第60話 こんてすと 6

 最も脚光を浴びるであろう、登壇の瞬間。

 ヨーロッパビーバーは颯爽と登場し、会場の視線を一気に自分に集中させた。今までのフレンズと比べ布面積が少ない事、そして、複数の衣装を組み合わせている点は特に斬新で真新しい印象を与える。会場も思わずざわついていた。


「これは……、新しいわね」


 マーゲイも会場と同様の反応を見せる。一度、頭の天辺から足の爪先までを見回して、その発想力に称賛の意を送った。


「ヨーロッパビーバーだよ、よろよろ~」

「よろしくね。確かに、ルール上では“複数の衣装を組み合わせてはいけない”とは言ってなかったわね。これは……」


 マーゲイがステージ至近のヘビクイワシに視線を送り、確認を行う。コクリと彼女が頷き返すと、再びマイクに声を乗せた。


「大丈夫みたいね。アイデアはヨーロッパビーバーかしら?」

「もっちろん。さっき思い付いたんだ~。このビキニだけだど、ちょーっと肌寒いなーと思ってねー」


 パッションビキニにサイクルマスター(B)の上着だけを重ね着するという閃き。彼女のこだわりである動きやすさがポイントとなる。両衣装に共通してスマートさが目立ち、更に、色合いを似せる事により別衣装でありながら統一感を出すというテクニック。頭で考え、それを実行する能力は元動物の本能から受け継がれたものであったのかもしれない。正しく彼女の思考力により導き出された新しいファッションテクニックと言った所だ。


「二つの衣装を重ねて纏う……。普段皆さんが着ている服装でも、その様な仕様のものは確かにあるわね……。だけど、別々のものを合わせて着るなんて考えもしなかったわ……」

「直感的なものだったんだよ~。それにこの服なら水にも潜れちゃうから安心なんだー」

「私の服も、誰かの衣装を重ねて着れるということなのかしら……」


 すると、プリンセスが毎度の如くコメントを送る。


「新しい発見ね。素晴らしいわ! 私達がと、同じ様な感動をもらったわ」

「正しくそれだわ。これは、次回のコンテストに大きな影響を及ぼすに違いないわね!」

「えへへ、ありがとー」

「PPPの皆さん、審査審査っ!」


 新しい発見と、生まれた概念に衝撃を受け、作業を止めていた五人が急いで審査を行った。マーゲイの述べた通り、このアイデアは今後のコンテストに多大な影響を及ぼすだろう。多様性即ち、“個性を引き出す手段”の生みの親となりヨーロッパビーバーは先駆者としてその称号を、コンテストの結果とは関係なしに、この時点で手にしたのである。


「マーゲイ、終わったわ」

「了解です。では……、ヨーロッパビーバー。ありがとうございましたー!」

「楽しかったよー。みんな、ありがとうー」


 完璧に近いステージ。

 鮮やかな印象を与えてその場を去る彼女に対し、マーゲイが何かを思い出して引き留める。


「あっ、最後にっ……!! スタッフが意気込みを聞いた際に、誰かのものまねをしてたと聞いたんだけども……」

「あぁ、それはねー。凄く個性の強い私の友達だよー。すぐに解ると思うよー」

「ん???」


『????』


「ではではー」


 そう言い残し立ち去ると、晴れない疑念に、会場がもやもやに包まれた。マーゲイが仕切り直して、いよいよ最後の参加者を呼ぶ。


「さぁ、いよいよこの長いコンテストに終わりが近付いて参りましたー! 最後の参加者だわ。ラスト!! さばんなちほーのトラブルメーカー、アライグマこと“アライさん”!!」


「おぉー! ちゃんと、言ってくれたねー」


 ステージからやや遠めの距離で集まり、イベントを満喫する一行の一人、フェネックが表情を変えずに一声を上げた。


「フェネックさん……、もしかして」

「なるほど、仕込んだのね。この呼び名を浸透させようとしている訳かしら?」


 リカオンが苦しげな表情を浮かべると同時に、オオカミが得意の思考力で察する。


「事前にマーゲイに頼んでおいたのさー。最近は、サーバルに引けを取っているからねー。アライさんには、ミス・フレンズよりもトラブルメーカーの称号のが相応しいと思うんだよー」

「確かにアライさんがミス・フレンズというのは、どうにもしゃくに障るわね……」


 オオカミもそれに同調して、首肯しゅこうしかねた。心根の優しいリカオンだけは二人に反対して、アライさんをかばう。


「二人共、ひどいですよー。ねぇ、アミメキリンさん」

「うーん。どうだろねー」


 スローペースのアミメキリンはステージ上を見詰めて、それに返した。意中の本人は、呼び声に不服を抱きつつ、マーゲイの元へと近寄って行く。


 そして、壇上でキリッと決め顔をした後、手を洗う仕草を見せた。

 その何とも場違いなポーズを見て、オオカミが小さく吹き出す。


「っふ……。あれは……。アライさん、何をしてるのかしら?」

「あー、いつもの癖でねー。時々ああやって手を洗うんだよー。水が無い場所でもねー」


 まるで動物の生態を語る様に、フェネックは淡々と解説を入れた。


「けど、衣装のセンスは中々のものよね……。本当にアライさんが選んだのかしら?」

「………………」


 オオカミが続けて飛ばした質問に対しては、フェネックは無言の姿勢を貫いた。視線をそっと横に逸らして、銅像の様に固まっている。


 一方、ステージ壇上では。


「えーっと……」

「マーゲイ、アライさんはトラブルメーカーではないのだ!!」

「だけども、フェネックがそう言ってくれって……」

「フェネックゥゥゥ!!」


 アライさんの苦渋の叫びと共に、会場が笑いに包まれた。そして、本題の質疑へと戻る。


「まず、意気込みを聞いたわ。アライさん、随分遠くから来たんですって?」

「そうなのだ。最初はさばんなちほーからきたのだ。数日前に大きな光りを見なかったか?」

「私は見てないけど……」


 アライさんの質問に対し、マーゲイはそれに答え、PPPに視線を送る。しかし、メンバー全員がこぞって首を横に振った。そのまま会場の様子も窺う。すると、一人のフレンズが小さく手を上げて、寿司詰めの一列目からひょこっと出てくる。


「ボク知ってるよ……」

「ほ、本当か!?」

「うん」

「後で、聞きたいことがあるのだ。来てほしいのだ」

「分かったよ」


 そう言ってそのフレンズは元の場所へと引き返していった。簡単なやり取りを終え、アライさんもステージ中央へと戻ってくる。


 そして、マーゲイは再び進行を再開した。


「大丈夫かしら?」

「うむ。大丈夫なのだ」


 何も無かったかの様な表情を見せるアライさんに、苦笑いするマーゲイ。


「噂を耳にして、急遽ここへ来たのよね?」

「うむ。リョコウバトから聞いて、丁度、通り道だったから参加しようと思ったのだ」

「ヨーロッパビーバーと同じね。わざわざ遠くから来てくれたのね。ありがたいわ」


 そう言った瞬間。


「「――――!!!!」」


 先程のヨーロッパビーバーの言葉を想起して、会場一体が「成程……」と深く理解した。


「個性の強いフレンズね……。確かに……」

「……? アライさんもこの催しが楽しみだったのだ!」

「ありがとう。それにしても、噂で遠くから来てくれるなんて……。次回はもっと大きな催しになりそうな予感がするわっ」

「そうね。私達ももっと事前にこのイベントの事を多くのフレンズに伝えられる様、努力してみるわ」


 プリンセスが審査をしながら、声を投げた。


「PPPの皆さんの協力はホントに頼もしいわ。恐いくらいに大規模になりそうねっ」


 PPPの影響力に加えて、今回参加したフレンズの多くが土産話に持ち帰る事だろう。そして、話は他のフレンズへと連鎖して伝わり、次回開催の頃合には、今回以上のフレンズが集まるのは明々白々である。

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