第61話 こんてすと 7

 フェネックの仕込みにより、クールな登場には至らなかったものの、オオカミの感想通り、ファッションセンスはずば抜けていた。普段のアライさんからは連想も出来ない雰囲気が服装により引き立っている。これは一種のギャップと呼ばれるものだ。


 逆の一面を見せる事により、それ本来の良さを更に付加させる心理効果の一つで、これを利して瞬間的に見る側に強烈な印象を与える事が出来る。そして、この様な手はコンテストには非常に有効な策なのだ。より短い時間で相手にどれだけの心理的な衝撃を与える事が出来るかがポイントとなる。そして、印象に残りやすいパターンを選んだ場合、ヨーロッパビーバーの様な斬新さやイレギュラーに対抗出来る良策は只一つ、意外性を利用した服装だ。


 その意外性を引き出す材料としてアライさんは適任のフレンズと言える。個性の強い逸材である彼女、その逆の面を強調してやればいいのだ。そして、最も彼女に親しいであろうフレンズがコーディネートをするとなれば、その良策が成功するは必然といえよう。


 その服装は、黒を基調としたオシャレスーツ。

 カジュアル寄りのスーツではあるが、普段のアライさんからは無縁といっていい程、真逆の存在と言える服装の選択である。スーツの上着と細身のパンツが黒、インナーとして着ているベストと細いネクタイ、ポイントとして被ったハットがアライさんを象徴する薄紫色をしている。装いは違えど、色合いは本来の彼女らしさを残した粋な計らいを感じるコーディネートであった。


「アライさん、その服はオシャレスーツかしら? この帽子は……?」

「急いで付け足したのだ。さっきの話を聞いて、アライさんもやってやろうと思ったのだ」

「真似したってこと?」

「うむ!」


 腰に手をあて、深く頷き、堂々と模倣宣言をするアライさん。

 ヨーロッパビーバーのステージを覗き見し、良い点を我物にしようと迅速果断に準備室へと向かい、それを付け加えたのだ。マーゲイが表情を固めて、すぐにヘビクイワシの元へとルールの再確認をしに向かう。


「ちょっと、アライさん。それって大丈夫なの?」


 プリンセスも思わず口を出す。

 しかし、皆の焦り様に反してアライさんは堂々としていた。


「アライさんはあくまで、参考にしただけなのだ。悪いことはしていないのだ!!」


 アライさんの思わぬ行動に、会場の多くが驚きの様子を見せていた。

 当然、同様にフェネック達も。


「アライさん、やってしまったねー……」

「アライさんらしいと言えば、らしいわね……」

「奇想天外ですね……」


 すると、審査員席から。


「まぁ、確かに他者の良い点を真似したくなる気持ちは分からなくはない……、かな?」


 コウテイが進行の止まったステージに一つ、コメントを飛ばす。


「俺も、お淑やかなやつに憧れたりしなくもない……、かな?」

「そうなのー? いがいー!」

「無い物ねだりの様なものでしょうか? 私達も飛べたらいいなって思うこと、ありますもんね」

「ちょっと違うんじゃない? どちらかと言えば、私達が先代に受けた影響力の様なものに近いものだと思うわ」


 PPPが全員で話し合いを続ける。

 ステージの端では、統括役を担うヘビクイワシが頭を悩ませていた。マーゲイとの協議の末に、判定を決め兼ねている様子。


「わたくしたちの盲点でしたね。……、今回は致し方ないでしょう」

「そうね。逆に勉強させてもらった、と思うべきじゃない?」

「そうですね。次回はしっかりとルールを制定した上で、参加してもらうという形で……、改善致します」

「決まりねっ!」


 両者の意見が合致した所で、マーゲイはステージ中央へと戻っていく。


「アライさん、失格になったとしても悪く思わないでくれ」

「そうねっ。参加してくれたこと自体に意味があると思うのよ。良い思い出になったじゃない!」

「良い思い出なのか?」

「記憶に残りやすい思い出、ではありますよね?」

「うんうん」


 PPPの皆が、遠くから参加してくれたアライさんに気を利かせ、励ましの言葉を送る。


「失格になったら、その時は残念なのだ……」


 先程の威勢とは打って変わって、ようやく自分の行いを理解し、気遣わしげな表情を浮かべて立ち尽す彼女。そこへマーゲイがせっせとやって来る。


「大丈夫っ! 今回は、運営側の確認が甘かったってことで、そのまま続行よ」

「ほ、本当か!?」


 曇った表情が晴れたものへと移り変わる。アライさんは確認の為、視線を移すと、ヘビクイワシも小さく笑って頷き返した。


「良かったわね。ひやひやしたじゃない!」

「PPPの皆も、心配してくれてありがとうなのだ!」

「良かったです」

「そうと決まれば、さっさと審査しちゃおうぜ~!」

「私はもう終わったよー」

「はやっ!! フルルは意外と抜かりないな……」


 口をもぐもぐと動かしながら、逸早くを役目を終えたフルル。それに続けとばかりに、PPP全員が事を仕遂げると、全ての参加者の審査が終了していた。


「別の意味で印象には残ったけれど、ファッションセンスは光るものがあったわ。自分の別の面を良く出せてると思うわ」

「服装だけで雰囲気を変化させることが出来るとは……。とても参考になったよ」


「ありがとうなのだ!」


 プリンセスとコウテイが短い感想を渡した所で、マーゲイがアライさんを誘導し、一度ステージから撤退していく。


「これにて全員の審査が終了し、いよいよ結果発表になります!! 発表まで、しばしの時間を有しますので、皆さん、もう少し待ってくださいね!」


 マーゲイは急ぎPPPの審査カードを回収すると、それを持ち、運営スタッフの元へと駆け寄っていく。


「ここからは、ステージ上は目まぐるしい様子が映るわね」

「運営スタッフの皆さん、頑張ってください」


 表彰台の配置に、照明の点検、結果の確認と運営スタッフは大忙し。PPPと観客に挟み込まれながら、せっせと動き汗をかいていた。


 その一方。

 ステージ至近の裏側では審査を終えた参加者全員が運営スタッフ誘導の元、一列に次の登壇を待機していた。列の最後尾に着いたアライさん。その前にはヨーロッパビーバーの姿がある。


「アライさん、これは私の勝ちなんじゃないかな~?」

「確かに、ヨーロッパビーバーのアイデアは凄かったのだ。だが! アライさんは負けないのだ」


 アライさんの根拠のない言葉。

 しかし、その意気込みは勝負に相応しい志向であった。勝負で肝要なものは、事前の努力や練られた対策よりも、まず先に来る、折れない気持ちである。勝負に置いて、負けに往く者は誰一人としていない。そして、強い気持ちを持ち続ける事は、“弱者で在り続けない為”の種となるのだ。アライさんは既にそれを持ち合わせていた。


「ま、それでこそアライさんだよねぇ~」

「ふん!」


「では、皆さん、そのまま一列になってステージ上に上がってくださいー!」


 運営スタッフの合図と共に、ユキヒツジから列が動き出し、ステージへ入っていく一行。長きに亘るコンテストの審査が終わり、いよいよ結果発表の時間が訪れた。会場と審査員のPPP、運営スタッフが見守る中、参加者が次々と登壇すると、緊迫した空気へと変わっていく。そして、いよいよ末尾の二人が動き出した。


「んじゃ、いこうか~。どっちが勝っても恨みっこはなしだからねー」

「当然なのだ!」



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