第62話 こんてすと 8
参加者全員がステージ上に登壇すると、会場が静寂に包まれる。皆の意識がマーゲイに集中していた。
その緊張感は観客側の後方に固まるフェネック一行にまで伝わっていた。
「いよいよだねー」
「誰がなってもおかしくないくらいの激闘でしたね」
「そうね。アライさん以外なら納得出来るわね」
「オオカミさん、ひどいですよ~」
「そう? フェネックもそう思わない?」
「まー、アライさんはないんじゃないかなー。ほぼ反則みたいなもんだしねー」
「それは……、確かに否めませんけど……」
「アミメキリンは、やっぱり友達推しかしら?」
「んー、ロスっち? 正直、結果はなんでもいいよー。本人も出たいって言ってただけだしねー」
「なるほど。結局のところ、ここに居る全員は、結果にそれ程興味がないという訳ね」
オオカミが簡潔にこの場の全員の心情を取り纏め一言。その言い様に、誰も否定する者は居なかった。
「だけども、あっちはどうでしょうね……」
その視線は当然、ステージ上に向けられていた。
ロスっちの様に参加を目的にした者が半数。残りの半数はそれぞれに何かしらの目的を持って参加している。
そして、スタッフとの話を終え、マーゲイがマイクを口に向けた瞬間。
緊張の一瞬が訪れた。
張り詰めた空気感の中、普段と変わらないトーンで彼女は口火を切る。
「ではでは、お待たせしました。先にPPPの皆さんを代表して、審査員の統括役を担って頂いたプリンセスから一言貰いましょう」
「今回のフェスティバル、とっても貴重な体験だったわ! 会場の皆さんと一緒に楽しめたこと、この一体感こそ、けものフェスティバルの真髄よね。また呼んでくれたら嬉しいわ」
「も、勿論ですともっ!」
「良かったわ。それとコンテストに関してだけど、色々な発見を出来たわね。今回の審査は初めてということもあって、凄く難しかった。この点に関しても次回の基準になってくると思うの。色んなトラブルもあったけれど、これも良い意味で捉えられるものになったんじゃないかしら?」
「そうね……。コンテスト以外でも、次回は更なる改善に、どうぞご期待下さい!!」
マーゲイが自らの戒めの言葉を言い切る。
「……ふふ。楽しみね! 内容に関しては言う事無しね。参加者の皆の個性が良く出たコンテストになったと思うわ。色んな所から刺激を貰えたもの。私達も、遠くない未来で別の衣装で歌う機会が来ると感じさせてくれたわ」
「い、良いですねー!! た、楽しみです……じゅるり」
「さ、マーゲイ。皆さん、お待ちかねよ!!」
「は、はい!! では、結果発表に移ります。まずは、ミス・フレンズからいきます」
すると、照明が薄くなりステージ上は真っ暗な状態へと変わった。
皆の静黙が一帯を包み、平原に静かな風がゆっくりと流れる。
参加者の
(ロスっちで決まりっしょー)
(私の愛こそが本物よ……ふふふ……)
(ドヤァ)
(ジャパリコイン、二つ目ゲットなんだからっ!!)
(アライさんの時代なのだっ!!)
そして。
…………。
………………。
……………………。
…………………………。
「ミス・フレンズは、エントリナンバー1、ユキヒツジです!!!!」
「なっ……」
「残念~」
逸早くアライさんとヨーロッパビーバーが反応した。
『おおおおおおおおおお!!!!!!』
発表と共に、会場全体が驚愕する。
小さな拍手と統制のない祝福の声が彼女に贈られた。
「わ、私!?」
スポットライトの当たったユキヒツジは眩しさのあまり、目を細めていた。その雪の様な髪が、白銀に煌いている。
「どうですか? ミス・フレンズを受賞した感想は?」
「あ、ありがとう! 素直に嬉しいです。宣伝にきたついでに、こ、こんな名誉な賞まで……。なんか、すみません!」
「いえいえ、ユキヒツジの日々の美の鍛練が生んだ結果よ。誇って下さいね!」
「は、はい。お店の方もよろしくお願いしますね!」
「宣伝効果、ばっちりよ! では、続いて準ミス・フレンズの発表です!」
そして、再度の静寂。
緊張の糸が一度緩むと、再び張り詰めて一線となる。
残る一枠に入ったのは。
………………。
………………。
「エントリナンバー11、ヨーロッパビーバーです!!」
『おおおおおおおお!!!!』
会場の反応と同じタイミングで、ヨーロッパビーバーが小さなガッツポーズしてみせる。
「ぐぬぬ」
アライさんとヨーロッパビーバーの勝負に明暗が下された瞬間であった。
すぐにマーゲイが近付いてくる。
「これはまぁ、納得の受賞って所かしら?」
「そんなことないよー。発表の瞬間はとても緊張したよー」
「そんな風には見えなかったけど……。ヨーロッパビーバーが今回のコンテストで与えた影響は大きなものになったわ」
「私の思い付きが、皆の役に立つのなら光栄なことだねー」
「準ミス・フレンズは、その肩書きだけになってしまうけれど……」
「しょうがないね。また、珍しいものを探しに色んな場所に行ってみるさー。今回はどうも、ありがとう~」
そして、二人が表彰台に上がり、小さなティアラを頭に乗せる。ユキヒツジには優勝賞品のジャパリコインが渡された。
『おめでとうー!!!!』
運営スタッフとPPP、参加者と会場から祝福の拍手喝采が贈られ、これにて“けものフェスティバル”が閉幕。楽しい時間は終わりを告げた。
コンテンスは
ミス・フレンズ――ユキヒツジ
準ミス・フレンズ――ヨーロッパビーバー
が受賞した。
*
それから時間が少し流れた。
多くのフレンズが集まった今回の催し。観客達もそれぞれに交流を重ねた後、その場でお喋りを続ける者や解散する者など、散り散りな様子が窺える。運営スタッフはひっきりなしに動き回り、早めの撤収に成功。PPPや演者も同様に去り、参加者の一部が着替えを終えて喋繰り合っていた。
「悔しいのだ!!」
「まぁ、確かにヨーロッパビーバーのアイデアは凄かったよね~。キラキラしてたもん!」
「私もまだまだ詰めが甘かった様ですね。爪だけに……、ふふふ……」
「そのギャグは非常に寒いですね(ドヤァ)」
「そうですか? 実にポイズンチックかと……」
受賞を逃した一行が今回のコンテストの感想を述べ合う中、そこへ一際輝きを放つ二人の受賞者が合流してきた。
「“準”だったけど、勝負は私の勝ちだね」
「今回は負けてしまったのだ。ジャパリコイン、欲しかったけど諦めるのだ……」
酷く落ち込むアライさん。
受賞を逃した事よりも、ジャパリコインを入手出来なかった事が、沈んだ表情の何よりの要因であった。
すると、まさかの出来事が起こる。
「ジャパリコイン、あげましょうか?」
「へっ――!?!?」
ユキヒツジは先程、譲り受けたジャパリコインを“差し出す”と平然と言ってのけた。余りの驚きに、アライさんは小首を傾げたまま静止していた。
「私は元々、お店の宣伝に来ただけですし、このコインにどれだけの価値があるのかも分かりません。欲しい人の手に欲しい物が渡る方がきっと、このコインも喜んでくれますよ。そっちの方が有意義だと思うんです!」
「だけど、要らないなら、ヨーロッパビーバーが受け取るのが順当なのだ……」
「アライさん、こんな時だけ遠慮するのかい? 私は一つ持ってるから、今回ばかりはアライさんに譲るとするよー」
「ほ、本当か!? やったー、やったのだ!!」
思いがけない展開に
すると、ユキヒツジが手渡す際に、一つ約束事を言い付けた。
「アライさん、何やら冒険をしてるみたいですね」
「うむ。あの時見た大きな光りの正体を追い求めているのだ」
「なら、これを渡す代わりと言ってはなんですが、その冒険のお話、また聞かせて下さいね。ゆきやまちほーのお店で待ってますので」
「分かったのだ! それぐらいのこと、何でもないのだ」
小さな約束を経て、結果としてジャパリコインを手にしたアライさん。
子供の様に目をキラキラとさせながら、そのコインに見惚れていた。
「皆さんも髪でお困りのことがありましたら、是非、うちのお店に来てください!」
「いくいく~」
「私も行ってみたいです」
「行きます(ドヤァ)」
「では、私はそろそろ戻らないと行けませんので。あまりお店を空けてはいられないので……」
既に辺りは真っ暗。
夜行性のフレンズ達が活性化し始める時間となっていた。今からの移動は昼行性のフレンズにとっては困難を伴うものとなる。そして、それに加え、近頃のセルリアン増殖具合。謎の多いこの現象だが、危険である事は明瞭。単独での行動となれば尚更なものであった。
皆が止めに入ろうとしたその時。
そこへフェネック一行が合流してくる。
「それは危険なんじゃないかしら?」
ユキヒツジが以前からの顔見知りを見て、「あっ」と表情を変えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます