第30話「モンスター退治?幼児には無理です。お引き取りください」
ボールが飛んでいく。
祖母が暇つぶしに作ってくれた、中に布の切れ端が詰め込まれたつぎはぎのボールです。
綿に比べるとちょっと重いが安全に遊べる遊具の一つです。
いつもは子供部屋で遊んでいたが、今はリビング。
キャッチボールの相手はバン兄である。
このキャッチボール、この幼児心に誘われるものがある。
つい夢中でボールを追いかけてしまう。
バン兄とはお互いまだ体の操作が未熟なためまっすぐ飛ばない。でも楽しい。
つい夢中でキャッキャしてしまう。
それを見守る大人陣のほほえましい視線も慣れたものである。
変態王子の変態行動に最近心が疲れていたので、癒される。
相手が『癒し系幼児』『奥様のアイドル』ことバン兄なのでさらに癒されます。
変態王子ですか?
今はまじめにお仕事中です。夜に向けた仕込みです。
夜になったら料理人として厨房に立つのだとか。ちっ、できる変態さんなのです。
あ、ボールがそれました。ダッシュなのです!
ダッシュしたら周りが見えないので、障害物に当たることが多いのです。
勝の時も子供たちもよくぶつかって泣いていましたね。なんとも懐かしい……。
さて、私の場合はぶつかりそうになると襟首を掴まれて持ち上げられます。
ネコではないのですよ?権三郎。
「最近ミリ姉を見ないのですが、なにしてるんですかね……、ぇぃ」
ミリ姉はあの、人権略奪装備を嬉々として着せてくる方なので、関わらないのはありがたい話なのですが、家族ですので見かけないのが多いと気になります。
ああ、勝の時、週末しか触れ合えなかった子供たちは何も私が居ない事で心配と不安を抱えてくれただろうか……。
脳裏に一度、弁護士さんに連れられ元嫁と間男同伴の調停会に出たことを思い出した。
あの馬鹿どもは『私達は本当に愛し合ってる』とか『お金を稼ぐだけで家族ごっこ出来たんだ安いだろ』とか『お前に会う前から自分たちは深く愛し合っていたんだ邪魔するな』とか……、一番つらかったのは『子供たちも俺が父親だと思っている』でしたね。
隣で聞いていた間男の兄が間男を、元嫁の父が元嫁を殴り倒してマウントで殴り続けなければ、弁護士さんがぶちぎれてしまいそうな場面でしたね。
……もう過去の話なのですが、踏ん切れませんねぇ。
「あれ?まーちゃん目が腐ってきたよ?大丈夫?」
バン兄の言葉が直球です。
そして6歳でそんな心情を読まないでください。
やっぱりあなたの弟は貴方の将来が不安です。
この世界初めてのホストクラブとか経営して大成功しそうです……。ふむ、その時は一口乗らせてください。王都とかもうけが大きそうですね。
おっと、いかんいかん。
「大丈夫です。ミリ姉は今どちらなのでしょうか」
「今ですと。ハンター組合かと思われます。マスター」
権三郎さすがなのです。
「ハンター組合ですか?」
「12になったら通う予定の騎士学校は王都だからな、実践できる環境に居たいていうんでな俺が許可した」
父が登場です。
「危なくないのですか?」
10歳の女子が魔物はかなり危ないと思うのですが。いかが?
「危なくないぞ、今年あいつは神に会って力をもらってるからな」
ほう。
「5級ハンターぐらいの力はすでにあるかな」
5級?と思ったら説明してくれました。そして『じゃ』っていうと仕事に戻っていった。
ハンターについてはざっくりと以下の等級に分かれパーティー構成の目安仕事紹介の基準となるようです。
≪ハンターランク≫
・登録試験(体力測定と筆記試験、有資格者による面接試験)
一般登録者:10級開始
騎士学校卒業生:7級開始
・ランクアップについては、職員による推薦が前提で体力測定と筆記試験がそれぞれ設定されている
・各ランクと目安
10級:害虫駆除や街中での便利屋稼業
9級:害虫駆除や街中での便利屋稼業
8級:害獣駆除や便利屋稼業
7級:パーティ編成での小型モンスター討伐
6級:単体での小型モンスター討伐
5級:パーティー編成での中型モンスター討伐
4級:単体での中型モンスター討伐
3級:パーティ編成での大型モンスター討伐
2級:単体での大型モンスター討伐
1級:ドラゴン・竜などの危険モンスター討伐
特級:災害指定モンスター討伐
どうやら6級以上のランクについては王都での試験が必要なようです。
ハンター組合という組織は、国家が運営している組織のようで、試験とか結構厳粛に行われているようです。
この辺、若かりし頃ハンターとして遊んでいた経験のある現国王が整備したそうなのです。
さてここで、一般常識で当てはめて考えてみましょう。
ファンタジーとか映画でよく見るじゃないですか。
『吹き飛ばされて壁にめり込んだ!』って、………普通に考えてみましょうよ。
人体、壁にめり込みません。
めり込む勢いだったら壁の赤い染みになります。
めり込む勢いで叩かれたらそこで粉砕されて肉片です。
ですが大型モンスターやドラゴンと戦うのであれば『それぐらいの勢いで叩かれても耐えらる』ぐらいではないといけません。
全部かわせって?いやいや、そんな体力ないでしょう。しかも、相手大型ですよ?攻撃半径・攻撃範囲が違いすぎます。
それでも基準としてあるのです。
成した人がいるということは、大型や竜の間合いで戦っている実績がある。
少なからず攻撃を2~3回防げる人類が存在する。という事になります。
同じように竜がどれぐらい大きいかわかりませんが、3mだとしましょう。
その巨体を支えるだけの強度と柔軟性を持つ外皮、筋肉。それらを断つための斬撃、それを放つとしたら常人であれば多分放った瞬間、反動で腕が吹き飛んでいると思います。
作用と反作用というやつです。欧米人が好きなムキムキ筋肉なんて誤差にすぎません。
最後に傷です。
『傷つきながら倒した』とロールプレイングゲームとかで見かけますが、そもそも人間切り傷だけでも戦闘力激減しますよ。足とかのちょっとした切り傷で歩きづらくなった覚えありませんか?スポーツしていた人ならわかると思いますが、肉離れとかしたら激痛で1か月歩けなくなりますよ?脱臼とかしたら引退の危機だったりもしますよ?
結論、神の恩恵を受けるという事は細胞単位、もしかしたら遺伝子単位で人間辞めてる。
魔法力なんてものがあり、魔法力を生成する器官が体内にある時点で、すでに私が知っている人間ではない、のですがね。今更の話ですか。
ふむ、これは……。
「……行ってみたいですね」
ぼそりとつぶやくと、皆私と視線を合わせてくれません。
なので権三郎の肩によじ登り言い放ちます。
「ハンター組合までGOなのです!」
「リード! 幼児用リードはどこに行った!」
人権さんが再ピンチな予感がしますので早くいきましょう!
行かないという選択肢ですか?……あるとでも?
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