第734話史のマネージャー鷹司京子(4)

由紀がカフェ・ルミエールのドアを開けても、店内に史はいない。

奈津美

「史君は華蓮ちゃんと京子さんと下のホールに行ったよ」

結衣

「聞いてなかったの?」

「それについて、洋子さんも」


由紀は、残された三人の不満顔を即理解。

「私も行く」

「・・・ったく・・・史は自分勝手」

「それを認める人も、呆れる」

などと言いながら、ドタバタと下のホールに向かう。



一方、下のホールでは史がバッハを弾き、京子、華蓮、洋子が聞いている。

京子

「うん・・・すごい・・・心に沁みる」

華蓮

「ねえ、リサイタルしようよ、計画して」

洋子

「夜にして、店終わってから来る」

華蓮

「そのあと、囲んでお食事?」

京子

「それもいいなあ、マスターに作ってもらって」

洋子

「録画して店のモニター大画面で流そうかな」

華蓮

「でもさ、店にもピアノあるしさ、それでライブでもいい」

京子

「史君の音楽つきディナーとか?」

華蓮

「そうなると店にもいいね」

洋子

「昼間でもいいかなあ、それ・・・ケーキと史君のモーツァルトとか」

・・・・様々、史のピアノを聴きながら計画を話し合っていると、由紀が入って来た。


京子は、すぐに気がつき、立ち上がった。

「お久しぶり、由紀ちゃん」

由紀は「ハッ」とした顔。

「はい、お久しぶりです、これから史がお世話になります、よろしくお願いいたします」

キチンと深くお辞儀。


京子は、由紀の手を握る。

「あの洋館に私も住むと思う」

「史君と同居は幸せ」


由紀は「うっ・・・」となるけれど、言い返せない。


すると華蓮が、フフッと笑う。

「私も、住んじゃおうかなあ、部屋空いているよね」

京子も笑う。

「財団の保有にして、社宅扱いもいいかも」

洋子まで、その話に乗って来た。

「私も、同居したいなあ、それは面白そうだ」


まったく言い返せない由紀に京子は、真顔。

「これから、史君は財団の芸能団体の大切にしなければならない演奏家なの」

「だから、史君の心身のケアを丁寧にしなければならない」

「特に、ピアニストにとって、指は本当にケアしないといけない」

「力仕事とか、家事もあまりさせたくない」

「もし、怪我でもしたら、演奏できない、商売にならない」

「一族全体が、つまらない思いをすることになる」

「それと、史君に期待する音楽関係者とか、ルクレツィアさんとか・・・」

「将来のこともあるしね」


由紀は、ますます言い返せない。

「・・・私・・・力仕事も家事も、史に任せっぱなしだったし」

「それ・・・やばかったかも」


華蓮は、京子の言葉と由紀の表情を見比べて思った。

「京子ちゃん、まさに正論を通す」

「感覚で動く由紀ちゃんには天敵かな」


ステージでは、その様子に気づいた史が、心配そうな顔。

演奏を途中でやめて、ステージから、降りてきてしまった。




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