第57話 こんてすと 3

 マーゲイの紹介と共に音楽が流れ、ステージ中央にユキヒツジが現れる。


 群がる観客の後方でコンテストを楽しむオオカミが知人の姿に反応した。


「ユキヒツジ!?」

「オオカミさん、知り合いですか?」

「あ、うん……。前に、ゆきやまちほーで髪を切ってもらったんだよ。まさか、出てるなんて思わなかったわ」

「もしかしたら、他にも居るかもしれませんね」

「そうかも……、でもそれは皆も同じでしょ?」

「既に居たんだよねー。裏手でヨーロッパビーバーと会ってさー」

「私は、親友のロスっちが出てるんだー」

「意外と、ジャパリパークって狭いのかしら……」


 ステージ壇上。

 照明があたると、くるりと回って衣装を披露する。


 偶蹄目ウシ科ヒツジ属のユキヒツジ。


 ユキヒツジは未開の地に生息する、希少な固有種のヒツジである。優雅で慎重な性質を持ち、限定的な地域を生息地としている為、遭遇する事は滅多にない。雄雌共に角を持ち、特に雌の角は巨大で巻かれた立派なものへと成長する。体色は白や茶褐色。羊毛を持ち、峻険しゅんけんな山並みや丘に生息している事から敵が少ない。食性は草食性。


 普段から髪を熱心に手入れしており、「髪は女の命」と言い切る程、髪に対してのこだわりを持っている。


 常時の外見は、透明感のある肌に、羊毛の様な毛質の桃色がかった白髪。肌色のふわふわとしたコートにミニスカートを着用しており、雪道を歩ける茶色のブーツを履いている。


 現在はゲストインパーティ(クリーム色)を着て、登壇している。

 スカートの裾がふわりと浮かび、つまみあげて一礼。ドレスアップされた彼女の姿は気品あるものだった。会場も衣装と彼女の容姿に見惚れていた。


『おおぉ……』


「はぁー、いいですねー!! ――ッハ!」


 我を忘れて、普段より数トーン高い声を上げるマーゲイが自らの役割を思い出す。

 スタッフがささっとユキヒツジにマイクを手渡し、忍者の様に去って行く。


「ではでは、お話の方を聞いていきましょう。ユキヒツジ、こんばんは」

「こんばんは!」

「近くで見ると、もっと可愛らしい……、いえ、綺麗ですね」

「ありがとう! マーゲイさんもお勤め御苦労様です」

「いえいえー。意気込みの方、聞きました。お店の宣伝に来たんですって?」

「そうなんです。私、ゆきやまちほーでヘアサロンをやっています。髪を大事にするフレンズの皆さん、是非当店にご来店ください」

「宣伝効果はバッチリですよー! 私も今度行ってみようかしら……」

「えぇ、ぜひ! ヘアケアは怠ってはいけませんよ」


 オオカミが懐旧の情に駆られ、苦そうな表情を浮かべた。ちらりと覗いたその顔にリカオンが反応する。


「??」

「あぁ……、いやね。髪をカットしてもらった時のことを思い出してね。ケアを怠ってるって怒られてしまったんだよ。ユキヒツジは、その点に関しては凄く熱心なんだよね」

「なるほど。私も見てもらいたいな……」


 外撥ねした灰色の毛先を戻そうとするリカオン。フェネックとアミメキリンも、普段は意識もしない自分の髪を無言でいじっていた。


「今回の衣装は、ゲストインパーティですね。何故、こちらを選んだのですか?」

「シンプルだけど、とても気品があって良いなって思ったの。いつもは厚い服装をしてるからとっても新鮮です。後は、私が着てる服の色と似てたからパッと手にしちゃいました」

「あるある……。私も、普段食べ慣れたジャパリまんの味ばかり口にしているもの。類似の物には安心感があるわよね」

「そうなんです~」


 にこやかに答えるユキヒツジを見ながら、オオカミが余談を挟む。


「因みに、ユキヒツジは髪を愛する余りに、他人の髪をすれ違いざまに勝手にセットしてしまう性質を持っているとか……。名付けて――“辻セットのユキヒツジ”!!!!」

「オオカミさんの妄想力も大概ですね……」

「きっと、禁断症状みたいな感じなんだねー」

「フェネック、その通りだよ。しかも、一瞬で完璧な状態になるのよね」

「うーん。それってー、良いのか悪いのか分からないよねー」


 オオカミの妄言にアミメキリンも話に乗っかり、全員が会話に参加した。コンテストを楽しみつつ、話を弾ませていく一同。


「ではでは、採点の方をお願いします」


 マーゲイがPPPに視線を送る。

 PPPの五人は手前に置かれた採点カード内の数字、評価した点数に丸や印をつけていく。参加者に最も近い席に座るプリンセスがPPPのまとめ役だ。全員の審査が終えた事を確認し、プリンセスはマーゲイに合図を返す。


「終わったわ、もう大丈夫よ」

「了解したわ。では、ユキヒツジ、ありがとうございましたー!」

「こちらこそ、ありがとう! 凄く楽しかったです」


 ユキヒツジは審査員席とステージ正面に向けてペコリと一礼をし、その場から去って行った。こうして、一人目のコンテスト一連の流れを終えたのである。


「ではでは、次に参りましょうー!! エントリナンバー2……」


 そして、マーゲイが次の参加者を登壇させるべく、呼び込む。


 その一方、ステージの裏手ではライバル関係にある参加者の二人が再会を果たしていた。


「久しぶり~。さっき、準備室で姿が見えてさー。アライさんが外で話してる間に、フェネック達と喋ってたんだー」


 気さくに話し掛けるヨーロッパビーバー。


「お前も出てるなんて……。まさか、ジャパリコインが目当てか?」

「もちろんだよー。珍しいモノは私のモノだからねー」

「ぐぬぬ……。お前には渡せないのだ!! あれはアライさんの物なのだ!!」

「そうはいかないよ。あれは私の手中にあるべきモノなんだから!!」


 そして、ここでも参加者同士が敵対心を向け合う場面が見られた。再会の喜びに浸るより先に、目の前の競技で敵に向き合う方が実にけものらしい本能と言えるかもしれない。アライさんもヨーロッパビーバーも互いに譲る気は一切ない。それでこそ、競技の楽しみが増すというもの。その醍醐味である。

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