第64話「逆ざまあってどうやるの?」
「それは辛い!」
衛君が大げさに合の手を入れる。
ゆっくりと語られたカミラさんの過去。真面目な彼女は溜め込んでいたのでしょう、御家の恥のはずですが隠さずゆっくりと沸々と湧き上がるような口調で語られてゆきます。
明日学会があり私の発表は開幕という栄誉を預かっております。失敗できません。
そんな緊張感が伝播したのか今最終確認完了後、緊張感からの小さな解放感と共にカミラの口から語られています。
「でも私が悪かったのです……」
きっと変態王子の事なのでしょう。
あの変態今は本体の元生き生きとしてます。全く気にしてる様子がありません。
カミラさんも気にせず生きたらいいのに……。
貴族としての責任とかに縛られているご様子です。
それでは態々この国に送り出してくれた親御さんの気持ちが無駄になってしまいます。
とはいえ、今日明日で開き直りなさいというのも、この年頃の少女には酷というものです。
今は折角素直になっている時間。吐き出したいのであれば好きにさせてあげましょう。
「これは逆ざまぁしかありません!!」
衛君、君に自重という言葉はないのですか……。
というか『逆ざまぁ』って何ですか?
「逆ざまぁとは、意気揚々と婚約破棄をした王子に対して『ありがとう、おかげで幸せになれます!』って打ち返すことです」
「なんと! その様な画期的な考え方が!!」
あれ? カミラさんもお疲れなのでしょうか?
衛君その『逆ざまぁ』合ってますか? 変態王子罪被りましたけど現在進行形で幸せですよ?
「そうです! 王子を見返しましょう! 幸せになって見せつけてやるんです!」
「見せつけてやります! ……でも私何をすればよいのでしょう……」
「そういう時は目についたこと、思いついたことを順次こなして行くといいんです! したいことをする! カミラさんはこれまで我慢してきました。今は異国! 家のしがらみもない! さあ! 少しぐらいしたいことをしましょう!」
衛君。非常に正論ですが。胡散臭いことこの上ないです。
あと、抑圧されていた人を解き放つときっと取り返しのつかない……。
「ああ、マモル様! 私、目が覚めました!」
いや、寝てると思う。逆に早く目を覚まして! 国元に帰れなくなるよ……。
「不肖この衛、カミラさんの手助けをする所存!」
この2人は暴走しない様に見守っていましょう。
現実逃避したいのでしょうけども踏み外さないように監視しないと……。
マイルズの視点―――――――
「では、魔剣納品会を始めるのです!」
パチパチパチパチ
獣王都郊外の広い練兵場で獣王夫妻、ポチたま、祖父祖母、権三郎、いつもの皆さんが勢ぞろいです。護衛の皆さんご苦労様です。
ん? 変態王子ですか? ん?鬼畜メガネですか?
『愛してますお魚♪ の会』の会合中です。
父が獣人の伝手を使って現地従業員を雇い、始めた『フィッシュ&チップス』の店が流行ってしまいまして。なんといいますか獣王都の胃袋を掴みつつある会になっています。思惑通りで何よりですよ。ほっほっほっほっほっほ。あ、〇ルタン星人ではないです。笑い方がそれっぽいですけど。宇宙忍者では決してないのです。
「……マイルズ、剣が4本あるように見えるの気のせいかしら?」
「気のせいです。きっとお疲れなのです。お婆ちゃんお家帰って寝る?」
……アイアンクローは3歳児につらいのです。
祖父よ。爆笑はいけないと思うのです。
獣王様。一歩引きましたね。まーちゃん閻魔帳は健在です。メモメモ。
「冗談なのです。まーちゃんジョークなのです。4本あるのです。獣王様に強請ったら追加でくれたのです」
密告は義務なのです。裏切者には死をなのです。
獣王様の額に冷や汗が浮かんでます。
「あー、間に合った~」
遠巻きに囲っていた大量の護衛達の間から水色の髪のお姉さんが抜けてきた。
護衛が止めない。関係者でしょうか?
水色のだぼっとしたローブと片手に持つ杖が祖母そっくりです。
そのゆるふあ系美人のお姉さんは私の方に手を挙げて言います。
「まーちゃん久しぶり! 赤ちゃんの時以来だね!」
覚えてる分けねーよ!!
お姉さんは突っ込む隙も無く続けます。
「あ、これ終わったらママの杖のコピーこれに作って~、お姉さんからのお・ね・が・い♪」
「関係としてはおばさ……ぐあ!」
「獣王様!!!!」
「おう、いぬっころ。なんかいうたか?あ゛ぁ??」
「すんません。何も言っておりません! 奇麗なお姉さん」
「リィちゃん……。たくましくなったわね……」
「王妃様、それほどでも……」
照れております。褒めてないよ?
……あれ?
……本気で照れてる?
……このやり取りで確信しました。祖母の娘のようです。
年齢的にはまだお若いようですが、自由人のようです。
……我が家でよく見るタイプです。
これは……突っ込んだら負け!
というやつですね。スルースキル全開! なのです。
「気を取り直しまして」
「マイルズ、慣れたのう」
「3歳にしてこの耐性を得るとは苦労がしのばれますね」
ポチタマうるさいのです。
……祖父よ、もうそろそろ爆笑から戻ってきてください。
王妃様。なんかすっごく楽しそうですね……。
獣王さま。怯えてもう一歩下がる必要性はないと思いますよ……。
これから矛先が向くのですぐ詰め寄られます。
「まずはこちら抑え気味な魔剣試作1号です」
刀身が銀色の大剣を権三郎が抜き放ちます。大男の権三郎でも大きく見える大剣なのです。
「安全上考慮しましてすべての技は暗号認証になっています。間違って発動したら危ないですしね。では権三郎、魔法力を流してください」
「はっ」
魔剣に魔法力が流れうっすら白い光に包まれます。
「まず見た目、光の剣にしてみました! これ結構こだわりです」
「いいのう! ロマンじゃ」
獣王様よい喰いつきです。
「次に……標準装備の振動ブレードです」
そういうと右足を3度踏み前方少し離れたところに岩の棒が立ちます。
周囲がざわめきます。基本農業魔法ですよ? これ。
「剣に自信がある方」
獣王様が手をあげます。
「ちょっとこれ切ってみてもらえますか?」
「よいのか? 自信あるぞ?」
「どうぞどうぞ」
獣王様はそれを聞いてにやりと顔を凶悪に歪めます。
次の瞬間、腰の剣が抜き放たれます。
…‥降りぬかれた剣が見えません。
間合いを詰めるのも目にもとまらぬ速さです。
ガギン
金属と金属がはじけるような音がして獣王様の剣が半ばまで食い込んでいます。
あ、結構な硬度のはずなんですがね……、あれ……。
「ふむ、マイルズよ。貴様中々の腕じゃのう」
刃こぼれした剣を片手に満足そうですが、護衛から『国宝が……』とか漏れてますよ。
……それしたのは獣王様で、まーちゃんには責任はありません。念のため……。
「では続いて権三郎」
「いきます、『振動ブレード発動』」
『コード受領、振動ブレード起動します』
剣に青白い光が宿ります。
そして権三郎の何気ない一振りで標的の棒が簡単に切り離されました。
「……これが基本機能?」
獣王様とお姉さん以外の人の目が冷たいです。
「特殊機能があるのよね?」
はい! 先は長いですよ。
次は集団向けの機能なのでまた足を踏み鳴らします。
すると、細めの木々が200本ほど100m離れた地点に生えます。
農業魔法林業部門です。
「貴方、農業魔法は10歳まで待つ。という約束は?」
「すまぬ。他意は他意はないのだ。ついつい孫かわいくて……」
「ふーん」
ああ、絶対零度の視線に祖父がさらされております。
……頑張って!!
そしてこっちを見ないで!!
……では、気を取り直して……。
先ほどの岩の棒と同じ硬度の岩を木々の後ろに設置します。
そして即席魔法力バッテリーとして私は権三郎の背中に紐で括り付けられます。
「ゴーなのです!」
「『秘剣起動』」
『秘剣モード起動』
青い光が強めに光ります。中々の魔法力消費なのです。一般人には決して扱えません。
「唸れ! 『王の咆哮』!!!」
キーワードに呼応して打ち出されるは、青白い光弾。
光弾は前方広範囲にかまいたちを発射しつつターゲットへ迫ります。
そしてターゲットに着弾すると爆発します。そう大爆発!
結果。私が生み出した木々はすべて切り倒され、大地にかまいたちの斬り跡が残り、岩は爆散しています。
想定通りの結果です。満足ぅっぅぅぅぅう。……アイアンクロー再び!
「マイルズ―。何かなーこれ?」
「お婆ちゃん、事前許可いただいた爆発魔法なのです」
「手前の風魔法は」
「オプションのちょっとした演出なのでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
アイアンクローからの持ち上げです。
「なんて危険物作ってるの?」
はい、そういわれるのは薄々……。
「薄々気付いているのなら自重しなさい」
「大丈夫なのです。完全な魔法力認証と声紋認証を完備してますし、この武器グルンドと獣王都向けに座標固定でき無い様にしてます。あと登録者も獣王様と私と権三郎のみなのです。安心安全設計なのです」
ついでにDNA情報からも認証してますので完璧なセキュリティなのです。
「魔法力認証という事は……、いぬっころ………………」
「はい!」
「知ってましたね」
「はい! ロマンに流されました!」
獣王様、暗に自分のせいじゃない風に言うのやめましょう。大人気ないです。
「はぁ……これは、まぁ限定封印で勘弁してあげましょう……でもこれで『抑え気味』なのですよね? 他は?」
「よくぞ聞いてくれたのです! まずこの魔剣ですが『全方位自動迎撃光学兵器搭載型魔剣』なのです! これは持っているだけで自動迎撃機能が襲い掛かる敵を薙ぎ払います! そして何より外部魔法力を使っているので使用者に優しい設計! 省魔法力なのです!!!!!
次にこれは『戦略型大規模破壊魔剣』なのです。普段は衛星軌道に飛行させておきます。これも外部魔力保有システムで永続起動なのです。攻撃時には地表の座標を入力して高高度からの岩魔法投下による広域殲滅ぅぅぅぅぅぅ」
ああ、まだ最後のとっておきを話していないのに指がめり込みます。
「全部封印です。封印した上に神に預けます」
「しかり、マイルズこれはわしにもかばえん」
「危なすぎなのじゃ。生けるものすべて殺すつもりか」
「幼児の皮をかぶったモンスターです」
「ロマンだがやりすぎはよくないぞ」
「マイルズ君自重って言葉を書き取り一万回ね」
「これが、噂に聞く『バ可愛い』っいうやつね! お姉さんにはレベル高すぎて怖いわ……」
上から祖母、祖父、ポチタマ、獣王様、王妃様、お姉さんと続きました。
いや私は悪くないのです。悪くないのです。
お説教大会IN獣王家でした。
王妃様腕が痛いのです……。え? もう1万文字追加する? いえ、マイルズは誠心誠意書き取りに励んでおりますとも(キリッ)。
結局本当に封印されて運命神様に預けられたようです。
傑作兵器なのに……ぐっす。
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