がいます。お付きの男も同種なのでしょう。私がそういうと生き生きした顔で男を連れていきます。
永遠に内ゲバしててください。
ああ、そう言えばあなたの同僚が明言を残してますね。『殺せ。神が判断される』とか。
同じく同僚のことわざに『天は自ら助くる者を助く』ってあるのですから今あるパイを奪い合うのでなくて、新しいパイを作り出してほしいところです。
……翌日のお昼の事でした。
「救世主様、お待たせしました説法のお時間です」
教主とかいう爺さんが邪悪な笑顔で来ました。
その手に持つムチは何でしょうか。後ろに控える回復術師たちは何でしょうか。
ああ、少しやりすぎたのかもしれません。
後の事は想像にお任せします。ただ、まーちゃんはそちらの趣味はない……とだけ記載します。
魔王の視点――――――――――――――――――――
庭園で妃と共に茶を楽しむ午後。
我が国の臣下たちは優秀だ。その為俺が決済すべき事項は少ない。
それこそ急ぎの伝令が駆けこんでくるなどここ数十年無い事なのだ。
「陛下! 緊急事態にございます!!!」
ほら、数十年に一度……なんと珍しいの。
「なんだ騒がしい」
「宮廷魔導士タウがアルキア王国でルカス公の孫を誘拐いたしました!」
……は?何言ってんだこいつ。
「宮廷魔導士タウですが、転移で誘拐したのち腹部を刺され現場に戻ってきたとの事です」
「まて、言っていることが理解できん」
「我が国の差し金とルカス公が激怒しておられます。返答次第では単騎で我が国を滅ぼしに来ると息巻いてるそうです」
ええい、話しにならん!
「ヒューゴ!」
「おそばに……」
闇から青い肌の男ヒューゴが現れる。
「要領がつかめぬ、状況整理せよ! 早急にだ!」
あの男が動くという事はあの女も動くであろう。これは一大事だな。
「陛下! 緊急事態にございます!!!」
……なに? 今日何なの?
「宮廷魔導士タウがアルキア王国で獣王陛下の養子を誘拐いたしました!
我が国の差し金と獣王が激怒しておられます。返答次第では第二次魔神戦争も辞さぬ息巻いてるそうです」
……タウよ。貴様何をさらった。
アイノルズ一家だけでも我が国窮地に陥る状況なのに獣王が加わったら確実に滅びる……。
前大戦の様に拮抗した力関係で泥沼ではない。一方的な蹂躙になる……。
「はぁ……」
優雅な午後が一変した瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます