第55話 こんてすと

 言わずと知れたアライさんである。

 いつもと違う服装で一同の前に出てくるが、皆がこぞってイマイチな表情を浮かべていた。


「「「「…………」」」」


 まず、服装云々を語るより先に、服を着こなせていなかった。だぼだぼのシャツに、無意味に巻かれたネクタイ。別衣装から取ったニットキャップを片耳に引っ掛け、ズボンの裾を床に引きずりながら歩く。何とも可笑しな形姿なりかたちである。見かねたフェネックが溜め息を一つ溢して近付く。


「アライさーん、ちょっとこっちに……」

「どうしたのだ? フェネック」

「いつもと全然違うじゃないかー。ちゃんと着れてないって、気付かなかったのー?」

「確かに……。どこかおかしいと思ったのだ……」


 二人は準備室内の更に仕切られた空間へとその場から去る。フェネックがアライさんを手助けし、コーディネートに加わった。


「あはは……。まぁ、斬新なファッションってやつー?」

「ショウジョウトキも実は着替えるのに時間が掛かりました(ドヤァ)」

「なんでドヤ顔なの……。しかし、私もそうですわね。普段、着替える機会が少ないですから、難しく感じました」

「うーん、確かにね~。私もそうかな。色んな衣装に見惚れちゃってー……」


 既に着替えを終えた参加者三人が「あるある」と数回頷く。


 仕切られた空間の中でも、会場の反応はそこまで届いていた。静寂と笑い声が交互に響く一帯。どうやら漫才は好調の様だ。コンテストに参加する数字の若いフレンズ達が、スタッフに一人ずつ呼ばれて、外で聴取を受けている。


「次。ヨーロッパビーバーさん、居ますかー?」

「はいはい~。今、行きますよー」


 フレンズ達の間を抜けて、ささっと室内を出るヨーロッパビーバー。


 準備室の外。


「まず、今回のけものフェスですが、どの様にして知りましたか?」


 スタッフは次回開催に備えて予めこの様な方法で情報収集を行っている。参加者、そして、会場に集まったフレンズ達から多くの意見を聞き取っているのだ。その資料のまとめ役は勿論、ヘビクイワシである。そして、次のけものフェスティバルを更に良いものにしようと終演後、試行錯誤する事であろう。


「私は、友達のリョコウバトから聞いたよ。面白い催しがやるってねー」

「なるほど。コンテストにはどうして参加しようと思ったのですか?」

「そうだね~。面白そうっていうのもあるけど、やっぱり“ジャパリコイン”かな。私、珍しいモノを集めるのが趣味なんだ」

「ふむふむ。つまり、優勝賞品欲しさにってことですか」

「うん、そうなるねー」

「では、簡単に意気込みをお願いします」

「ジャパリパークの珍しいモノは全て、私のものなのだ!!」

「えーっと、ありがとうございます。口調が変わりましたね……」

「友達の真似だよ。似てたかな?」

「えーっと……、誰ですか?」

「すぐに判ると思うよー」

「???」


 そう言い残すと、ヨーロッパビーバーは準備室内へと戻っていった。


 ステージ表側では、既にツリーボアズが漫才を終えて、裏側へと戻ってくる。緊張から解き放たれ緩み切った笑顔でお互いに意見を交わしながら移動をしていた。


「めっちゃ緊張したわ~」

「お客さん沢山笑ってくれましたね。アマボアのツッコミ、冴え渡っていましたわよ」

「温かかったわー。……ん? あたしがツッコミなん? あれ……」

「今は休憩しましょう。はい、ジャパリまん」

「そやな……。おおきに」


 演目は二つ終了し、残すはメインイベントであるコンテストのみとなる。現在はコンテストの準備を兼ねての休憩時間。ラッキービーストが配給するジャパリまんは次々と無くなり、運営スタッフは大忙し。慌ただしい様子が窺える。


 マーゲイとヘビクイワシはステージ至近の裏側で手順の打ち合わせを行っていた。そこへPPPを代表してプリンセスが加わり、ルールの確認を取っている。


 一方の準備室内。

 次々にコンテスト参加者達の意気込みを聞き、残すは締め切り間近でエントリーを行ったアライさんのみとなった。運営スタッフがその名を呼ぼうとした時、勢いよく彼女は現れた。


 キリッとした表情で、スマートな服装を纏う。その様子から常時のアホ面は連想出来ない程、ギャップのある衣装選びであった。コーディネートをしたフェネックも自慢げに一言。


「これは良いんじゃないかなー?」

「待たせたのだ!!」

「あっ!! では、アライグマさん! そのままこちらにお願いしますー」

「了解なのだ!!」


 団子になったショウジョウトキ達の横を通り過ぎ、そのまま室外へと向かうアライさん。その時、一人の顔馴染みとすれ違う。そのフレンズはそのままフェネックの方へと近付き、再会の一声を掛ける。


「やあやあ、フェネックー。久しぶりだね~」

「んー? おぉー、久しぶりー。いつもと服が違うから気付かなかったよー」


 先程、聴取を受けていたフレンズ、ネズミ目ビーバー科ビーバー属のヨーロッパビーバーである。


 主に河川や湖などの周辺の湿原に生息。体長は約100㎝程で水中生活に適応したオールの様な尾と水かきのある後足を持つ。体色は茶色で、毛皮は水をよく弾く。草食性で木の皮や草など食べ生活をする。最大の特徴は丈夫な歯で、これを利用し木などを齧り倒し、自らの住処周辺の環境を変化させる。この様な特性を持つ動物はヒトとビーバーのみと言われている。因みに本能的な行動である為、これ等は教わらずとも出来る様になり、器用な手と立派な歯を使い、ダムや巣などを作り上げる。


 性格は好奇心旺盛でモノ集めを得意としている。珍しいモノを集める点などは博士や助手と似た性質とも言える。誰にでもフレンドリーで顔見知りの多い、活発的なフレンズだ。


 普段の外見は灰色の長袖パーカーを覆い、中にシャツとネクタイ、短い茶色のホットパンツに黒のスパッツを着ている。髪型は灰色のショートヘアーで一部が外跳ねをしており、目の色は黒。平べったい尻尾は短くなって生えている。


 現在の服装はパッションビキニ。活発的な彼女にぴったりの健康的でちょぴりセクシーな水着である。


「どうかな~。可愛いかなー?」

「うん。良いんじゃないかなー、攻めてるって感じでー」

「相変わらず表情が代わり映えしないねー、フェネックは」

「うーん。そんなことないさー」


 二人は団子になったフレンズ達の所へ加わった。


「それ、キラキラだね~。ロスっちよ。よろしくね~」

「コモモです。よろしくお願いします」

「ショウジョウトキは赤くて綺麗(ドヤァ)」

「ヨーロッパビーバーだよ、よろよろ~」


 簡単な挨拶の後、参加者同士の小さな交流が始まり、皆は談笑していた。

 そして、緩んだ空気の中に、スタッフからの号令が掛かる。


「では、参加者の皆さん。室外へ並んで下さいー。配られます番号札を体のどこかにくっ付けて待機の方をよろしくお願いしますー」


 そして、参加者達がぞろぞろと準備室を後にしていく。皆が室内から外へ出るとフェネックとアミメキリンだけがその場に取り残された。


「せっかくだから一緒に見ようよー。あっちで待ってる子達が居るからさー」

「うん。ありがとー。じゃあ、しゅっぱつー!」


 こうして、二人はリカオン達と合流するべくステージ表側へと向かう。ステージ壇上には既にマーゲイの姿があり、手持ちのマイクに電源を入れていた。

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