第718話史の引っ越し準備(1)
高校生としての全ての試験も終了し、史は3月卒業式終了後は、大旦那のお屋敷の洋館に移る予定。
そのため、少しずつ、荷物の整理を始めている。
「着る服は、コンサート用は、新しく作るのかな」
「普段に使う服は、少しこの家にも残そう」
「何かあって、泊まる時に何にもなくても不便だから」
「高校生で使っていた教科書とか参考書は不要」
「ノートも処分」
そこまで考えて、今後住む洋館を、もう一度確認する必要があると思った。
「本棚、机、いす」
「たんすは、備え付けのがある、大きいからあれで十分」
「ベッドはすでにある」
「冷蔵庫、洗濯機、レンジ、みたいな電化製品」
・・・・・
いろいろ考えて、大旦那に連絡。
「今度、もう一度部屋を確認したいんです」
大旦那は、簡単。
「ああ、いいよ、鍵も渡しておくよ」
「欲しいものがあれば、こっちで揃える」
「多少古い、広いけれど古いから」
「冷暖房と水回りは、最新式」
「部屋だけで4室、全て十畳間、どう使ってもいい」
史は、
「ありがとうございます、明日にでも」
大旦那の声がいっそう、明るい。
「ああ、いつでもいいよ、待ってる」
奥様に変わった。
「ピアノは、母屋から動かそうかと」
「滅多に使わないし、加奈子ちゃんも弾かないから」
史は恐縮するばかり。
「ありがとうございます、至れり尽くせりで」
奥様は笑った。
「何を言っているの?やがては史君たちが管理する屋敷なの」
「史君は先発隊で、来るだけ」
そして、声を少し落とした。
「由紀ちゃんにも、そう言いなさい」
「それでも何か言ってきたら、私が由紀ちゃんと話をつけます」
史は、グッとその言葉が、心に響いた。
「ありがとうございます」
それぐらいしか、言えない。
また、大旦那に変わった。
「大切な伝統は残しつつ、変えるべきところは、変えて欲しい」
「家は美術品ではなく、使えなければ仕方がない」
史は、電話を終えて、母美智子にその旨を告げる。
美智子は、すぐに納得。
「うん、まずは部屋の点検をしてきなさい」
「長らく暮らすかもしれないから」
そして、一言付け加えた。
「史一人で、行きなさい」
史の顔が、引き締まった。
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