第48話 へいげん

*


 夕暮れ時へと差し掛かり、風が冷たくなり始めた。

 それでも、へいげんの気候は穏やかで、日較差の大きいさばくちほーと比べると幾分も過ごし易い環境にある。平坦な野原が続くこの区域は、人の住みやすい場所であり、人工物がいくつも見受けられる。これ等は勿論、ジャパリパークのアトラクションの一つであり、今は人の手が触れられていない放置された建造物や製作物である。しかし、それ等は決して特別なものではない。そう、このちほーだけがこういった状態にある訳ではないのだ。他のちほーでも同様である。


 人々が造り、残した数々の遺物。嘗ての人間の面影と、そこに残ったヒトの熱は、時間を重ねてゆっくりと消え始めていた。物事は知覚し認識して初めて、そのものを正確に捉える事が出来る。それは逆もまた同じであり、現状が今後も変化しなければ、ヒトはいずれその存在を忘れられ、この小さな世界の中で必ず絶滅するだろう。


 人との関わり。

 多くのフレンズが既にその記憶から遠退いているのも、また事実。最後に関わった二人のフレンズも決して例外ではないのだ。


「なんとか間に合ったのだ……」

「いやー、一時はどうなるかと思ったよー……」


 朝から移動を続けたアライさんとフェネック。

 紆余曲折を経て、通過地点かつ目的地のへいげんへとやってきた。リョコウバトの話では夕方頃に開催されると耳にしていた訳なのだが。


「二人が助けてくれてなんとかここまで来れたのだ……」

「セルリアンとの縁、どうにも切れそうにないねー。困ったものだよー」


 こはんを抜けてへいげんに入る途中の事だ。

 アライさんとフェネックは、小型セルリアンに囲まれ、危機に陥っていた。そんなピンチを助けてくれたのは、近くを通り掛かった二人のフレンズ。


 鯨偶蹄目シカ科シカ属のションブルクジカと、鯨偶蹄目キリン科シバテリウム属のシバテリウムであった。


『フレンズの消失は美しくはない……。その危機も、パークの平和も我が守ろう』

『善意こそ、我、迷いからの脱却への兆し。彷徨える者に救いの光明を……』


 戦闘慣れした二人が助太刀したおかげで、事無きを得て危機を脱したアライさんとフェネック。


「戦いも凄かったけど、二人共、なんだか貫禄があったのだ」

「そうだねー。アライさんにしては、とても真面なこと言うじゃないかー。きっと、私達より遥か昔に生きていたんじゃないかなー」

「先輩って感じだったのだ!」

「言ってることも難しいことばっかりだったしねー。『誇り』とかー、『迷い』とかー、『名前』とかねー」

「さっぱり分からないのだ!!」

「あれは理解しなくてもいいと思うよー」


 その後、二人はシマリスやタスマニアデビルに道を訊き、迷う事なくこの地点に到達する事に成功した。しかし、それらしき会場が見当たらない事に若干の焦りを覚える二人。


 一区域と言えど、ジャパリパークは広大である。へいげん全てを周っていたら確実に日が落ち、既定の時間は過ぎてしまうだろう。正確な位置が分からない以上、勘を頼りに進む他ないのだ。


「にしても、困ったねぇ……。近くにフレンズが居れば、聞いて解決するんだけどなー」

「こういう時に限って居ないのは、お約束なのだ」

「アライさーん、お約束で困るのは私達なんだからー」

「こういう時こそ、アライさんにおまかせなのだ!」

「うーん……」


 『アライさんにおまかせなのだ!』この言葉を最も耳にしているであろうフェネックの推測では、事が上手くいった成功率は大まかに50%といった所だ。これはフェネックの経験上から計ったものであり、他所での発言に置いては除かれるものとしている。あまり余裕の無い状況ではあるが、他に手掛かりもない為、フェネックもそれを渋々受け入れた。


 そして、移動する事数分。

 辿り着いたのは生い茂る竹林の道。


「こっちなのだ!!」

「大丈夫かなー?」

「まかせるのだ!!」


 徐々に竹の本数が減っていき、人の手が加えられたであろう開拓地へと辺りが変化していた。敷き詰められた石畳の道に、武家屋敷の様な壁。そこは和を思わせる空間である。そして、一際目立つ城の天守がオレンジ色に染まり、聳え立つ。


 すると、遠方から響く様な音が聞こえ、二人はそれを聴取した。


「おぉー、凄いや、アライさん」

「これは間違えなさそうなのだ!!」


 音の詳細はマイク音であり、催しの司会を務めるフレンズがテストで発した声であった。声の方向へと近付く二人。接近する毎に、多くのフレンズの気配を感じ取っていた。


 ボンッ、ボンッ。

 マイクが正常に動いている事を確認する一人のフレンズ。


「テステス……、うう゛ん! 大丈夫そうですねっ!!」


 興味本位や、催しがあると噂を耳にしたフレンズ達が一挙にその場に押し寄せており、数は今までにない程の集まり様であった。会場には野外のステージがあり、審査員席や、照明までもが配置されている。フレンズの数が多い為か、ラッキービーストがその場に居り、ジャパリまんを籠に入れ配付している様子が見受けられた。


 ラッキービーストとは、ジャパリパーク内において施設内の案内や解説などを行うパークガイドロボットである。小動物の様な異質な形態を持ち、無機質な声を発する。フレンズへの干渉は極力避けている為、普段声を出す事はない。多くのフレンズから“ボス”の愛称で呼ばれている。


「おぉー!!」

「結構、居るねー。で、アライさんは出るの?」

「当然なのだ!!」


 この場に居るフレンズの殆どが観客側になる訳なのだが、アライさんは最初からコンテストに出るつもりでこのへいげんへとやって来た。その目的は優勝賞品である“ジャパリコイン”を手にする為である。

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