第38話 ゆめ 2

 そして、オオカミはアライさんに問う。


「アライさん、どうすればいい?」

「アライさんをユメリアンの石の所まで連れて行ってほしいのだ」

「分かったわ。それで、どうにか……、なるのね?」

「必ず、成し遂げるのだ!!」


 一同が一つ、頷き合う。

 それは信頼の表情そのものであった。

 そして、オオカミが緊迫感の増す忠告をする。


「皆、分かってると思うけど、次はないと思ってね。これが最後のチャンスよ!!」


 より引き締まった空気感が辺りを支配する。


 その時。


「蹴散らすわ!!」

「――――――!!!」


 一声と共に、空を駆ける光りがユメリアンの上部の足に斜めに入り込むと、その大型の巨体が悲鳴にも似た声を出し、ひるんだ様子が見て取れる。それと同時に、その巨体から欠損した部位が地面へと落ち、下の小型セルリアンを下敷きにした。


 驚愕する敵とアライさん一行。

 ハクトウワシの攻撃が、あの驚異的な敵の大足を切断したのだ。


「レッツ・ジャスティス!!」


 よろめく敵をその場に残し、急接近してくるハクトウワシ。


「ハクトウワシ!! 本当に……、凄いわ」


 オオカミが一声掛けた。

 ハクトウワシは飛行したまま、着地せずに焦った顔色で情報を告げる。


「オオカミ、時間がないわ。あのユメリアン、夢の力でゆっくりだけど、再生してるみたいね」

「――っ!?」


 同じ表情を浮かべる一同。リムガゼルが皆の胸中を代弁した。


「そ、そんな……」


 ハクトウワシの情報に一同が唖然とする。絶望的な状況に更に、上塗りされる絶望。決死の思いで、与えた二撃が無駄になろうとしているのだ。


「絶対絶命とは、正しくこの時のためにある言葉かもしれないね……。だけど……」


 ヘラジカが言葉を途中で切る。その視線は皆に向けられていた。そして、オオカミが誓いにも似た言い様で続きを発する。


「諦めない!! かしら?」


 返事はなくとも、皆の表情から満場一致の意志が伝わってくる。ハクトウワシは一同の様子に安堵し、戦友達を信じる事とした。


「良かったわ。まだ心が折れていない様ね。レッツ、ネクスト・ジャスティス!!」


 飛び立とうとするハクトウワシに、リムガゼルが勢いで疑問をぶつける。


「ハクトウワシさんっ! ……何故、それ程までに強くいられるのですか?」

「そうね。私は別に、自分を強いとは思わないわ。ただ、私の正義がヒーローで在り続けることを強制しているのかもしれない。誰かが守らなければならない笑顔があり、その仲間が居て、私にはその力が与えられた。それだけで理由は充分だわ」

「……っふ。私でもハクトウワシを止めることはできそうにないな」


 旧友であるオオカミが、そのいさぎよい言葉に思わず笑う。


「ハクトウワシの気持ちは凄く伝わったよ。これで、私もより一層、戦う意志が固まった」

「ヘラジカ、あの一撃を受けてまだ戦えるなんて……」

「それはお互い様だろう? 自分の姿を見てみたらどうだい?」

「それも……、そうかもしれないわね。だけど、理解者が居るというのは嬉しいものね」

「なかま、なのだ!」

「いや、戦友ですよ(ドヤァ)」

「ふ、フレンズですっ……!」

「全部、似た様なものだろう?」


「「「「「「……、あはははは」」」」」」


 つまらない言い合いで緊張した場面が変化する。

 笑い合ったそのフレンズ達の友情は既に他者のものではなくなっていた。元々、同じジャパリパークに住む者として、そこから、同じ事態に遭遇した者として、そして、最後に仲間として、その笑顔を分かち合う。


 そして。


「もう迷いはない。この笑顔が最後にならないように、戦い抜くわ!!」

「そうね。オオカミ、先に戻るわ。あなた達を信頼してる!!」

「無理はしないでね……、とは言えないかしら?」

「ノープロブレム!!」


 ハクトウワシは少しばかりの休憩と情報を告げ、再び戦場へと帰還していく。


「さぁ、皆、続くよ!!!!」


 一同はユメリアンへ向け、疾走する。

 前方にはじわりじわりと接近していた小型セルリアンの群れが障害となっている。


「オオカミ、ここは私達が引き受けよう。リムガゼルッ!!」

「はいっ!!」


 ヘラジカとリムガゼルが先陣を切り、武器を取り出す。ヘラジカの武器は片面だけの一刃いちじん槍へと変わっていた。しかし、もはやそれだけで充分であった。武器として成しているのなら一つの道は切り開ける。


 そして、二人が槍を構えた。眼光を発すると同時に、勢い良く刺突する二槍。


「やあああああああ!!!!!!」

「やぁーーーーーっ!!!!!!」


 前方の敵を吹っ飛ばし、ユメリアンへと道が開いた。ヘラジカが片膝を地面に落とす。サンドスターが消費が激しく、溢れ出ていた。先陣を切った二人を追い越し、走り抜ける三人。背を押す様に、ヘラジカとリムガゼルは声を発する。


「そのまま、行ってくださいっ!!!!」

「皆、頼んだよっ!!」


 振り向く事なく、その声を聞き取った三人が更に疾駆し、ユメリアンへ迫る。しかし、残存する小型セルリアンが此方の接近に気付き、左右斜めから襲い掛かってくる。すると、アライさんとオオカミの後方から、その赤が一気に最前へと飛び出てきた。


「戦闘は苦手ですが、ここは私が引き受けますよ(ドヤァ)」


 その言い様に、続く二人は頷き合い、追い越しと同時に言葉を掛けた。


「頼むのだっ!!」

「今日のショウジョウトキはとても綺麗だわ!!」


 しかし、追い越そうとした二人にいかり型セルリアンが遠方から攻撃を仕掛けてくる。


 ――バンッ!!


 それをショウジョウトキは飛行しながら、足を振り下ろし、防いでみせた。


「“今日の”ではなく、“いつも”ですよ。オオカミ、アライさん!!」


 そして、ユメリアンの攻撃範囲、至近にまで辿り着く。上空ではハクトウワシが上部の足に四苦八苦しながら、ユメリアンの意識を自分へと集中させていた。地上を見下げるハクトウワシとアイコンタクトを交わすオオカミ。相手の攻撃範囲に入り込み、目的の場所までもう少しの距離まで迫るが、最後の難問。足元付近の小型セルリアン二体が二人の存在に反応した。


「――――――!」

「くそっ……。アライさん!」


 オオカミがアライさんに近付くと、その体を持ち上げて野生解放する。


「少し粗いけど、我慢してねっ!!」


 アライさんは何かを探して、辺りを見渡し、目を泳がせていた。


「オオカミ、あそこなのだっ!!」


 何もない場所を指差すアライさん。それはユメリアンの弱点である石から少し離れた地点であったが、オオカミは構わず全力で投げ飛ばす。


「いけええええええ!!!」


 吹っ飛ぶアライさんが小型セルリアン達の上空を抜け、地面へと転がる。


「ぐえええ……」


 軽く負傷したアライさんは思わず変な声を出す。それと同時に戦闘を始めたオオカミ。ヘラジカが削った突出部は確かに、ゆっくりと再生を始めていた。周りから小さな光りを吸収して、体の修復を行っているのが見て取れる。狭まる急所に、ヒビの入った弱点。跳躍力の高いフレンズであっても、あの地点には届かない。高速飛行を得意とするハクトウワシですら、その上部の足に阻まれ、接近する事が困難である。ハクトウワシとショウジョウトキの上空での挟撃の可能性は考えられた。しかし、現状でそれをやるにはリスクが高く、配置までの時間で体を修復される確率が高い。


 アライさんにはこの一手しか考えられなかった。この夢を終わらせる、最後の手段。持たざる者が持ち得た、努力の結晶。地面に落ちた石を掴んで、初めて目を光らせる。黒色の眼光がユメリアンの弱点を捉えた。


「これで、終わりなのだっ!!!!!!」


 ――投擲。

 全力で投げ付けたその石が光りを纏いながら、ユメリアンの弱点へと着弾した。ヒビの中心部に入り込み、次第にその亀裂が広がる。


「――――――!?」


 すると、全てのセルリアンの動きが止まった。


「――!? ワッツ!? やったの?」


 パリーーーッン!!!!

 ユメリアンが消滅すると、次々に小型セルリアン達も消えてなくなり、辺り一帯は大きな光りに包まれた。倒れたアライさんの元へオオカミが近付いてくる。


「アライさん!! やったよ!! あんなことが出来たなんて……」

「これも……帽子さんのおかげなのだ……」


 ぐったりとしたアライさんはサンドスターの消費により、体力を消耗し、ゆっくりと眠りについた。後方ではリムガゼルとヘラジカ、ショウジョウトキが合流し、互いに歓喜の声を上げている。


 敵の消滅を確認したハクトウワシの緊張の糸が切れ、上空から落下してくる。

 それをオオカミが地上で受け止めた。


 ドサッ!!


「ソーリー……。もう限界みたいだわ……」

「それはそうよ。あれだけ戦ったのだもの」

「アライさんは……?」

「もう眠っちゃったみたい。多分、これで終わるのでしょうね」


 ピンクの世界が光りを散らしながら崩壊していく。再び眠りについた時、この世界は終わりを迎え、今までのジャパリパークに戻るのだと、オオカミには理解出来た。ハクトウワシがおかしな事を言い出した。


「オオカミ……。これは、フレンズ達の夢なのかしら? もしかしたら、セルリアンも同じ夢を見ていたのかもしれないわね……」


 オオカミはハクトウワシを抱えたまま、不思議なこの現象を目に焼き付けた。そして、返答する。


「それは……、確認しようがないね。いつか、セルリアンが私達との対話の手段を得られたのなら……」

「すぅー……。すぅ……」


 会話の途中で、最も活躍したハクトウワシも体力の限界に達し、アライさんに続き眠りに落ちた。その後、夢の世界に閉じ込められたフレンズ達は次々と、“元”の眠りへと戻っていった。オオカミも、そのまま地べたに倒れ込み、最後にこの世界に言い捨てた。


「おやすみ……」

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