第36話 やくわり

 ユメリアンの強力な一撃を受けてもなお、再び天へと駆け上がり、その翼を大きく広げた。それは彼女の正義そのものを体現した姿であったのかもしれない。彼女にとっての行動原理が、その心理が、また空へと体を押し上げたのだ。


「イーグルアロー!!!!」


 疾駆しっくする閃光。

 ハクトウワシの白い目が空に、迂曲うきょくと直線を描く様にきらめく。それと同時に、野生解放を続ける彼女の体からはサンドスターの放出が見られた。これ以上の消費はフレンズとしての、生命活動に危険を及ぼす可能性がある。


 ユメリアンの気がハクトウワシに集中した所で、その隙に敵の攻撃範囲から逃れた三人。すると、その地点にリムガゼルを抱えたショウジョウトキが合流する。


「なんとか……、離脱は出来ましたね」


 息を上げるショウジョウトキ。地上に降ろしたリムガゼルも先程の攻撃により負傷していた。


「ヘラジカ……、さん……」

「リムガゼルか。すまない……。大丈夫だよ……それよりも……」


 それ以上の重傷を負うヘラジカ。

 ユメリアンの最も攻撃力の高い足での一撃をまともに受けたのだ。それでもなお、身が一つ残っているのは、ヘラジカのタフさのおかげという訳だ。


 一同は至近の戦場を見上げた。

 今もなお、ボロボロになりながらも戦う勇士の、フレンズの、仲間の姿がそこにある。


 戦闘により小型セルリアンの数を減少したものの、残りの数体が無秩序にこちらへゆっくりと向かってくる。再び決断を迫られるオオカミ。しかし、先程と比べて無駄な迷いは何一つない。


 その吹っ切れた様子に、アライさんもヘラジカもオオカミが出す答えに察しがついていたのだ。


「最後までバカを貫こうかしら……。まったく……」

「オオカミさん……、何か案があるのですか……?」

「あるわけないでしょ。正直、想定内の最悪の状況が“今”ってわけよ。皆が消えてないのが唯一の救いね」


 行き詰った状況は未だ続く。

 アライさんは思わず、いつもの様に呟いた。


「フェネック、何かないのか……?」


 当然、返答はなく横には相棒の姿はない。

 アライさんは彼女の存在を想う。この冒険での道中も、ピンチはいくつもあったはずだ。そんな時、フェネックは何をしていただろう。どうして、いくつもの危機を乗り越えられてきたのか、と。


 それはフェネックが自分の役割を果たしていたからである。

 フレンズには得意、不得意が存在する。それは人間であろうとも、変わらない。

 そして、自分の得意とすること。つまり、果たすべく事を、果たさなければならない時機に確実に行っていたのだ。


 フェネックは戦闘よりのフレンズではないが、その分、少しだけ思考が優れている。それは橋やさばくでの戦闘に加え、過去に多くのフレンズとの関わりにより、更に学習し、今もなお向上している。


 この場に置ける、アライさん以外のフレンズも、自分の果たすべき事を確実に行っている。オオカミはその知性を活かし作戦を立案、ヘラジカはそのパワーとタフさを活かし、先陣を買って出た。その他もフレンズもそうだ。皆が出し惜しむ事なく、自分の役割を果たしているのだ。


「ぐぬぬぬぬ……」

「アライさん?」


 アライさんが悔しがる。正確には、自分の思考が正しいかどうか判断が付かない事への苛立ちである。フェネックが居れば、確実にその問いを飛ばしていただろう。そして、その次に答えを聞く事で、改めて迷いなくその行動を進められるのだ。


「はっ――!」


 そして、その代役が居る事にアライさんは遅れて気付いた。

 オオカミ。彼女の思考力はフェネックの代役として完璧に務まると考えたのだ。


 因みに、正確にはオオカミの知性はフェネックを上回っている為に、アライさんが考える完璧以上の存在に当てはまる。


「オオカミ! 今は、仲間の危機か?」

「見ての通り、大ピンチね」

「本当に、本当に、ピンチなのか?」

「……? そうね、本当に、本当に、ピンチな状況ね」

「分かったのだ。ここは一つ、アライさんに任せてほしいのだ」

「え?」


 過去の約束に縛られ、使う事を躊躇ためらい続けた最後の武器。

 しかし、現状を理解する事でその条件が満たされた今なら、アライさんは仲間の為にそれを使うのだ。

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